2521 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

『きっとあの漫画のせい』は大傑作だ

SHISHAMO宮崎朝子の歌詞の美しさ

いまやお茶の間的な存在になったSHISHAMO。
その人気の理由のひとつは、宮崎朝子が書く歌詞が、若い女子の共感を呼ぶことだろう。

私は大学2年生の男で、SHISHAMOのメインのファン層である10代女子からは外れてしまう。
そのため、女子目線の恋愛模様や”女の子”を描いた歌詞に共感するということは、残念ながらあてはまらない。

しかし、私は彼女が書く歌詞が好きである。
それは、彼女の書く歌詞が、非常に詩的で「美しい」からだ。

彼女の詞は、どちらかと言えばその内容面で注目されることが多いように思うが、その情景描写や繊細な心模様の描き方は非常に優れていて(上から目線のようだが)、それだけで心をくすぐられてしまう。

そんな私が思う、彼女の最高傑作は『きっとあの漫画のせい』だ。
ギターのリフが印象深いSHISHAMO随一のカッコいい曲であるが、それ以上に、その詞の美しさ、完成度の高さに私は痺れる。
内容としては、「主人公の女の子が彼氏と別れた(おそらくフラれた)心情が描かれた歌詞」ということになるが、その描き方が秀逸なのだ。

その素晴らしさを伝えるべく、解説をしてみようと思う。

———————————————————

<もうなにもしたくなくなった 気力が全部溶け出した
 汗水流して働くのも 満員電車に乗るのも>

いかにも最近の若者らしい、そして歌い出しとしては十分すぎるキャッチーなフレーズで心を掴まれる。
 

<もうなにもしたくなくなった 全部突然嫌になった
 なんだか今時の若い娘っぽいだなんて 我ながらに思いながら>…

「いかにも最近の若者らしい」と冒頭思ったことをすぐになぞられる。
この感覚が何回聴いてもなんだかくすぐったい。
そしてその自らの若者らしさを冷静に、客観的にみている主人公。
 

…<我ながらに思いながら この前借りた漫画を読む
  こんなに気分が落ち込むのは 別に、君が煮え切らないからじゃない
  うぬぼれないでよ>

もうなにもしたくないこのどん底な気分は“別に、”君のせいじゃない。
君のせいで落ち込むほど、アンタは私にとって大事な存在じゃないんだから。
そう突き放すBメロ。
 

<きっとあの漫画のせいだな サブカル女子が好きそうな短編集
 きっとあの漫画のせいだな 今夜は嫌な夢を見そうだから 目はつむらないよ>

漫画のせいで落ち込んでいるのだという力みのない歌詞。
<サブカル女子が好きそうな>と、ちょっと皮肉っぽい、冷静さを確かめるようなフレーズを挟みつつ。
でも繰り返していると、本当はただの強がりで、自分にそう言い聞かせているだけじゃないか?とも思えてくる。
短いなかに、冷静さ、強がり、そして弱さが見え隠れするサビ。
 

<今も私があなたを想って泣いてるなんて思うの? 笑わせないでよ>

ざわめく心を描写するような間奏の後のこの大サビ。
強く突き放す言葉から、裏を返すように、彼女の強がりがここではっきりとわかる。
そしてその強がりがピークに達すると同時に、決壊寸前である。
ギリギリに追い詰められたところで思わず笑いがこぼれてしまうような、そんな究極的な心理状態が宮崎の歌唱力によっても際立たせられる。
 

<きっとあの漫画のせいだな サブカル女子が好きそうな短編集
 きっとあの漫画のせいだな 今夜は嫌な夢を見そうだから>

サビの繰り返しであるが、大サビの後でのこのサビは、同じ歌詞でも感じられ方が違う。
決壊しかかっている心理状態の中で、なんとか冷静さ、そして強がりを保とうとするような。
 

<あなたにされたひどいこと そんなの全部忘れたわ
 あなたに言われたひどいこと そんなの全部忘れたわ>

なおもまだ強がりは尽きない。
あくまで君のせいではない、何も関係ないんだと、強がりを重ねる。
 

<だけど涙が止まらないのは あの漫画の女の子が 惨めで可哀想だから>

彼女は泣いている。
しかしそれは、彼女が言うには、あくまで漫画のせいなのである。
漫画のなかの女の子が可哀想だから泣いているのだ。
 

<私に似て可哀想だから>

付け加えるようにして、ついに漏れた彼女の本音。

漫画のなかの女の子が“私に似て”可哀想だから泣いているのだ。

ずっとずっと、第三者のこちらが苦しくなるほどに、冷静さを保つように見せ、強がりを貫いていた彼女。
その彼女がついに本音を見せた。
しかし、それでもなお強がりは完全に捨てきれていないのだ。
あくまで、このように間接的にしか、自分の可哀想さを認めることはできない。

さらに言えば、彼女は自分が「可哀想」であることは認めたが、それが彼のせいだとは最後まで口にしていないのだ。

強がりを捨てきれていないからこそ、そこから漏れた彼女の言葉の説得力は大きく、胸にじんと響きわたる。

強がりを貫く強さ、そしてそれと表裏一体の彼女の脆さ。
絶対に認めたくないほどに大きな、別れのつらさ。

伏線を回収するかのような最後の一文に、何度聴いても鳥肌が立つ。
 

これが私がこの詞が大傑作だと思う理由である。
ひとつひとつの描写の繊細さだけでなく、最後の一文に至るまでの構成が素晴らしく、そして最後の一文もまた絶妙であり、これ以上の完成度は求められないだろう。

そもそも、「強がり」をそうと明示せずに歌詞にすることはかなりのリスクを伴うように思う。
強がりとは嘘であり、字面の通りに受け止められれば全く歌詞が意図するように伝わらない(よくわからない歌詞になる)可能性もあるからだ。
 

リスナーの想像力の低下が叫ばれ、耳に残るキャッチーな詞ばかりが目につくこの時代にあって、宮崎朝子の詞には一線を画す美しさがある。

若い女子の共感を呼ぶ内容だけではなく、その歌詞の表現力、詩的な「美しさ」にもスポットライトが向けられてほしいと、僭越ながら私は強く願っている。
 
 

※<>内の歌詞は、全てSHISHAMO『きっとあの漫画のせい』より引用
 
 

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい