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積み上げていくのは、思い出というより日々だから

The Whoops 初のワンマンライブに寄せて

天気の話は、気まずいエレベーターの中の空気を和ませるためでも、あんまり乗り気になれない打ち合わせのアイスブレイクのためでもなく、本当に天気が良い時にしたいものだなあと思う。小洒落た居酒屋でクラフトビールを飲むのもいいけれど、夏の終わりには知らない公園のブランコに揺られながら何でもない話をしたいし、誰かの家で日が暮れるまでゲームをしたい。話したいことだけを話せばいい相手と、思うよりも先に口をついてしまうくらいの軽やかさで何かを確かめていたいし、あの時は忘れたかったことも、本当は何歳になっても忘れたくない。青春時代には確かにあったそういうささやかさを大人になっても生活のなかで積み上げていくのだという意思を、じんわりと思い出すような時間があるといい。

2019年9月20日、The Whoops初のワンマンライブを観た。6月にリリースされた、『FILM!!!』以来3年ぶり2枚目のフル・アルバム『Time Machine』を引っ提げて全国を周った「遅れてきたTime Machineツアー」の最終日。会場の下北沢BASEMENT BARは開演前から終始和やかな空気が流れていて、バンドとファンの温かな関係性が伝わってくる。先に書いておくが、ライブは思ったよりも長くやった。ライブ中Vo&G.宮田が何度も「ワンマンなげー!」とこぼしながら、Ba.森が「本日は90分を予定しているんですけれども~」となぜか申し訳なさそうに話しながら、ダブルアンコールまでの25曲、気がつけば2時間15分。それは彼らのキレッキレのMCがいつも通り炸裂していたからに他ならないが、それと同時にメンバーも観客も、この日だけの感慨深さを抱きしめていた結果であることは言うまでもない。

序盤はTime Machineパートと表して、アルバムの楽曲群をおよそ曲順に披露していく。冒頭“春について”から、全速力で駆け抜けていくようなまっすぐさと一筋縄ではいかないもどかしさを同居させるアンサンブルは、ライブが始まったばかりにもかかわらず切ない終わりを想起させる。続く“天気予報”ではさらっと歌われる〈忘れたかったこと/今も覚えている〉という鋭利なラインに誘われるように、伸びやかに響く宮田のボーカルとそれに拍車をかける森のコーラスが、物語に色をつけていく。それがこれまでよりもドラマチックに響いてくるのは、ボーカルと楽器のそれぞれに力がこもる瞬間の共鳴がこれ以上なく機能していたからかのように思えた。メロディセンスが相変わらずびかびかと光っていることも軸となり、確かな相乗効果を発揮している。祈りにも近い切実さが、歌詞に登場する快速電車のスピードと錯綜しながらどこか愛おしく展開する “東京メトロ”、そしてアルバムのラスト、シンプルなギターが印象的な“time machine”で素直な言葉を届けるまで、今回のアルバムで表現の幅や深度の追及を実践しながらも、これまでと変わらない思いをさらに研ぎ澄ましていることが伝わってくる。

The Whoopsは暮らしを歌う。季節のこと、天気のこと、街のこと、日々のこと、それに似た何かを思い出したり思い出さなかったりした、いつかの暮らしのこと。そしてそこから立ち上がる「僕」と「あなた」のこと。どれだけ美しかった景色を胸に刻み込んでも、積み上げていくのは思い出というより日々だから、青春の質感は切り取って保存して、いつでも取り出せるようにしまっておく。いつまでも懐かしんでいたい気持ちを飲み込んで、人生を進めていくその曲がり角あたりで、久しぶりに昔の自分に会いにいくような心持ちで、わたしたちは彼らの音楽と共にある。過去の自分と今ここにいるわたしたちは決して切り離されず、思い出したくないことも忘れたくないことも日々増えていく--そんな当たり前のことが、とても如実に浮き上がるライブだった。

