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私のややこしい鍵を解いてくれたNakamuraEmiばけもの

自身の見事な晒しっぷりに降参したあの日から、ロック・イン・ジャパンで彼女の歌声を聴けるまで

「40代はドブに捨てたようなもの」と笑う48歳の私。そして今、残り1年余りでそれを挽回しようとしている。そんな時に出会ったNakamuraEmi。役割に徹した40代。みんな、そうであろうが、職場では勿論のこと、私生活でも母であり、妻であり、嫁であり、娘でありと役割が付きまとう。自分にフォーカスするなんて考えも及ばない。そして、40歳になって直ぐ、義母が病いに倒れ闘病の末亡くなった。娘はまだ3歳で、義父、義祖母、義妹が残された。仕事、家事、育児に追い回される日々。そしてなにより、昔ながらの家の為、常にある義理事。休息になるはずの週末は雑事に追われる。また、子供の事が中心になる時期のはずが子供の事すら疎かになる位の雑事が待っていた。必要とされるのは無人レジのような便利さ。そこに私の意見や知恵やヒントは必要ない。ただ、便利にいて欲しい。何か意見しようとするなら、それは突然、無人レジが喋り出したかのように奇異な目が向けられる。そんな閉塞感のある片田舎。それが面倒で意見どころか、考えることも、感じることも放棄してしまった。結局のところ自分を放棄したのだ。心を無にして淡々とやるべき事をこなしていく。何をしていても次にやらねばならない雑事ばかりに意識がいっている。心と頭はいつも微妙にズレている。そして、頭ばかりが先を走り、今を感じる心は置いてきぼりを食らい続けていた。そんな日が4年程たった頃、体調不良が続いていたある日、自宅で夕食後に突然意識が薄れ倒れた。丁度あの時期は磯野貴理子さんが脳梗塞で倒れた頃で皆はそれを疑った。しかし、救急車で運ばれた先の脳外科では「脳の異常は無いです。ストレスですね。」と精神科を勧められた。夫の親族も病院に駆けつけていたので恥ずかしかった。ただ、それだけ。その後、心療内科を受診したが診断シートのチェックも問診も私には無意味だった。だって、死にたくも、辛くも、泣きたくもない。とにかく何も思わないのだもの。ただ、びっしょりと濡れた真綿の布団を背負っているかのように身体だけが異様に重いだけ。私は漢方薬をお守りにして、更年期という暗示をかけてやり過ごした。その後、46歳の時には検診で早期の癌が見つかり手術となった。内心、色々マズイな…とは思いはじめていた。それでも私は同じ生活を続ける。仕事も辞めるわけにはいかなかった。実家の父が病気で、まともに仕事が出来なくなっていたので、私の働きでもう20年近く家計を支えている。私の結婚と同時期に53歳で社会からドロップアウトした父。実家の長期に組んだ住宅ローンも残り僅かだがまだ残っている。婚家では便利な嫁であり、実家では稼ぎ手でもある娘。しかし昨年、実家の父が亡くなり、義妹は結婚が決まり家を出た。また、義祖母も年の暮れに突然亡くなった。初めて自分に向き合ったのはその時だった。もうすぐ48歳になろうとしていた。役割が大きく肩から落ちた時、なぜか強烈に自分に意識が向いた。そして、強烈に自分に向き合っているNakamuraEmiを知った。

最初はドラマの主題歌「ばけもの」がエンディングに流れていて、キレのある小気味よいリズムと歌声に惹かれた。「変わるわよー、女はー」私はよくある恋愛を歌った曲だと思っていた。そして、何気なしにPVを観てみると、全く違っていた。惚れた腫れたの色恋ものでは無い。女性そのものを歌った曲だった。こんなにも赤裸々に歌えるものかと驚いた。どの言葉も腑に落ちる。そして、問いかけてくる。『神様が与えた 女の辛抱強さ それを時に 我慢に変えた それが時に 美徳になった』『勘違いした私は ややこしい鍵を自分にかけた』の一節にサーッと血の気が引いた。まさに自分ではないか。「嫁は自分の事は後回しなのが当たり前。皆の世話に徹するのが当たり前。理不尽な振る舞いも軽く流すのが当たり前。それが賢い嫁。」知らぬ間にそんな陳腐な鍵をかけていたことに気づいた。さらに終盤の『神様が与えた 女の切り替え それはまさに 魔法みたいで それはもう 答えみたいで』の歌詞は本当に答えを貰ったかのようだった。女の切り替えは女の私がよく分かっている。そして、そこから続く『私を幸せにできるのは 世にも恐ろしいことに ややこしい私です』の締めで、私のややこしい鍵は呆気なく解けてしまった。こんな軽快な1曲で痛快な程に今までの表現出来なかったモヤモヤが解決となるなんて思ってもいなかった。驚きと共にその日はお経のように身体に沁み込むまで聴き続けていた。

