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2017年6月28日

かかし (24歳)
72
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

omoide fight club

僕はベランパレードに恋をした

 
 

何かを好きになる、というのは一瞬の出来事で、
好きなんだ、と気付くことに時間がかかるのかもしれない。
 

今、好きなバンドを知ったきっかけは何だっただろう。

友人から借りたCD
好きなドラマの主題歌
YouTubeのおすすめ動画
音楽番組での生演奏
ラジオから流れてきた音楽
 

好きになるきっかけはそれぞれだ。
さまざまな媒体を通して音楽やバンドと出会い、好きだと思った人たちのライブに足を運ぶのだと思う。
 

しかし、ライブに行く回数が多かったり、ライブバンドを追いかけていたりすると、名前も聞いたことのないバンドのライブを見るということがある。
 

事前知識のないまま見るライブ。
楽しいと感じたり、もっと聴きたいと興味をもったり、世界が広がっていく感覚がそこにはある。
 

しかし、私の場合多くはその時限りのものである。

会場を出ればやはり、目当てのバンドが1番良かったと思ってしまう。
 
 

好きになる、というのはそう簡単なことではない。
 
 
 

2015年12月7日
小倉FUSE

私は、あるバンドと出会う。
 

この日はセックスマシーンと人性補欠のツアーだった。

主役の彼らこそが「お目当て」のバンドであった私には、対バン相手が多いことが少しじれったかった。

1バンド目がはけて、転換15分。
2番目のバンドが出てきた。

ベースを持った白いワンピースの女の子と髪の毛の長いドラム、そして花柄のシャツのボーカル。

1度引っ込んだ舞台袖からは円陣を組んでいるのか掛け声が聞こえる。
妙にそわそわしたのを覚えている。

ベランパレードが登場した。
 

「みんなも一緒に歌ってたらかわいいねぇ!」
花柄のシャツのボーカルがそう言って始まった曲では、ステージと客席で「ほーら♪」と掛け合いをした。
一緒に遊んでいるかのような音楽だと思った。
 
 

「小倉にはかわいい女の子がいないんだ」
「僕は(ベースの)ゆりえちゃんよりもっとかわいい女の子がいいんですよ!」
「このライブハウスはお洒落ぶってて、普通のポップコーンをわざわざカップに入れて売ってる!」
 

好きな女の子をいじめたくて仕方ない幼稚園児のように悪態をつくボーカル。
気が済めばよいのか、話の流れも切り替えのスイッチも分からないまま次の曲へ行くから目が離せない。
 

突然、ボーカルが慌て始めた。コードをマイクスタンドにぐるぐると巻き付けている。何かを間違えたようにも見えるが、これが通常運転なのかもしれない。

「『大丈夫?』なんてね、僕がみんなに言ってあげたいぐらいですよ」
「ジャンプをちぎって書いたセットリストに、偶然なんですけど、『諦めない心』って書いてあるから!」

ボーカルは泣いているのか笑っているのか分からなかった。
 
 
 

ざわざわとしたものを私の心に残したまま、その日のライブは終わった。
 

気になって仕方がなかった。
もっと見ていたかった。
お目当てのバンドのツアーだったのに、めちゃくちゃに壊してくれても構わない、彼らの、ベランパレードの思うようにしてくれ、と思った。
 

この30分間で私は好きになったのかもしれない、ベランパレードを。
 
 

そこから何度か彼らのライブを見ることがあった。
彼らは私の「お目当て」のバンドとの対バンが多かったから。
 

彼らのCDを買おうにも地元のCDショップには置いていなかった。
当時の私には、京都のCDショップで手にしたフリーサンプラーとYouTubeに上がっているMVだけが、彼らの音楽を近くで聴ける手段だった。
 

それ以外は、ライブに足を運ぶしかなかった。
宮崎県のバンドである彼らを「偶然」「ついでに」見られる機会なんてそんなにない。
九州に行ったり関西に行ったり。

本当は、ベランパレードを見たくて行っていたんだろうけど、その意識が当時の私にはなかった。

気持ちは確かにそこにあるのに、
その気持ちが何なのか気付くには時間がかかるのだ。
 
 
 

ライブを思い出すと、印象的だった場面がいくつもある。

ベースの女の子(ゆりえちゃん)が歌うパートになると、嬉しそうに邪魔をするように大きな声を重ねるボーカル(歌王子あび)。

ステージから客席に向けて、口に含んだ水を突然吐き出すあびさんの、その悪戯っぽい笑顔。

モッコリさんのMCに静まり返るフロア。

ステージ中央に高く掲げられたギターとベースとスティック。

サポートギターのKotaさんが入ったときの3人の自信たっぷり気な顔も忘れられない。
そして、サポートメンバーから正式メンバーになったときの4人の満足そうな顔も。
 

そのどれもが、非日常な空間だった。
ドキドキと高鳴る胸の音と、気付いたら潤んでいる目と、熱くなる頬。
好きになるというのは多分、一瞬の出来事なのだ。
 
 

2016年10月5日
彼らは初の全国流通盤のCDをリリースした。
ようやく、彼らの音楽が私の日常にやってくる。
 

予約していたCDを受け取り、家に帰るまでに何度も袋から取り出した。
(歌詞カードだけ見ちゃおうかな、やっぱり家についてからにしよう)

こんなにも何かを楽しみにすることは久しぶりだった。夏休みのキャンプを指折り数えて待ちわびていた小学生の頃のようなそんな気持ちだった。
 

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omoide fight club

こんなにもわくわくすることがあるのか。
好きな子を見つめるときと同じだ、胸が高鳴って目が潤んだ。
歌詞カードをパラパラと捲りながら、次の曲を聴くのがもったいないようなそんな気持ちになりながら聴き進めていく。
胸がきゅんとする。

思い出している、彼らのライブを見たときのことを。初めて見たとき、初めてメンバーに話しかけたとき、初めて泣いたとき。
 
 

「お願い、今は笑って受け取って」

「こんなつまらない幸せが明日も続けと願っている」

「日が暮れたって僕ら仲直り やめないさ くたびれても楽しい」

「君の声が目に沁みた」

「ぼくにさ触らせてくれよ」

「結局僕はここから離れられない」
 

私が彼らに向けた気持ちは見透かされていたのかもしれない。
自分勝手で一方通行で自意識過剰で遠回りな「愛」を歌ってくれているように聴こえる。
そして、今にも全てを壊してしまいそうな不器用な「愛」を受け取ってしまう。
 

かわいいバンドだ。
かっこいいバンドだ。
お洒落なバンドだ。
爽やかなバンドだ。

全部当てはまるようでどこか違う気がする。
私の中で彼らを表すのにぴったりな形容詞は、「大好きな」だ。
 

大好きなバンドだ。

私は大好きになっていたのである、ベランパレードを。

きっとそれは、小倉で見た一瞬の間の出来事だ。
そしてそれは、時間がたって、思い出すようになってようやく気づいた感情だ。
 
 
 

2曲目の「こんなワガママな僕たちを」の中で、彼らにぴったりな、彼らにしか歌えないようなフレーズがある。
 

ーほんとのことも嘘も
ごちゃまぜでそれでも笑う君と
僕は恋をしてた

僕は恋をしてた

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