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syrup16gを知らない、知りたい

Tour 2019 【SCAM : SPAM】に行って

10月11日、大型の台風が本州の目の前まで迫っている頃、東京在住の僕は福岡県にいた。生まれて初めて、syrup16gのライブに行くために。

シロップのことを最初に知ったのは「ROCKIN’ON JAPAN」の誌面で、最初に聴いた音源は「My Song」だった。予想していたよりもずっと優しい歌を唄うんだなと当時は思ったけど、その後過去のアルバムも聴き、そういう歌ばかりではないということも知ることになる。そんな感じで、僕はシロップのことを好きになり、知っていった。

会場は、線路の下の小さなライブハウスだった。入り口に貼られたA4サイズくらいのコピー用紙が、ここでシロップのライブを行う旨を知らせていた。

入場を待つファン達は皆、僕と同年代か、少し上くらいだろうか。金曜日の夕方。普段どのような生活をしている人達なのだろうか。あの人は仕事帰りだろうか。「詐欺」「迷惑」などとプリントされたTシャツを着て、皆で歩道に列を作り、あまり大騒ぎすることもなく誘導のアナウンスを聞いている。

開場し、開演した。ステージに彼らが現れた。いつかどこかで目にした映像と同じで、3人とも黒い服を着ていたが、それでもわかる華奢な身体つきが妙に印象的だった。

次々に鳴らされるヒリヒリとしたアンサンブルは、僕が学生の頃から繰り返し聴いてきたのと同じ楽曲だけど、だけと同じではなく、その日、その場所にいる彼らの生の声、生の音だったと感じた。揺れるテンポや掠れるボーカルもそうなのだが、もっと抽象的で言葉で上手く言い表せないような、空気の振動、息遣い、視線の交錯、衣ずれ、温度なんかがそこにはあったように思う。これがシロップのライブか。

五十嵐は楽曲の合間に何度もギターを持ち替え、その度に入念に汗を拭き、水分を摂っていた。音が止み、照明も落ちた中でオーディエンスは固唾を飲んでそれを見守る。

中盤、五十嵐がストロークした右手を布袋寅泰ばりに高く掲げようとし、マイクを弾き飛ばしてしまうという場面があった。オーディエンスは楽しくて笑い、五十嵐は恥ずかしそうに笑った。
(五十嵐曰く『今のを動画に収めた奴、…絶対殺す』とのことだが、文字だけなので許してほしい)

ライブはその後も進行し、あっという間に終わってしまった。本当にあっという間に。

僕は何も知らないのだ、と思う。

ライブ会場の規模や雰囲気、ファンの表情やファッション、メンバーの細い体、テンポが音源より1.3倍くらい早い楽曲、五十嵐が1曲終えるごとに息を切らすこと、話す声と歌声がほぼ同じだということ、時々見せたはにかむような笑顔、使用するギターのモデルとその多彩さ、中畑の穏やかなMC、一言も発さないキタダ、でもファンの声掛けに笑顔で手を振ること、果てしない絶望や悲しみの歌の数々が、こんなにたくさんの人々を生かしていること。

初めてシロップを知ったのが高校生の頃なので、もう十数年間ずっと彼らを好きでいた。それは間違いない。でも、それでも何も知らない。ライブで初めて気付くことがこんなにあるなんて。そして気付いたこと一つ一つが、昔からなのか、彼らが少し歳をとったからなのか、あの日限りのことだったのかも、やっぱり知らない。

知らないことだらけで恥ずかしいような気がしたけど、それでいいじゃんとも思う。今はただ、目の前の風景、音、匂い、熱を、圧倒的な存在感を信じていれば、それで。人と人との関わりだって、多かれ少なかれそんなものだろう、きっと。本当に知るべきことは、相手が知ってほしいと思うことは、きっと後からでも知ることができるはず。

ただし、それは彼らが存在していればこそだ。考えたくはないけど、もし今後バンドが無くなったら、ライブも音源も生まれなくなってしまう。一度終わったシロップだから、その辺りはちょっと笑えないレベルで切実だ。シロップのまだ知らないことを知りたい僕としては、今回ライブに行けたこと、バンドが続いていくことには感謝してもしきれないのだ。ありがとう。

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