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声の側で 心を歌うギタリスト

ワディ・ワクテルが捧げたローリングストーンズ人生

アメリカの1970年代ロックを聴いているとき、
音楽を聞きながら、このギターは誰が弾いているんだろうと思って、出来ればその人の名を調べてみることがある。
今までに何度も気になった名前は、
WADDY WACHTEL(ワディー・ワクテル)という人だった。

まず最初に気付いた時、聴いていたのは、ソウルミュージックの三姉妹ヴォーカルグループ、ポインター・シスターズのアルバム「PRIORITY」の中にある、
“Happy”という曲だった。

1979年の「プライオリティ」のアルバムは全編が英米のロック、ポップに関する名曲のカバーで出来ていた。
“Happy”は、やはりもちろん、ローリング・ストーンズのカバーに決まってる。”Happy”は名曲でありながらあんまり取り上げられていないカバーだ。その時点で最高な選曲センスだろう。

アレンジは直球でやっている。ワイルドなポインター・シスターズはめっちゃ格好いいが、ストーンズのオリジナルと同時に聞き比べれば、分はわるいかもしれない。けれど、このアルバム内で始まる”Happy”の鮮やかさは言葉通り幸せだ。そこでキース・リチャーズになっているのが、ワディ・ワクテルというわけである。
物まねでなくキースへの敬意を感じさせるギタープレイは不自然になく、ポインター・シスターズのロックンロールを煽る。
 

キース・リチャーズに憧れているアメリカのギタリストも、いろんな人がいるのかもしれない。ニール・ヤングのバンドで幾つもギターを弾いていたニルス・ロフグレンという人がいる。

1977年の、Nils Lofgren「I Came To Dance」のアルバムにも、ストーンズの”Happy”がカバーされている。しかし、解釈はかなり違っている。これはこれでクールな格好よさだ。このアルバムはギターとドラムとベースの絡まりが何かと斬新だと思う。
このアルバムではないけれど、ニルス・ロフグレンのキース愛は、”Keith Don’t Go”という曲で爆発している。1975年らしいが、ニューヨークパンクを先取りするみたいに熱い。ニルス・ロフグレンのギターにも形ではないキース・リチャーズ魂を感じさせるところがある。

こういうギターを同時代で鳴らせているのは、イギリスでいえば、リチャード・トンプソンのような気がする。ここではその話はやめる。
話がニルス・ロフグレンに行ってしまっている時点で脱線だけれど、ワディ・ワクテルの事だ。
 

ワディ・ワクテルは、
ギタリストとしてアメリカのウエストコーストロックの人脈に関わっていて、その時代の活動は多い。

1980年になって、やっと自分の声で歌うバンドを作っている。それは、アルバムがただ一枚しか残されていないが、「RONIN」(ローニン)という。ここでは、ワディ・ワクテルがほとんどを歌っている。

「RONIN」の全編を聴いていると、やはり思い浮かぶのは、キース・リチャーズに合わせて、その相棒でもあるロン・ウッドの同じ時期の感覚だ。ここで並べるなら、1979年のRon Wood「Gimme Some Neck」というアルバムかもしれない。それならば、そこにも関わっているイアン・マクレガンのアルバム、1979年のIan Mclagan「Trouble Maker」だって浮かんでくる。
これらの精神の中心にはいつもキース・リチャーズのラフでタフで酔いどれたロックンロール感覚が寝っ転がっている。
共振する感覚として併せて聴いていたい。

ワディ・ワクテルを思い出していて、ふと思い付く事があった。
1976年のピーター・アイヴァース「Peter Ivers」には何故かワクテルの参加があったんだった。ピーター・アイヴァースの歌の印象はかなりヘンだった。経緯は分からないけれど、ギターが激しく鳴っている”Gilbert and Sylvia”がワディ・ワクテルの演奏だとしたらそれも面白い。
 

いろんな歌い手の演奏を手伝うバンドのギタリストとしてのワクテルの存在感は、キース・リチャーズ感覚とはまた別のものもあるから、そこが実力者であることの証だと思う。

忘れられないのはリンダ・ロンシュタットのアルバムに於けるワディ・ワクテルのギターだ。
1977年の「Simple Dreams」のアルバムには、またもや、ローリング・ストーンズの”Tumbling Dice”のカバーが入っている。ストーンズのオリジナルのように含みを持たせたリンダ・ロンシュタットの歌も良い。それに寄ってゆく演奏の後半部には、キースの如くワディーのギターが心を揺らせる。やっぱり良いよね。

キース・リチャーズに似ていても何の意味もないし、そんなものは、たぶんろくでもないが、心が歌えるならそれは信じられる。

リンダ・ロンシュタットの歌う曲で覚えておきたいのは、1978年の「Living In The USA」のアルバムにある、”Mohammed’s Radio”だ。歌の作者はウォーレン・ジヴォンという。
1976年のWarren Zevon「Warren Zevon」のアルバムに、この曲”モハメッズ レディオ”のオリジナルバージョンが入っている。
そのアルバム全編でワディ・ワクテルがギターを弾いているけれど、後のリンダ・ロンシュタットのカバーにもワディが関わる。
リンダの方は、ウォーレン・ジヴォンよりもより一層に抑揚があり、うちひしがれ、かなしみにおちて、幾らばかりか投げやりで、せつない。そこに合わせるワディのギターは目立たずとも、涙ぐましく素晴らしい。
このうたも心の歌だ。

ワディー・ワクテルは、
心を歌うギタリストだと言えるんじゃないか。

キース・リチャーズもちゃんと聴いていてくれたんだろう。1988年にキースのバンドへと参加し、ライブツアーでも共演している。

僕はキース・リチャーズの歌、”Eileen”が大好きだ。
この歌がキースの最高傑作だと信じている。
ライブで演奏している姿を見れば、となりでギターを弾いているのはワディ・ワクテルだ。
憧れのキースの横でギターをかき鳴らす気分の高揚はどんなものだったろう。

お互いの音楽人生を繋いだ美しい糸が見える。
ここには敬意がある。
うらやましい敬意である。
 

キースは本物だ。

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