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Mr.Childrenは「満たされて」いなかった

変わらぬ愛を越えて

何年か前の日記を読み返してみると、僕は「Mr.Childrenの活動は、勇気ある現状維持である」というようなことを書いている。17作目のオリジナルアルバム「[(an imitation)blood orange]」を聴き通した上で抱いた感想だ。現状維持というとシニカルに響くかもしれないが、もちろん皮肉を言うつもりがあったわけではないし、その時点においては正解だったのだろうと思う。大体、次のようなことを僕は書いた。

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Mr.Childrenが2年ぶりにオリジナルアルバムを出した。収録された11曲のうち、実に8曲が、すでに何らかの形で発表されている。「最新の・これからの活動方針を提示するため」というよりは「ここ数年の活動を総まとめするため」のリリースと言えるだろう、当人たちの意図はどうであれ。

それでいて、寄せ集めというような印象は、まったく与えないアルバムだと思う。たとえば、東日本大震災の折に書き下ろされた「かぞえうた」が、11曲という流れのなかにピタリと収まっている。いわゆるコンセプト・アルバムには分類されないだろうけど、コンサートに行った後のような気分に浸らせてくれる、Mr.Childrenならではの佳作だ。

巷の自称「音楽通」は(特にアンチは)Mr.Childrenを論じる時、その歌詞ばかり取り上げようとするが(実際、歌詞も素晴らしいのは勿論だが)、メロディラインの美しさ、アレンジの巧緻さには、毎度、胸を打たれる。特に「祈り」の2番、Bメロで鳴らされるメロディアスなベースは、歌声と絡み合って、まるで美しい絨毯を編むかのよう。あるいは「常套句」のサビ、出口で響く効果音は、ギタリストが引くことの潔さ、それが生み出す「不在という存在感」に気付かせてくれる。

正直に言えば、あっと驚くような曲は入っていなかった。でも、それなら自分は何を求めているのだろうか、どんな曲を提示されたら満足したのだろうかと考えてみた時、他ならぬミスターチルドレンの代表作「くるみ」の歌詞が浮かんだ。

《今以上をいつも欲しがるくせに 変わらない愛を求め歌う》

Mr.Childrenは、これでいいのだと思う。僕らが聴きたいのは、まず何よりも、美しいヴォーカルなんじゃないかと。そして、それに寄り添う控え目なアレンジなんじゃないかと。僕らがMr.Childrenに求めていることに、彼らは「勇気ある現状維持」で応えつづけてくれているのではないかと。

年をとって耳が肥えて、口が達者になってくると、人はアラを探すようになる。最近、ミスターチルドレンを聴かなくなった、あれは本物の(つまり刺激やスリルを与えてくれるような)バンドじゃなかったという知己もいて、そいつらの気持ちを分からなくもない。でも、Mr.Childrenは「変わらぬ愛」を示しつづけていて、そこに物足りなさのようなものを感じてしまうのは、きっと《僕の目線が変わってきたから》なのだろう。

もし、いつの日か、Mr.Childrenの新譜を心待ちにはしない時が来たとしても、僕は自分が彼らを好きだったことを覚えていたいと思う。移ろいゆく時のなかで、移ろいながら生きた僕を、ミスターチルドレンは移ろわずに、ずっと支えてくれた(くれている)のだから。

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しかし、だ。
19作目となるアルバム「重力と呼吸」を引っさげたライブで、桜井和寿氏は「自分たちにもまだ伸びしろがある」という趣旨のことを語った。ラストナンバー「皮膚呼吸」の歌詞には、今のままで満足なのかと自問自答する主人公が登場する。Mr.Childrenは今、意識的に変わろうとしているのだ。

僕は今までもミスターチルドレンが大好きだったけど、結局は「成功者」が書く偽善的な歌詞なんじゃねえかと、無礼にも思うことが時々あった。たとえばセットリストの定番である「擬態」で、金持ちが心的に満たされているとは限らないと、桜井氏は強く訴えかけているけれど、お金はあるに越したことはないだろうと僕はひがむ。どう考えたってMr.Childrenは(特に多額の印税を得る桜井氏は)庶民に比べたら満たされているに決まっている。そう思っていた。

しかしライブの中盤に組み込まれた、懐かしのシングル曲「花」の演奏を聴いて思い直した。満たされている人たちは、こんなにも切なく美しくは、音を奏でることはできないだろうと。

ミスターチルドレンの抱く飢えのようなものは、最新楽曲群のアレンジにも、ハッキリと表れている。たとえば「海にて、心は裸になりたがる」のベース。これまで中川氏の演奏には「巧緻さ」を感じていたけど、セルフプロデュースであるという本作のベースラインは、潔いほどにシンプルで、乱暴に言えば稚拙でさえある。それが鈴木氏のドラムが入ってくる瞬間を、鮮やかに引き立てる。僕は、しがない市民ベーシストなので、ギターに関しては大きな変化に気付くことができず田原氏には申し訳ないけど(その人間性には昔から憧れている)、とにかくリズム隊は、明らかに勇壮になったと思う。

本作の歌詞は、意図的に淡白に書かれているようで、正直、個人的にはそういうことはしてほしくなかった(たとえば「くるみ」のような哀切な歌詞が好きだ)。でも、バンドアンサンブルは、本作がMr.Children史上、もしかすると、いちばん格好いいかもしれない。小林氏のキーボードも、もちろん流麗であったが。

満たされている人間などいない。もう僕は中年で、気付くのが遅すぎたかもしれない。でも、そう確信したことで、Mr.Childrenの昔の曲、今回のライブでは演奏されなかった曲までが、今までより一層、愛おしく感じられるようになった。久しぶりに「終わりなき旅」を聴いたら、涙がこぼれた。妻子を持ちファンに愛される桜井氏が、誰と話しても寂しくなるなんてウソだろうと思っていたが(もちろんファンを励ますための優しいウソだとも思っていたが)、あるいは本当に、桜井氏は寂しいのかもしれない。だから人の心を打つ曲を書けるのだと、いま僕は思う。

※《》内はMr.Children「くるみ」「祈り~涙の軌道」の歌詞より引用

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