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今の音楽業界に対する宣戦布告?

矢沢永吉の濃すぎる存在感とあまり語られない音楽性について

音楽が好きだ。でも、ミュージシャン自体にはあまり興味がない。いや、ミュージシャンのリアルな思想、人間性、私生活などに触れる事を恐れている、と言った方が正確かもしれない。何故なら、パーソナルな情報を知れば知るほど、過剰な共感や親近感が芽生え、音楽に対する冷静な判断力が鈍るのではないかと想像してしまうからだ。

ミュージシャンは黙々とイイ音楽を作り奏でる。リスナーは無心に粛々と音楽に耳を委ねる。それがミュージシャンとリスナーの最も健全で理想的な関係なのではないか。

思い起こせば、90年代のエレファントカシマシ日比谷野音ライヴには、そんな理想的な空気感があったような気がする。スタンディングはおろか、拍手さえ気恥ずかしいと思ってしまう自分にとって、これほど居心地が良くてありがたい空間はなかった。

ライヴ中、宮本がたまにボソボソと独り言みたいに喋るだけで、コール&レスポンスは一切無し(宮本はやりたかったのかもしれない)。曲間には「シーン」という無音の音が響き、演奏が始まれば観客は皆黙って耳を傾けた(とても騒ぐような雰囲気ではなかった)。アンコールは一切無く、それを要求するファンもいなかった(ホントはもっと聴きたかった)。

あれから25年、そんな僕の目の前に突如、いや遂に、お近づきになって色々知りたいと思わせるミュージシャンが現れる。

その名は矢沢永吉、御歳70歳。

2019年8月、矢沢自ら「これが最後になるかもしれない」と宣言した、通算33枚目となるオリジナル・アルバム『いつか、その日が来る日まで…』のリリースが間近に迫り、それに合わせる形で放送されたNHKのドキュメンタリー特番に僕は釘付けになった。

「うわっ、永ちゃん、めちゃめちゃオモロいなぁ・・・」

勿論、永ちゃんは人を笑わそうとしている訳ではない。全てが大真面目で超本気、だからこそ面白くて仕方がない。永ちゃんのロック歌手としての思想、人生論、面白すぎる人間性を、もっともっと知りたいと素直に思ったし、特番が終わってしまうのがものすごく寂しかった。

そこでふと、一つの疑問が頭に浮かんだ。そもそも、平均的なロック・ファンの間で、矢沢永吉ってどういう存在なんだ?・・・と。洋楽ロック・リスナーにとっては、初めからチェックの対象外となっている可能性が高いし、かといって邦楽ロック・リスナーが好んで聴いているともあまり思えない。では一体誰が矢沢永吉を聴いているのだろうかと。

何がきっかけだったかは忘れてしまったが、自分が矢沢永吉を意識して聴き出したのは確か40歳を過ぎた頃だったと思う。とりあえずファンの間で傑作と認識されているアルバム『ゴールドラッシュ』『P.M.9』『E’』を聴いてみたのだが、これがとんでもなく大当たりで、遅ればせながら「永ちゃん最高!」と認めざるを得なくなった。

この、“認めざるを得なくなった”というところに、長年ロックを聴いてきた自分と永ちゃんとの微妙な関係性が垣間見れるわけだが、なんというか、洋楽がどうの邦楽がこうのなんていう、せせこましい垣根の向こう側に広がる大海原で、永ちゃんのロックは朗々と響き渡っているんだろうな、と思い知らされてしまったのである。

ということで、キャラが立ち過ぎているせいか、肝心の音楽についてはあまり語られていない印象のある矢沢永吉の、どういったところを最高だと感じたのか、ちょっと分析してみたい。

まず、歌詞を全て他人に任せ、本人は作曲に専念するというスタイル(僕が聴いた範囲において)。当然歌詞は永ちゃんが書いているものとばかり思っていたので、これはかなり意外な気がしたが、その賜物なのだろうか、メロディ・メイカーとしての非凡さが随所に感じられる。特にミディアム・スロー、バラード系にそれがより鮮明に現れているように思える。

また、元キャロルということもあってか、ロックンローラー的イメージが強い矢沢だが、実は都会的で洗練された要素が結構あることに気づかされる。いわゆるAORとしても機能するという側面があり、それが幅広い年齢層からの支持につながっているのではないか。本場アメリカのAOR系ミュージシャンを起用した作品が複数あるところからも、元来それが矢沢の意識的な狙いであったとも解釈できる。

そして、永ちゃんに惹かれる最大の要素、それは、やはりあの必殺の歌声だろう。そう、文字通り、誰もが必ずヤラれて魂をグアッと持っていかれそうになる禁断の節回し。これこそが、何物にも代え難いE.YAZAWAサウンドの肝なのだと思う。

CDがほとんど売れなくなってしまったご時世にも関わらず、最新アルバム『いつか、その日が来る日まで…』は初週で11万枚を突破したそうだ。NHK特番の影響があったにせよ、それだけ多くの人が永ちゃんの音楽に魅せられている。これは疑問を挟む余地のない純然たる事実。永ちゃんの事は知ってるけど音楽は聴いた事が無いという方はこの機会にお試しを。

では最後に本題。

永ちゃんがドキュメンタリー特番で言い放った、ある意味、今の音楽業界に対する宣戦布告とも取れる発言を勝手に深読みしてみたいと思う。

「もう今ね、日本さ、もうガキばっかりの音楽だから 
                  大人の音楽そろそろ出さなきゃまずいんだよ」
 

一見、ロック・バーかなんかのカウンターに陣取って、自称音楽通のおじさんが言ってそうなこのセリフ、E.YAZAWAが発すれば一味違って聞こえてくる。

ここで永ちゃんが言うところの「ガキ」は「今時の若い連中」という意味ではない気がした。ガキみたいなしょーもない音楽をやってるのは、なにも若い連中とは限らない。また「大人」というのも年齢的なことではなく、もっと抽象的な、音楽に対する信念のような意味合いにも受け取れる。故に、この発言は単なる業界批判というよりもむしろ、矢沢が70歳の体にムチ打って贈る、次世代ミュージシャンたちへのエールのようにも思えてくる。

「もうとりあえずね、俺がさ、先陣きるから、あとヨロシク!」

・・・と、笑顔で言ってくれそうな永ちゃんの後に続くのは、一体誰?

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