中盤からライブは思い入れパートに突入。“ロマンチック”や“花と街”といったファンに長く愛される楽曲たちが、前編で披露した新しい表現から翻っての原点回帰だからだろうか、さらなる説得力をもって鳴っているのが印象的だった。BPMの速さに急かされて走り出してしまうような思いが、フロアの揺れを加速させる。バンドと観客の声がぴったりと合うシンガロングにかなりグッときてしまうのは、ここにいるそれぞれがそれぞれの生活を進める中で、いまお互いの人生が交わっている、という意味合いも強いのかもしれない。続く“恋をしようよ”で拳を突き上げるのも同様で、全力で演奏する彼らの、生き様というにはすこし仰々しい清々しさが、オーディエンスの感情を解放していく。『FILM!!!』以降の2枚のミニ・アルバムや初期(お土産として当時のデモ音源のQRコードが配られた)の楽曲も織り交ぜ、これまでのThe Whoopsを網羅したセットリストは、確実にドラマを纏っていた。一方MCでは、最近の出来事を屈託なく話してみたり、バンドの何気ない思い出をおどけて教えてくれたりする笑い声が心地いい。続く“リビング”や“湘南新宿ラインのテーマ”が、ちゃんとここにいる全員の音楽として共有できている様子も素敵だった。

本編最後は『FILM!!!』収録の“映画”だった。こっくりとしたアルペジオに合わせて、優しく呟くように歌われる言葉のひとつひとつが、しんと静まり返ったフロアに季節の匂いを取り戻す。繊細なワードセンスが光るこの曲がこの日ひと際メロディアスに聴こえたのは、きっと彼らのバンドとして越えてきたいくつもの季節とわたしたちそれぞれの日々の蓄積が、タイトル通り映画のようにドラマチックに交差した気がしてしまったから。中盤で披露された“夏の夢”にも〈誰かになれると思っていたけど/誰でもない/僕でしかないみたいだ〉というラインがあったが、何にもなれなかったわたしたちが、あの映画のワンシーンを待ち焦がれながらも人生を前に進めていくことを肯定するというメッセージを、この上なく真摯に届けたひとときだったように感じる。最後の大サビ、宮田は〈あの映画のワンシーンを〉と余韻たっぷりに、そして振り絞るように大事に歌った後、ピックを持った指先を数秒見つめてから、意を決したように〈僕らは待ち焦がれている〉と歌って、わたしはそれを本当に綺麗だと思った。彼らが歌う青春時代の胸を締め付けるような想いは、誰かに名前をつけられて一区切りにされるようなものでは全然なくて、明日からも続けていく、わたしたちの日々そのものである。曲の終わりで〈さよなら/さよなら〉と叫んでも、笑ってしまうほどさよならなんかじゃないのだ。

ほんの40秒ほどで袖から戻ってきた彼らは、MCもないまま『Time Machine』収録の“踊れない僕ら”へ。Enjoy Music Clubをオマージュしたというその曲では、Dr.須長がステージ脇のPCの前に立ち、宮田と森はハンドマイクで全力のラップを披露、オーディエンスの笑顔を誘う。楽しいことは何でもやるという彼ららしい挑戦が、最後まできらめき続けているところがとても良い。ひたすらに明るく、良い音楽をやるというその姿勢は、彼らの楽曲制作における、日々を切り取る視点の鮮やかさに通ずるのかもしれない。アンコールのラストに歌われた“衛星”、そしてダブルアンコールで観客からの急なリクエストに飄々と二つ返事で披露した“ドライヴ”に至るまで、新たな表情と「らしさ」の真ん中への行き来を繰り返しながら、観客との呼吸を合わせていくようなライブだった。

バンドのライブの感想として、いろいろな意味で「面白かった!」が一番に出てくるバンドはいくつかいるけれど、それでいてこれほどまでに日常と地続きでいるバンドはあまり思いつかない。記憶や思い出がこれからも増えていくのなら、今のわたしたちも過去のわたしたちと同じように、よく晴れた日の空を好きな人と見上げながらただ綺麗だと言ってみたり、いつかの頃と同じ色をした夕焼けや朝焼けを見ながら自分でもよくわからない涙を流してみたりしていたいのだ。

The Whoopsの音楽には、そんな素晴らしい暮らしのすべてがあるのだと思う。

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