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なかなか手強いceroとの付き合い方

『Obscure Ride』と『POLY LIFE MULTI SOUL』の相乗効果

ceroの3作目にあたる『Obscure Ride』を入手したのは確か1年くらい前だったと思う。ジャケットの雰囲気も良かったし、メインストリームからちょっと外れたところでの評価の高さに惹かれての購入だったのだが、これがどうもいまいちピンとこなかった。何度か挑戦してみるも、その度に途中挫折を繰り返し、「うーん、今のトレンドってこういうのなんだ・・・」と、一種諦めにも似た独り言が出る始末。

実は、こういった早とちりはceroに限ったことではなく、結構頻繁にやらかしている。それまでの経験値に基づいた閉塞的な趣向で判断を下し、そのまま長期冷凍保存というお馴染みのパターン。最悪の場合、そのまま手放してしまうこともある。

そんな冷凍状態がしばらく続いた後、なんの前触れもなしに、保存していた音楽がそろそろ聴き頃になっているんじゃないかと思うことがある。で、半信半疑に解凍してみると、その予感が的中していたなんて事がたまに起こる。これってもしやミューズのお告げ?などと思ってしまうほどの不思議な現象なのだが、今まで掴みどころのなかったサウンドが「ああ、なるほど、そういうことか」といった具合に、まるっきり印象が違って聴こえるようになり、「いやぁ、こういうのが音楽を聴く醍醐味なんだよなぁ」などと調子のいいセリフも出たりする。

『Obscure Ride』に関しても、ディアンジェロ風のネオ・ソウルなテイスト、クラブ系のジャジー・ヴァイブな音楽性、シティ・ポップに通ずるアーバンで洒脱な雰囲気・・・そういった、なんで最初に気が付かなかったんだろう的な要素が次々と浮き彫りになるに従い、それまでマイナスのイメージが強かったアクの強いヴォーカルがジンワリと馴染みだし、みるみるプラスのイメージに変換されてゆくという好循環を招く。

加えてこのアルバム、当時のブラック・ミュージックのトレンドを速攻で取り入れた感が強く、それが作品全体のフレッシュさと勢いに繋がっているような気がする。雰囲気的には夏の空気感を意識した楽曲が多く、「Yellow Magus(Obscure)」の枯れたフリューゲルホルンの響き、「ticktack」のギターとベースが織りなすドライヴ感、「Summer Soul」の軽快なリズムとキャッチーなサビ、「Orphans」の陽気な管楽器のユニゾンなど、まさにサマー・ヴァケイション的なサウンドが存分に楽しめる。いやいや、こんなのを長らく放置していたなんてホント損した、ああ、来年の夏が待ち遠しい・・・。

そして、つい先日、償いの意も含めてceroの4枚目にあたる『POLY LIFE MULTI SOUL』を入手したのだが、これがまた一筋縄ではいかない雰囲気が漂っていて、ある意味コンセプトが分かり易かった『Obscure Ride』とはかなり異なった印象を抱かせる。

『Obscure Ride』では主流を占めていたジャジー・テイストに代わって、ちょっぴりエレクトロニカ的なものが垣間見える程度で、明確な音楽的ルーツがはっきりせず、季節感もほとんど感じられない。また、自己主張が強かったヴォーカルすらもサウンドと同化してしまい、何か全体を通して混沌とした印象があり、シングル・カットできそうなキャッチーな曲も見当たらない。

「うわぁ、これってどうなのよ」・・・というのが第一印象。そもそも本人達にリスナーの支持を得たいという気持ちがあったのかどうかも怪しい。もちろん、ちゃんと調べたわけではないので、実際どうなっているのかは不明だが、少なくとも『Obscure Ride』以上に売れているという気配はほとんど感じられない。

そんな、一見ポピュラリティが希薄な印象を受けた『POLY LIFE MULTI SOUL』だが、何度も聴き込むに従って、これは「前作が売れたんだから新作は好きなようにやったるぞ」的な、よくあるエゴイスティックなパターンとは違うように思えてくる。それに伴って、結構キャッチーだと思っていた『Obscure Ride』の方がむしろアヴァンギャルドに響き出したりもする。

要するに『POLY LIFE MULTI SOUL』は心地がよくて聴きやすいのだ。やってることは地下室に籠もって黙々と多重録音したような複雑なリズムと音作りなのに、スタジオ・ライヴ的に一発録りしたような『Obscure Ride』よりもシンプルに響いてくるという逆転現象が起こるのだから面白い。

そういった現象の最大要因は、双方のヴォーカルのあり方の違いだろうか。サウンドとリズムに無理なく溶け込むように歌っている『POLY LIFE MULTI SOUL』を聴くにつれ、『Obscure Ride』には、従来のヒップホップとは異なる方法論で、日本語のフロウをどうやってサウンドに絡ませればハマるのか、という実験的かつ挑戦的な姿勢が見え出してくる。思い起こせば、長期冷凍保存してしまった要因は、そういったところにあったのだと妙に納得してしまうのだが、今はそれも良い塩梅で刺激的に感じられる。

1曲1曲の個性が強く、バラ売り可能な『Obscure Ride』と、トータル性が強く、アルバム1枚丸ごとセット販売的な『POLY LIFE MULTI SOUL』、この性格の著しく異なる2つの作品を交互に聴くことによってもたらされる相乗効果は思いのほか大きい。

なんだかんだ、ceroとは長い付き合いになりそうな予感がする。

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