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2017年6月26日

imdkm (28歳)

BLACKPINKの脱臼的ダンス・ポップ

K-POP歴1年の覚書

 韓国の4人組ガールズ・グループ、BLACKPINKが新曲“AS IF IT’S YOUR LAST”をリリースした。登録していたYouTubeチャンネルからの通知も来ていたし、Twitterのタイムラインにも流れてきていた。早速再生してみる。イントロから耳を捉える攻撃的なシンセリフと、その後すぐさま訪れる重低音の効いたトライバルなビートに期待が高まる。しかし――、と話をすすめる前に、話をちょうど一年前に戻してみる。

 きっかけはやはりYouTubeだった。なにげなくリコメンドにあらわれたLUNAというシンガーの“Free Somebody”。まったく情報なしに、気まぐれにクリックした。若干チージーなピアノと背景に漂うアルペジオ、そこに現れるLUNAの歌声は少しハスキーで力強い。曲の全体像があきらかになるにつれて惹き込まれた。とりわけ、弾力のあるベースラインとシンプルだけれどフィーリングに満ちた四つ打ちのビート。ポップスとして若干聞きやすくコーティングされているとはいえ、オーセンティックなハウスじゃないか。最初に再生してから通して10回、YouTube上で一気に繰り返し聴いた。2016年はことあるごとにこの曲を、というか彼女の同名のミニアルバムを聴きに聴いた。LUNAがf(x)というK-POPグループのメンバーであること、これがソロ第一作だったことなどは後から知った。そのくらい楽曲のインパクトが強かったのだ。そこからf(x)の2015年の名曲“4 Walls”にも触れ、いよいよK-POPにハマっていくことになる。

 しかし、K-POPは想像以上に広く深い「沼」だ。話題をアイドルに限っても、男性アイドルグループには男性アイドルグループの沼があり、女性アイドルグループにも女性アイドルグループの沼がある(もちろんグループごとの沼もある)。さらに、それらの沼はさりげなくコリアン・ヒップホップやコリアン・R&Bといったまた底なしの沼にも通じている。あまりの広さと深さに、熱心なK-POPリスナーやDJをTwitterでフォローしてそのエッセンスを香りだけ掠め取るようなことしかできていない。ただ、K-POPではYouTubeでの情報発信が極めてハイペースに行われていて、新曲のリリースとなれば数日前からティーザー(予告)動画が公開されるし、人気アイドルともなれば4,5本のティーザーが連発されることもある。それを頼りにしてどうにかオン・タイムにリリースを把握している。

 いま日本でK-POPがどのようなパブリックイメージでもって捉えられているかどうかはわからないけれど、この1年飛んでくる球を必死にチェックしてきた限りでは、やはりダンス・ミュージックのトレンドを巧みに取り入れたプロダクションがしばしば見られることと、そうしたダンサブルな楽曲がハイからローまで迫力に満ちたサウンドで届けられること、この2つが僕にとってK-POPの典型的なイメージだ。もちろん見渡す限りダンス・ミュージックばかりというわけでは決してなくて、もっとキャッチーなポップスもあれば、レイドバックしたサウンドもあり、なんならしっとりとしたバラードも用意されていたりするのだけれど。とにかくグループの数も多ければプロダクションの幅も広く、リリースも(恐らくメディア戦略のおかげか、実際以上に体感として)多い。とにかく、また新曲かよ! あるいはまた新人かよ! と言いながらビデオをチェックし、iTunesでリピートし続けてしまうのだ。