また「YAMABIKO」を聞いて、補佐役としての嫁の道を考えた。無知で従順な嫁はもう終わり。家族を補佐するなら、片腕になりたい、知恵やヒントになりたい、いざとなったら舵取りだってする覚悟。もっと力強く支えていきたい。そんな気持ちが湧いてきた。こんな自問自答を続けたところ結局、全ては自分の心ひとつ。忖度と場の空気を読むことに明け暮れた日々。それだって今思えば、それで済む生ぬるい世界で過ごせたことは幸せで感謝する事だった。がむしゃらに生活に食らいついていかなければならない人だって大勢いる。全ては臆病な私が招いた結果に過ぎない。大切なのは、自分の気持ち。だって、それが私だもの。言葉に出来なくても自分の気持ちと考えだけはシッカリ抱えていないと。これからは、絶対に離さない。人生のゴールが薄っすら見え始めた私はそう思った。こうやって日々、様々な疑問を持たせてくれるNakamuraEmiの曲を聴き、物事を自分で選ぶ大切さも知った。無難で選ばない。無難に縛られて、無難な服を着て、無難な言葉を発し、無難なモノを選び、無難な考えをし、無難な自分になっていく。気付けば只の便利な人畜無害な自分になっていた。そして今、好きな服を着て、好きに考え、好きなモノを選び、好きなモノを観て、好きな所に行き、好きなモノを食べていたら、皆そうであるはずのユニークな自分を思い出した。解放された気分。つまらない役立つ自分から、可愛い役立たずに戻れた気がした。外から見た自分を基準にするのか、内なる自分を基準にするのかで全く違った世界が見える。どちらを選ぶかは本人次第。しかし、それには意外に気付かないものだと思った。だって、私はずっと自らの気持ちで選んでいるつもりでいたから。そう考えるとNakamuraEmiは本当に心の内のモヤモヤや言葉、正直な想いを目の前にドンッ!と晒してくれる。あまりにも見事な晒しっぷりに私は降参するしかなかった。

そして、こんな彼女を見てみたいと思うようになり、それが、この前のロック・イン・ジャパンで叶った。まさか、この歳でフェスに初参加するとは思ってもいなかった。しかも、8月12日といったら今年は初盆で来客や雑事に追われる頃。それを、他の親族に任せて外に出ることが出来るなんて思ってもいなかった。しかし、その日を迎え実際に縛っていたのは「それが常識」という思い込みと勇気の無さに過ぎないことが分かった。私は揚々とテントとクーラーボックスを車に積み、友人と会場へ向かった。初めてのフェスでは、心動かすプロと心動かされたい観客が一体となっているエネルギーを肌でヒシヒシと感じた。「音楽っていいなー!」を久々に感じることも、単にお祭りを楽しむことも出来た。感じることの喜びをめいいっぱい満喫した。そして、昼間の強烈な暑さと陽射しがゆるんだ夕方、WING TENTを目指した。テントに着くと開演時間よりまだ30分は早いのに歌声が聞こえていた。「まさか始まってる?」慌てて中に入ると、リハーサルと称し他のアーティストの曲を次々と歌うNakamuraEmiがいた。期せずして彼女の伸びやかな歌声を聴けたのはラッキーだった。そして、初めて目にした姿は普通に職場に居そうな可愛いお嬢さんに見えた。本当にお嬢さんという言葉が似合う位小柄で可愛らしい。そんな彼女からあんな歌が溢れるのかと思うと、逆にとてもリアルだった。そして、本番のステージが始まり、音源よりもっと重さと厚みを感じるパワフルな生の歌声は心に沁みた。特に私の転機ともなった「ばけもの」を聴いた時は全身に鳥肌が立った。「これを聴く為に私は来たんだ」歌詞を噛みしめながら彼女の姿を目に焼き付けていた。MCでは「このテントで先輩の竹原ピストルさんのステージをあの辺で観てプロとしてやっていこうと心に誓った」というようなことを観客席の中央を指さして話していた。熱い語りと言うより、世間話のようなゆるい姿が印象的だった。自分の想いを溢れ出させても、それを押し付けてくる感じが全くない。曲もそう、溢れだした熱い想いは伝わるが恩着せがましところは一切無い。それは、彼女の過去の多彩な経歴からくるのか。ひとつ、ひとつ実体験を積んできた事柄が咀嚼され、独りよがりなところが無いせいかもしれない。それが、聴き手に真っ直ぐに届く。この日のセットリストは「Don’t」「ばけもの」「雨のように泣いてやれ」「痛ぇ」「YAMABIKO」短いが凝縮した時を味わえてとても満足だった。ライブが終わり一緒に来た友人に「NakamuraEmi知らないのに付き合わせちゃってごめんね」と言った。「ううん、来て良かったよ。魂の歌っていうか何ていうか・・・NakamuraEmiさんは凄く良い人だと思う。」ライブの感想が人柄になるなんて内心ちょっと笑った。でもそう、彼女自身が曲に出るんだ。「うん、そうだね。NakamuraEmiさんは良い人だと思う。」友人にも何か伝わった嬉しさを胸に二人でテントを後にした。ただ、私は嘘をついた。NakamuraEmiは良い人じゃない。酸いも甘いも貪欲に求め、それを糧にする「ばけもの」だから。

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