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アニバーサリーをみつめた夜のこと

the pillows 30周年ライブ LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA

終電をめざして急ぎ足で新横浜駅に向かう雨の夜。前を歩く人が着ているTシャツの背中に書かれた「DON’T FORGET TODAY」の文字をじっと見つめながら、今日の記憶をなるべく鮮明なまま明日へ連れて行けます様にと願った。祈るというよりはもっと差し迫った、半ば縋るような気持ちだった。興奮と切なさは心に収まりきらないくらい溢れていたけれど、ひとつもこぼれ落ちてほしくなかった。

そのくらい、特別な夜だった。
 
 

ピロウズを知ったのは高校生の頃、10年ほど前。バイト先にピロウズファンの女性が入ってきたのがきっかけだった。かばんに大量の(かばんの片面がびっしり覆われるくらい、ほんとうに大量の)バッジをつけ、携帯かなにかにキーホルダーをじゃらじゃらとつけていた記憶がある。そのひとつにオレンジ色の犬のようなものをみつけて「これ、かわいいですね」と言うと、クールで無口な人だと思っていた彼女が突然勢いよく話しはじめ、ピロウズというバンドのバスター君というキャラクターなのだと教えてくれた。

その後、気になったので軽い気持ちでおすすめの曲を尋ねると「ちょっと待っててね」と嬉しそうに言い、数日後、わたし専用にセットリストを組んだ2枚組のCDを渡してくれた。こんなことをしてもらうのは初めてだったので、かなり驚いたのを覚えている。あとから知ったのだが、バイト先の他の人にもそれぞれに合ったベスト盤をつくって渡していたらしい。
趣味を聞かれれば音楽!ライブ!と答える今のわたしでも、これほどの熱量はちょっと持てそうにない。すごい人だなぁと今でも思う。

その後、大学へ行き始めたくらいのタイミングでバイトを辞め、何度か一緒にライブへ行った彼女となんとなく疎遠になってからも、ピロウズの音楽はわたしから離れなかった。
全曲を覚えたり全ツアーを追いかけたりしていたわけではないが、毎年行っているフェスにピロウズが必ず出演していたため、年に1度はステージを観に行きパワーを貰っていた。心が弱っている時にふと聞きたくなり、「こんないい新曲が出てるのか…」と気づき、何度か対バンやワンマンに行くこともあった。大人になるにつれて音楽の趣味が合う友達が増え、ピロウズの話になることも多かった。
 
 

そんなピロウズが30周年ライブをすると知ったのは2018年のARABAKI ROCK FEST.だった。ステージ上で上機嫌にビールをのみながら(そんな事をするバンドマンを見るのもわたしにとっては初めてだった。学校でちょっとだけ校則を破っているかっこいい先輩を見ているような気持ちになり、なんだかドキドキした)「俺たち来年30周年なんだ、色んなことをするつもり。お祝いライブもすると思うから来てくれ」と話すさわおさんを見て、わくわくしたのを覚えている。

アニバーサリーライブは結成日にあたる9月16日に開催されるものだとばかり思っていたのだが、諸事情あったらしく10月17日、横浜アリーナと発表された。
平日の木曜日。わたしは関東に住んでいないため遠征、ライブは夜なので翌日の金曜も休まなければならない、おまけに今の仕事は9月に部署移動をしたばかり…。かなり迷ったが、これはわたしとピロウズのお祝い!冠婚葬祭だ!という気持ちで有休申請をした。嫌な顔は、まあ、された。
 

当日、譲ってもらったチケットで運良く最前ブロックに入ることができた。周りには長年のバスターズと思われる方々がいらっしゃったのでかなり緊張した。始まる直前、今ピロウズのみんなはどんな気持ちなんだろうと思いを馳せた。以前、さわおさんがインタビューで今日のライブについて「いい緊張感の中でやりたい」と話していた記事を読んだ気がする。いい緊張、できているだろうか。

そして、開演した。

オープニングにメンバーそれぞれの幼少期からの写真スライド(これについて語っているとものすごい量になりそうなので割愛するが、何度でも観たい、素敵な映像だった)が流れた後、目の前の真っ赤な幕が開くよりも先に、さわおさんのアカペラが響いた。
 

「聴こえてくるのはキミの声 それ以外はいらなくなってた」
 

全身に鳥肌がたつのをはっきりと感じた。幕がすべて開いたときにはとっくに涙で視界が滲んでいた。そして、つづく歌詞がやさしく重たく響いた。
 

「溢れる涙はそのままでいいんだ もしも笑われても」
 

頭のてっぺんから爪の先にすこしだけ残ったペディキュアまで、自分でもよく見えないくらい深いところにある心の奥底まで、すっぽりと包み込まれた気がした。
そこからしばらくは、盛り上がりつつもひとりでぼろぼろと泣いていた。
 
