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都会の流れ星

欅坂46全国アリーナツアー東京ドーム公演に寄せて

水面に落とされた、色とりどりの絵の具を観ているようだった。
一瞬だって同じ模様を保つことはなくて、
いつまでも見ていたいと願うのに、すぐに消えていってしまう。
その美しさに触れてみたいと思うけれど、
実際に触れたら、その美しい模様は崩れてしまう。
うまく言えないけれど、とにかく、目が離せなかった。
 
 

春に地元から関東に出てきて半年。
高校生の頃の私は、何も分かっていなかったと痛感する毎日。
何も持たずに1人で都会に出れば、新しい自分に出会えると思った。
あの、人だらけの街のどこかで、自分らしさが見つかると思っていた。
でも、灰色のビルが立ち並び、地元にいたときはテレビでしかみたことがなかったような名の知れた建物が次々と現れる電車の窓の景色に目を凝らしても、何も見つからなかった。
数え切れないほどの灰色の箱1つひとつが何層にも分かれていて、
各々がいつも決まった場所で、決められたことをしている。
あっちの箱の23階に行くべき人が、今日はこっちの箱の24階に行ったとしたら、
周囲はどんな顔をするのだろうか。
その人たちは、自分の人生の昨日と今日が入れ替えられていたとしたら、
気づくことができるのだろうか。

大学に通って、サークルに入って、アルバイトを始めて……。
文字にして並べてしまえば、素敵なキャンパスライフを送っているように見えるかもしれない。
でも、やればやるほど、様々なものに触れれば触れるほど、怖くなった。
私には、どれも向いていない。
私は、何も持っていない。

街中で、小さな子どもが転ぶ。
少し間があいて、大きな声で泣く。
母親が笑いながら駆け寄って、抱きあげる。
どこでみたかも思い出せないような、こんなありふれた光景に、たまらなくなった。
自分の痛みを、人目を気にせず全身で表現する無邪気さは、
知らない間にどこかに置いてきてしまった。
それと引き換えに手に入るはずの余裕も経験も、まだ手に入れることができない。
守ってもらうには大人になりすぎた。
それなのに、守ってあげる力は私にはまだない。
そんなお前に存在価値はないと、言われている気がした。
 

そんな毎日の中で迎えた、2019年9月19日。
欅坂46夏の全国アリーナツアー2019東京ドーム公演。

緑一色に染まる空間に、1人で1歩踏み出し、儚く舞う18才の少女は今、
何を思っているのだろうか。
知りたかったが、訊けなかった。
演技中の演者には話しかけてはいけないのが常識だからではなく、
この広い会場では声が届かないと思ったからでもなく、
今、声を出したら、彼女が消えてしまうのではないかと思ったから。
今、この瞬間の何かが1つでも変わってしまったら、
彼女の姿が見えなくなってしまうのではないかと思ったから。
少女が、足元に何かを見つけて拾い上げる。
私には見えない、何かだった。
きっと彼女にしか見えない何かだったのだと思う。

そこからは、夢と現実のすき間にいるようだった。
こんなにも“今”に必死になったのはいつぶりだろうか。
目の前で起こるすべてを逃したくないと思った。
今聴いたら二度と同じものを聴くことはない彼女たちの声を、
頭から足先までの動きのすべてを、逃したくないと思った。

同じセットリストでライブをしたとしても、同じものは二度とは繰り返されない。
今の欅坂46を感じられるのは、今しかない。
それを彼女たち自身が深く理解しているから、
彼女たちのパフォーマンスはいつでも、力強くて、儚い。

ステージに立つ彼女たちは、今、この瞬間を生きていた。
過去にも未来にも気をもむことなく、ただ“今”を生きていた。
めまぐるしく変化するその一瞬の感情を、受け取り、伝え、生きていた。
“今”だけに全力な彼女たちの生き様は、羨ましいほどに美しかった。
 

1つの夢に向かって、がむしゃらに進んでいくのが理想の人生だと思っていた。
夢がない自分に、劣等感を抱いていた。
明日が来るのが不安で、何か生きる目標を見つけようと必死だった。
でも、どんなに未来を想っても、“今”しか生きられない。
今想う未来を自分が実際に生きるときには、未来は“今”に変化しているし、
“今”生きていたこの時間は、直後に過去となる。

「新しい自分に出会うことができる未来」なんて幻想だったと、
彼女たちが教えてくれた。
人は誰でも“今”しか生きることができない。
少し前まで“今”だったものの積み重ねが過去になり、
遠い未来だと思っていたものが、いつの間にか“今”になる。
今までのどの経験が欠けたって今の自分はいないし、
今の自分が今を生きるから、この先の自分が存在する。

自分はずっと、自分だ。

「新しい自分」なんていう別個体はどこにもいなくて、
探したって見つかるものじゃないんだ。
“今”の感情を受け入れて、生きてみようか。
焦らなくてもいいじゃないか。
未来を想って毎日のように泣いていたから、
大切な“今”を見過ごしていたかもしれない。

これから先も、生き急いで泣いて過ごす日があるかもしれない。
たぶん、ある。
人は急には変われないし、急いで変わらなくてもいい。
けれど、“今”に圧倒されたこの経験は、この先の私の一部になる。
理由もなく泣く日があってもいいし、漠然とした不安に襲われる日があってもいい。

人がひしめき合っているこの街で、
何かがどうしようもなく怖くなったら、
今日1日だけ、生きてみよう。
それも無理そうな日は、あと1時間だけ。

生きる理由なんて見つけられなくても、
夢や目標が明確なものでなくても、
とりあえず、今を生きる。
それでいいんだと思わせてくれた彼女たちに、感謝したい。

今までもこれからも“今”だけに全力な欅坂46。
今を生きる彼女たちに勇気をもらいながら、
私も今を、生きてみようと思う。

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