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ノイズでしかない、自分の呼吸さえ

ずっと真夜中でいいのに。潜潜ツアーライブレポート

恋に落ちていた、曲が始まる度に。
自分でも気付かないくらい、深く。

歓声が上がった。
持っている荷物を慌ててロッカーに放り投げ、少しだけ重い防音のドアを開ける。
始まるイントロ。僕が入るその瞬間まで待ってくれていたかのように。

最悪だった。コンディションは。
このライブハウスの中で、ステージ上のACAねと最も遠い距離にいた。
閉めたドアに背を付けたまま進めない程、満員の観客席。
眼前には柱があり、何とか身体の半分だけ乗り出しステージを見る。
それでも…ほとんど見えない。こんな状態で楽しめるのか。
募る焦燥感、何をやっても上手くいかない事への苛立ち。
せめて声だけでも、せめて一目だけでも。

懸念は杞憂に終わった。
一瞬で全てを奪い去っていくACAねの歌声。

ゲノム編集によってDNAを操作されたとしか考えられない。
こんなに自分の好きな歌声に出逢えた事。
今迄の嫌な出来事全てと等価交換だったと思えるほどに。

曲が終わる。間髪入れず口遊むACAね。
次の曲も人気の高い曲だった。

会場の熱が上がる。
振り落とされないようにしがみつく。
人波に溺れないように、人並みになれるように。

曲が終わるとMCに入る。
歌っている時とはとても同一人物とは思えないギャップ。
憑依型であろう豹変ぶり。
まるで言葉を覚えたばかりの子供のようにゆっくりと喋る。
言葉を確認しながら喋るACAねに観客も落ち着きを取り戻す。

「今日は機嫌が良いので新曲をいっぱい歌います」

期待と不安が交錯する。
「好きなアーティスト」が「好きだったアーティスト」に変わるのは新曲の影響が大きいから。
いつまでも…変わらないでいて欲しいと願う気持ちと、時代に取り残されてしまわぬようにと祈る気持ちの葛藤。
昔の方が良かったと懐古する気持ちが強くならないように。

いつだって我儘ばかりのファンに応えるには、
小匙一杯の調味料で一変してしまう味付けを…匙を投げる事なく超魅力的に仕上げなければいけない。
些事に囚われずに。
そんな不安な気持ちをよそに新曲が始まった。

否、始まったのは神曲だった。

戦慄が走るような旋律。

壮大なバラードでは、しっとりと歌いあげる…とはまた一味違う。
唯、ひたすらに…切なさが刹那に襲ってくる。
ACAねのエモーショナルな声の為せる業か、情緒が鷲掴みにされる感覚。

つい先程まで盛り上がっていた会場。
本当に同じ場所なのか?曲によって空間までも一変させる。

身体が言う事を聞かなくなる。
無意識で行なっていた事が意識しないと出来なくなっていく。

呼吸が出来ない。いや、したくない。
ACAねの歌声以外何も要らない。

自分の呼吸の音さえノイズでしかない。

鼓動の音。こんなに大きく鳴っていたのか。
心臓の場所を否が応でも思い出す。今だけは止んでくれ。
ベースの低音と、低温になった鼓動がシンクロしていく。
BPMに併せるように。

たった1秒さえも無駄にしたくない。
五感に全神経を集中させる、互換出来ないこの時間に。
このライブは自分の人生においてハイライト。
走馬灯に流れるBGM、これでお願い。

比類無い。このライブは。
ずっとこの幸せな時間が続けばいいのに。と思った。
ずっと真夜中でいいのに。って名前の意味、少しは理解出来たかな。
 

思えばライブに来たのはGLAYの伝説の20万人ライブ以来だった。
1999年7月31日。あれからもう20年も経つのか。
ずとまよのライブも伝説になるレベルだった。

子どもにとっては初めてのライブだった。
ずとまよが好きでギターを始めた。
ライブに行くことが決まってからは毎日の楽しみだったおやつを我慢して、
ずとまよのTシャツを買うんだとお金を貯めていた。
大人にとっては、少し高いかなくらいでも子どもにとっては1ヶ月のお小遣いだ。
それでもちゃんとTシャツが買えるお金を準備できたのも、それだけずとまよが好きだから。