 

セットリストは歴代のヒット曲をたっぷりと堪能できる内容だった。ライブの参戦(よく使う言葉だが改めて考えると不思議だ。参戦。なにと戦うというのだろうか…)回数があまり多くないせいか、CDでは何度も聴いていたけれどライブでは初めて、という曲もわたしにとっては多かった。
驚いたのは「Kim deal」だ。自分の中では1.2を争うほどの大大ヒット曲だったのだが、アニバーサリーライブで演奏されるほどの支持を獲得している曲だとは知らなかった。「僕の涙を乾かせるのは みんなの好きな下らない歌じゃない 世界中探してもキミしかいない」という歌詞に何回も何十回も自分とピロウズを重ねた、この10年間を思い返した。
 

高校生から大学生、社会人と歳を重ねるたび、仕事をするたび、恋するたびに、自分は生きていくうえであまりに冴えないのだということを思い知らされた。これといった取り柄もなく、何事にもうまく立ち回れず、不器用で、目立たないくせになぜか周りに馴染むこともできない。時間が経つほどその憂鬱は色濃くなり、思考はどんどん捻くれていった。

そのたびにそばで歌ってくれていたのがピロウズだった。ピロウズの歌詞にはポジティブなメッセージが多いが、ただ力強くて格好いいだけの歌ではなかった。引っ張られたり背中をどんと押されたりする感覚は不思議となく、いままで聴いてきたどんな音楽よりも圧倒的に優しかった。自分を曲げない強い信念の裏に、曲げられない不器用さを持っているように感じた。それを認めて、愛して、そのうえで自分の好きなように生きていっていいんだと教えてくれた。
 

「君といるのが好きで あとはほとんど嫌いで
まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン」(ストレンジ カメレオン)

「皆いったいどんなシステムで 感情をコントロールしてるんだ 気が狂いそうで泣きだした僕がまともなんだよ」(Blues Drive Monster)
 

「嫌いなモノを嫌って 嫌われてしまえば良い 好きな道を歩いて 人生と呼べば良い」(YOUR ORDER)

「キミを前に運ぶのは キミの足だけさ」(都会のアリス)

「誰にどんな事を言われても良い キミ自身がどう在りたいかだ」(Biography)
 

10年前にピロウズを教えてくれた彼女や、昔のツアーグッズであろう少しよれたTシャツをお揃いで着ている夫婦、汗をかきながら拳をつよく上げているバスターズの方たちは、わたしなんかよりもずっと思い入れが強いのかもしれない。この日は仕事かあ…どうしよう…なんてくだらない迷いは一瞬もなくこの日を選んで来たのだろう。

それでも、誰かと比べる必要のないわたしの心は、しっかりと熱くなったり動いたりしていた。ピロウズはわたしにとっていつのまにか欠かせない存在になっていたということを、このライブではっきりと実感できた。一等の価値がある夜だと思えた。10年間、弱くて捻くれたわたしにそれでいいと言い続けてくれて、お守りのように強くて優しい歌を届けてくれて、今日ここに連れてきてくれた彼らが、とてつもなく愛おしかった。
 

ダブルアンコールの最後に披露してくれた「Funmy Bunny」では、1番サビでのバスターズによる合唱のあと、さわおさんが大サビを力強く歌った。

「飛べなくても不安じゃない 地面は続いているんだ 好きな場所へ行こう ‘’僕らは‘’それが出来る」
 
 

その後、メンバーが退場する中さわおさんがひとり残り、短いMCをしてくれた。

「俺は音楽業界を信用していない。けど、キミたちのことは信じたいよ」

ファンにとってこれほど嬉しい言葉があるだろうか。それも、そう簡単に何かを信じたりしそうにもない彼が。これこそが30年の積み重ねなんだと思った。「信じる」ではなく「信じたい」というところがなんとも誠実で、誇張も嘘もない気持ちだと感じた。
 
 

終わってみればなんとトリプルアンコールまであり、3時間におよぶライブとなった。今日のライブにふさわしい名曲がありすぎるせいだろう。せいぜい2時間程度だと予想して、終電は余裕だなあなんて考えていたのだが、甘かった。
 

なんとか終電に乗り込んで一息つくと、電車のドアに自分の姿が映った。ライブ前に整えたはずの髪はぼさぼさで、泣き腫らした目の下に落ちたマスカラがくっついている。ぼろぼろすぎて笑ってしまったが、こんなに必死になれた日はいつぶりだろうと思うとなんだか嬉しかった。

ぐちゃぐちゃの顔から目を離すと、リュックにつけたバスター君のキーホルダーと目が合った。
ほんの少しだけ、笑ってくれているような気がした。

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