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スピッツの最新アルバム「見っけ」を聴いて不安を覚えた話

「見っけ」発売によせて

 一聴してこんなにも鳥肌が立ったアルバムは久々だった。
 と同時に、『こんな最高のアルバム出しちゃって次どうするの?』という一抹の不安すら抱かされた。色んなアーティストの新譜という新譜を聴いてきたが、ここにきて初めての不思議な感覚だった。
 
 
 2019年10月9日、熟成を重ねたスピッツの3年ぶりのアルバム「見っけ」が世間にお披露目となった。
 スピッツファンは退屈な日常生活に一喜一憂しながら、誰もがこの日に心を傾けていたのではないかと思う。実際私も朝から外出しなければならない平日を恨めしいと思いながら、逸る心を躍らせながら、新品CDの封を切るあの特別な瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
 
 
 先に断っておくが、私はスーベニア以降のアルバムに関して大手を振って『好きだ』と言う事が出来ない。無論草野マサムネ氏の作詞作曲センスを疑った事は一度もないし、氏を支える楽器隊三人のアンサンブルは老いを重ねても遜色の気配を見せないばかりか輝きを増す一方だ。ただ、そのベクトルの向きは私の求めていたものとは違った。
 ミニマルでダークな作風であり震災の影響からメッセージ性の強いアルバムでもある「小さな生き物」は琴線に触れたが、キャッチーなタイアップ曲やシングルの多い「とげまる」、粒揃いの曲が揃っていて傑作と名高く人気の「醒めない」などには、スピッツの持つファンタジックでスパイシーな顔が強く見えてこず、どうしても心からのめり込む事が出来なかった。

 『最新作が最高傑作』。スピッツだけではなく、よくバンドマンが口にするフレーズだ。
 だが、本人たちの意思に反して私はまだ過去に囚われていた。サイケデリックなシューゲイザーを展開する初期の「名前をつけてやる」や、スピッツの本質的なセンチメンタリズムが凝縮された中期の「フェイクファー」と言った名盤の影にいつまでも閉じ込められていた。そんな状態で本当に、リアルタイムで追っている『ファン』と名乗ってもいいのだろうかという疑念すらあった。
 
 
 しかし今作「見っけ」が、長く先の見えないその霧を打ち払った。私は今、胸を張って『このアルバムを好きだ!』と言える。

 「見っけ」の一番のストロングポイントは何と言っても「CD一枚の統一感」だろう。
 今作はアルバムジャケットの中で驚く女性の背後に様々な本が写っているように、まさしく色んなジャンルのロック・色んな世界観のストーリーを詰め込んだ『短編集』のような構成になっているが、それに反して曲間で不自然なほどに継ぎ目が見えてこない。パンクやUSロック、プログレなどあちこちに音を振り回しているのにも関わらず、だ。オープニングアクトの表題曲「見っけ」を聴き始め、気が付いたら45分という短くも濃密な至高の旅を終えている。草野マサムネのひねた詞の世界観と美メロに、高い演奏力を備えた他の三人が飽きさせないフレーズを挟み、ここに一塊のアートが生まれている。とにかく流れが美しいとしか表しようがない。

 長くなり過ぎてしまうので一曲一曲についてこの場で細かく語るような野暮な真似はしないが、今作で最も印象に残ったフレーズには触れておきたい。最後から二番目に置かれている「初夏の日」という曲の一節だ。

【そんな夢を見てるだけさ 昨日も今日も明日も 時が流れるのは しょうがないな】

 この曲はAメロで『君』との幸福な情景を描いているのだが、それを直後のサビで『そんな夢を見ているだけ』だとバッサリ否定している。スローでフォーキーなまったりとした曲調とは裏腹に、願望混じりの妄想に対して唐突に『現実』と『時間の無情さ』を突きつけるというエグい事をサラッとやってのけるのはスピッツらしいとも言えるだろう。
 ただ、私はそれが悪い事だとは微塵も思わない。スピッツの裏テーマには一貫して『永続性の否定』と『有限性の肯定』があると認識しているからだ。線香花火のように終わりが先に見えている、終わってしまったからこそ、貴いと思えるものが確かにある。
 
 飛躍し過ぎかもしれないが、私はこの一節を耳にしてハッとさせられた時、「見っけ」という良質な、いつまでも浸っていたいと思えるようなファンタジー短編集の本を急に閉じさせられる感覚を覚えた。新機軸で切実なロックが多い今作のアルバムの中でも一番『スピッツらしい』この曲で、実家のような安心感と共に寂しさにも迫られたのである。
 
 だが、この後にこうも綴られている。

【でも君がくれた力 心にふりかけて ぬるま湯の外まで 泳ぎつづける】

 これまで語られてきた『夢』や『旅』から目覚め、『君』もここにはいない。だが歌中の人物はその果てに孤独と別離を受け入れ、遠くの光に近付くために崖をよじ登る覚悟を『見っけ』られたのかもしれない。
 
 こうして束の間のトリップを終えた後、エンドロール的な存在である次曲の「ヤマブキ」に最後に爽やかに現実へと背中を蹴っ飛ばされるのが最高に心地いい。手に持っていた本を置き、外に出て陽の下に赴きたくような痛快さがここにはある。
 
 
 大変遅くなってしまったがスピッツに対して本当に感謝を述べたい。単曲で音楽をダウンロードする時代、サブスクが音楽鑑賞のベースとなりつつある中、『串刺しで聴くべきアルバム』を出してくれてありがとう、と。
 
 初めに述べたように、素晴らしい作品を享受できた高揚感の隅に、高くなってしまったハードルによる次作への不安が常にあるのは否定できない。だが、30年以上の時を経てまた新たなギアを入れて始動したスピッツ。彼らが不安を裏切る稀有な才能を持ったバンドである事を、私はもう既に知っている。

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