平日なので学校が終わってからのライブ参戦だった為、スケジュールはタイトだった。
にも関わらず…電車が遅延していた。
この日の為に頑張ってきたんだよ。何とか間に合ってくれって。
最初からちゃんと全部見たいんだ。

電車が駅に到着したのはライブ開始10分前くらいだった。
飛び出した。電車のドア、っていうかゲートが開いたディープインパクトと変わらないくらいの勢いはあったと思う。
走った。かのメロスのように。

同じように電車から飛び出して走っていた若者が何組かいた。
ライブハウスの場所、もちろん調べてはいたけど若干不安だったからファンがいて安心した。
その中の2人組に付いて走った。メチャメチャ混んでる駅から2人を追いかけながら自分と子どもも走ってるから
自転車競技の大会みたいになってた。先頭の子がバテて下がってきたら後ろに並ぶみたいな。
これなんてツール・ド・フランス?

でもやっぱり若い子達は足が速いからドンドン離され始めてて。
子どもは「瞬足」履いてるから左右非対称ソールがコーナーで差をつけるけどこっちはおっさんだから。
山の神には勝てない訳で。
結局、見失ってから気付いたんだけどその子達、ライブハウスに向かってなかった。
時間をロスしただけだった、アディショナルタイム無いし。

ライブハウスに着いたのは1分前くらいだった。
受付でワンドリンク代の500円掛かる事は知ってたので自分と子ども、チケットと500円玉を握り締めていた。
これ以上のロスタイムは許されない。

颯爽と受付を通り過ぎ…れなかった。
値上がりしてた、ドリンク代。600円。こんな所で消費税増税の煽りを喰らう。

それでも何とか間に合ったんだけど超満員なの。
さっきの電車かなってくらい。乗車率200%。
子どもには人が多いから逸れないようにって口酸っぱく言ってたんだけどね、秒で迷子。
中に子ども1人分くらいスペースがあるのを見つけて駆け上がっていった。
何なの?右サイドバックから上がっていく長友なの?
こっちはドアが開く度にぶつかって頭を下げての繰り返し。露呈してた、決定力不足。

ライブはもう最高で、最初2曲続けて人気曲だった時は
「前半に畳み掛けるな」って心の中の四千頭身後藤がツッコんでた。

ACAねのMCは本当かわいくて
「新曲一緒に歌ってください」って言うんだけど
新曲だからもちろん聴いたことなくて騒つく会場。
それに気付いたACAねは言葉に詰まりながら
「一緒に頑張りましょう」っていう謎の締め。唐突に始まるイントロ。

「蹴っ飛ばした毛布」っていう曲名を「蹴っ飛ばした布団」って言ったり。
ライブ名古屋だったんだけど「ひつまぶし食べた」みたいな地方トークしてて、
あと「あれ美味しかったってエビをパンで挟んだやつ」って。
エビをおにぎりの中に入れた天むすの事かなって聞いても「パンで挟んだやつ」って。
そこにいる地元民も分からない謎の食べ物の話をしだして唐突に始まるイントロ。
これはもう定番なんだけどACAねがけん玉がをしてるのをみんなで応援して。
最後失敗しちゃったんだけど唐突に始まるイントロ。

歌は流石だった。どういうシステムか分からないんだけどCDを軽く超えてくる生歌。
あの小さな身体の何処からあんなパワフルな歌声がって思う。
まあ、お腹しかないんだけど。

「彷徨い酔い温度」ではみんなでグッズの杓文字を叩くんだけど、
グッズ買えなかったから必死に手を叩いてて気付いたら1人だけなってた、盆踊り。

アンコールでは新曲とデビュー曲っていう神セトリ。
デビューから今迄を振り返るような気分になる。

ライブの余韻に浸りながらグッズの列に並ぶ。
子どもはお目当てのTシャツが買えて満足そうだった。
僕は何が出るか分からないガチャ方式のキーホルダーが気になってた。
でもチケット代や電車代とか結構使っちゃったからすごい迷ってた。
全部で6種類あるから1つ買ったら揃えたくなるだろうし。
結局キーホルダーを6個買ったんだけどその内4個被るっていうね。

ずっと迷ったままでよかったのに。

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