 さて、BLACKPINKの新曲、“AS IF IT’S YOUR LAST”に話を戻す。彼女たちは昨年デビューしたばかりのガールズ・グループで、ジス、ジェニ、ロゼ、リサの4人組だ。そのうちロゼはオーストラリア出身の韓国系オーストラリア人で、リサはタイ出身のタイ人だ。メンバーが多国籍であることもK-POPでは珍しいことでもない(いま話題のTWICEだって日本人や台湾人のメンバーがいる)。もともと2NE1を擁していたYGエンターテインメントがデビューさせたグループだけあって、“ガールクラッシュ”な路線――男性を魅了するコケティッシュ/イノセントな女性像ではなく、むしろ女性たちのロールモデルになるような、かっこよくてタフな女性像――をファッション的にもサウンド的にも体現している。とはいえ、歌詞は情熱的なラヴ・ソングがほとんど。ただ、それも単なるコケットリーやイノセンスには陥っていない。なにしろ“AS IF IT’S YOUR LAST”で引用されるカップルはボニーとクライドだ。だから激しいダンス・ミュージックを想像させるイントロは「いかにも」という感じだったし、ほとんどビートオンリーのヴァースもいつも通りの攻撃態勢だった。しかし、続くブリッジはどこかアジアの歌謡曲を思わせるようないなたさを漂わせ、そして唐突に訪れるコーラスは、なんと1980年代のポップス、いわゆるユーロビート(PWLサウンド)風のアレンジなのだ。とてつもなくおかしくて奇妙でいびつだ。賛否両論あると思うけれど、はっきり言ってマジで最高だ。大笑いしながらリピートする。なんでこれが曲として成立してるんだろう。

 とりわけぶち上がって笑ってしまったのは、ブリッジからコーラスに至る高度差もさることながら、最初のコーラスからふたたびヴァースに戻るときの処理の仕方だ。あれだけがらっと雰囲気を変えたあとにどう展開するのかと思ったら、コーラスはテープストップ(だんだん速度を落としながらストップするというエフェクト)でぶった切られ、ワイルドなタム回しが一発キマると何ごともなかったかのようにヴァースに戻るのだ。ただ、ジェニによる前半、ジスによる後半で構成されていたファースト・ヴァースと違って、リサによるセカンド・ヴァースはホーンが添えられて若干賑やかになってはいるし、あっという間にまたブリッジへと向かう。あとはコーラスとブリッジをくり返しながら、この奇妙なダンス・ポップはクライマックスを迎える。

 けれど思えばBLACKPINKの味というのはこういう脱臼的な、どこか捻れたところにあるようにも思う。1stシングルの“BOOMBAYAH”は力強いEDMポップスだったけれど、転がるようなファニーなフロウや、ところどころに挿入されるわらべうたみたいな奇妙なメロディラインが耳に残った。間を開けずリリースされた2ndシングルの“WHISTLE”はトラップ風の音数が少ないプロダクションのなかに、タイトルにもなっている口笛を主なフックとして、これもまた奇妙なメロディが織り交ぜられたヴァースが印象的だった。また、次第にビルドアップしていくブリッジ部分のドラマチックな展開はEDMの様式美に沿ってはいるのだけれど、それがポップ・ミュージックのなかではちょっとしたおかしみを漂わせている。一転、3rdシングルの“PLAYING WITH FIRE”はミディアム・テンポのEDMポップス、4thシングルの“STAY”はアコギがメインのポップスとなって少しがっかりしたのだが、そこでやってきたのが“AS IF IT’S YOUR LAST”なのだから、喜ぶしかない。

 そもそもダンス・ミュージックはユーモアとかストレンジなものに親和性が高いと思う。それはピコ太郎やPSY(彼らはPSYの最新MV“I LUV IT”でちょっとだけ共演している)みたいにユーモアをまるごと歌のなかに持ち込むというレヴェルにおいてもそうだし、Baauerの“Harlem Shake”やMartin Garrixの“Animals”がYouTubeやVineといった動画シェアサーヴィスを通じてヴァイラル・ヒットし、ネット・ミーム化するような現象もその証左だろう。だからBLACKPINKのダンス・ポップがどこかユーモラスに響くのは理にかなっている。しかしそれは「ウケを狙っている」ということでは決してなく、彼女たちのポテンシャル――たとえばリサのハスキーな声と特徴的なフロウとか――を存分に活かしながらダンス・ポップを組み立てると、そこにはどこか奇妙さ、ユーモアが生まれる、ということだと思う。「シリアス」と「お笑い」の二分法では割り切れないおかしみが、彼女たちの楽曲からは滲んでいる(ちなみにデビュー以来、一貫してYGエンタテインメントのプロデューサーであるTeddy Parkが中心となって彼女たちの楽曲をプロデュースしているようだ)。

 この6月末にはTWICEがいよいよ日本デビューを果たすということで話題を振りまいているけれど、BLACKPINKも8月に日本デビューを控えている。BLACKPINKの情熱的かつどこかユーモラスなキャラクターがぜひ日本でも受け入れられたら…… と願ってやまない。

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