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2017年7月・月間賞 入賞 | 2017年6月27日

イガラシ文章 (25歳)

“ひとりの歌”から“みんなの歌”へ

Mrs. GREEN APPLEアルバム『Mrs. GREEN APPLE』に寄せて

このアルバムを聴き終えた瞬間、私は正直、少しだけ困惑した。

なんだろう、このモヤモヤ感は。美味しいラーメンを食べていたのに途中で仕事の連絡が入ってスープを飲みきれずに店を出なければならなくなってしまったような、気分。
とにかく、私が普段から、Mrs. GREEN APPLEと言うバンドに求めているような、お伽噺の「めでたしめでたし」を聞いた時の、お姫様と王子様が手を取り合い幸せになる時のような“大団円感”が、感じられなかったのだ。

誤解の無いように書いておくと、私は『Mrs. GREEN APPLE』を聴き終えた時、とっても幸せな気分だった。満足感は申し分ないのだ。それは、もとより彼らが掲げ続けている「自分達も楽しみながらリスナーを思いきり楽しませよう」と言う健気な程の思いの結晶だろうし、ボーカル大森元貴の時に辛辣で時に鬼気迫るものがあり、その奥底には確かな優しさがある表現力が最早盤石なものである事を表していると思う。

寧ろ、UKインディーの要素を取り入れたと言うサウンドアプローチは以前よりポップになり、作風も奥行きを増し、子供の笑い声や水の音、ドアを開ける音や自転車の音なんかの生活音までもを効果的に取り入れるようになった楽曲達はよりいっそう視覚的イメージを伴うものになって明らかにクオリティを上げている。
今まではおとぎ話のような、ポップで可愛らしい浮世離れしたイメージが強い曲が多かったが、このアルバムでは打って変わって地に足がしっかりとつき、骨太なドキュメンタリーのような世界が広がっている。

全編通して聴くと、メンバーが掲げる「ティーンポップ」そのものな“等身大”の少年の戸惑いや成長と、元来大森の中で強く息づいているように思える“絶え間なく生まれてはいつか消えゆく「人間」と言う存在”を憐れむ、何処か神様じみた眼差しが見事にアルバムの二本の柱として立っている事がわかる。
元々幼気とアンバランスなほどの神聖性が共存しているバンドだったが、このアルバムでは更に彩度が増したように感じる。どちらかに振り切れてしまうとありきたりなバンドになってしまいかねないが、彼らに関してはそんな心配は不要で、メジャーデビューからたったの二年弱でTHE YELLOW MONKEYの『JAM』のレヴェルにまで辿り着いてしまったのだ。いっそ恐ろしいぐらいだ。

でも、じゃああのモヤモヤ感は、一体何なのだろう?

思い返せば、大森は以前「自分自身が言われたら嬉しい、言われたい言葉を詞にしている」と語っていた。

それは確かにそうで、どんなに開けた明るいサウンドを用いていても彼の詩作の根底には自己愛が満ちていた。それが自分自身の生活に重なることによって私達リスナーの胸にも迫ってくるわけだけど、特に前回のアルバム『TWELVE』までは、彼の歌は他の誰でもない、「大森元貴のための歌」だったんじゃないかと思う。

きっと、『Mrs. GREEN APPLE』と言うアルバムをつくる事で、彼はそこから抜け出したのだ。言葉選びがより普遍的なものになる事で、切ない恋心やエモーショナルで独り善がりな哀しみは「みんなのもの」になり、この世界の不条理を毒づき皮肉る言葉には更なる生々しさが与えられる。
初期衝動とクオリティの高さが共存したこのアルバムを、「デビュー作のつもりでつくった」とインタヴューなどでメンバーが語っていた意味が、このアルバムにセルフタイトルをつけた理由が、やっとわかった気がした。Mrs. GREEN APPLEは、このアルバムを通して一歩、大人のバンドへの道を踏み出したのだ。

「泡の様に 脆く全ては去って
甘味の様に 時に笑ったって
死にたくなる事ばっかじゃない
炭酸の様な青春は

いつかは酸化して
さよならが来るんだろうな
だけども 今はさ
考えたくはないな」
(『soFt-dRink』)

大森は、いつか必ず終わる青春を切なく歌う。
しかし、それは青春と言う一瞬の季節が終わった先に、もっと輝ける人生が続いていくことへの希望でもあるんじゃないか。

『TWELVE』を聴いた後に感じた“大団円感”は、きっと大森がひとりで描き続けていた物語が終わりを告げた事を表していたのだ。ひとりぼっちの心を癒やすお伽噺は終わりを告げ、Mrs. GREEN APPLEの音楽は、「みんなの歌」になる。だからこそ、彼らはこのアルバムを大団円では終わらせず、物語がその先へ続いてゆく事を想起させるようなものに仕上げたのだろう。

このアルバムは、これから大人のバンドとして成長してゆくミセスの、長いバンド人生のスタートを告げるファンファーレだ。

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