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寄り添う音「By Your Side」

Nothing’s Carved In Stoneの10年、その先に続く未来

毎年アルバムリリースすること9回。その事実を生み出す熱量はどんな言葉をもってしても全てを表現するに至らない。10という数字をただのキリのよいアニバーサリーにしないところが彼ららしい。
独立し自主レーベルSilver Sun Recordsを立ち上げ、10枚目にしてレーベル1枚目のアルバム「By Your Side」。
ファンが求めてやまぬナシス節を喪失することなく新しい音が義務付けられた記念すべきアルバム。しかし彼らは、年1枚の呪縛を解きはしたものの、事務所立ち上げの煩雑な事情を考慮すれば、実に早く我々に新たな音を届けてくれた。
Nothing’s Carved In Stoneは常にメンバー各々が他の活動を並行して行っている忙しいバンドだ。そもそもこのバンドを立ち上げた生形所属のELLEGARDENが活動休止という区切りである限り、ナッシングスファンには活動を再開したら今のバンドはどうなるのか?という不安が常に脳裏にあった。だから他のメンバーが別の活動を増やしたりましてやエルレ活動再開はうれしい反面複雑な想いを内包していた。
そんな我々の不安を粉砕するが如く1月に自主レーベルを発表、翌月豊洲PITで「明日が怖いとなげいていた君を連れ出して
世界を見せる」と「Beginning」を高らかに歌った。
そう、ナッシングスとは常に前を向いているバンド。我々が余韻に浸っているうちにもう次の曲をアルバムをライブを考えているバンド。(生形のせっかちさに引っ張られ笑)リスナーである我々も安堵の涙を流している暇はない。共に「銀の月」を背負い、新しい音、新しいナッシングスを全身で受け止める。
しかし終焉の危惧から一転、継続の安堵と新たな始まりの高揚を得られたとはいえ、アルバムを聴くまでは両手放しによろこべない。
事務所を退所したということは、これまで楽曲制作に利用していた環境ではなくなるということ。そうしたハード面の変化と10年という積み重ねがどう作用するか、正直不安を抱かずにおれなかった。
まずシングルリリースされた「Beginning」。音とMVを確かめるように隅々まで注意深く聴いて見て噛みしめる。音もビジュアルもシンプルでナッシングスのカッコよさがストレートに表現されている。
しばらくして「Who Is」、「Blow It Up」と音源発表がされた時にはもう確信した。環境が変わっても確かなナッシングスの音、そして新しい音を感じる爽快感、次のアルバムは期待していいのだと!
メディア取材やブログで垣間見る、動き始めた新たなナッシングスは、少しでも多くの人に早く新しい音を届けたいという丁寧な思いにあふれていた。その忙しさを心配しつつも、待ってていいのだ、という安心感は何より心地よい。しかし今までとは質の違うリリースを待つ入り乱れた感情は何とも表現し難く、日常に異常をきたす程であった(実際皿を大量に割ってしまうくらい嘗て経験したことのない落ち着きのなさだった)。
そうして迎えたニューアルバム「By Your Side」。
全体的に音がよりクリアになった印象。
まず一曲目「Who Is」。日向の不気味な程動く指、ライブで脳髄まで切り裂かれるなと想像できてしまう生形のギター。いつにも増して思う。このゴリゴリベースと爆音ギターをしっかり支えるドラミングが、オニィのこの華奢で柔らかな印象の風貌から想像できない。力で叩くイメージなく、パワフルに聞こえる不思議。だがあるアーティストがダイナミックなダンスのポイントとして「緩急」と「丁寧に」を事あるごとに語っているのを聞いて納得した。手数が多くても常にていねいで、ミュートがピシッとハマる。真面目でタイトなドラミングは結果躍動感につながっているように思う。
村松拓の歌がより前に聞こえるのもいい。
「Blow It Up」は彼の声の良さが1番出ている楽曲のように思う。村松は個性ある声の良さだけに頼らず、どの楽曲もしっかり受け止め、曲ごとに歌い方を考え、大切に歌っているのがとてもよく伝わる。 そうした努力の積み重ねが余裕をも感じる声の伸びに繋がり、演奏力あるナシスサウンドとがっしり噛み合う。この曲はナッシングスだからこそなし得るカッコよさではないだろうか。
ぱっと聞いてとにかく耳触りがいいのが「Alive」だ。生形の瑞々しいギターの鳴りが実に心地よい。
そして今回珍しくベースの日向がデモ音源を作ってきたという4曲がどれもいい。「Kill the Emotion」はライブ化け確実なグルーブを感じるし、「Still」の美しいメロディはアレンジ次第でこの先色々な楽しみ方ができそうな楽曲だ。
「Still」はそれにしても音がいい。
サビで一気に景色が広がる感覚はかつて聞いたPINKの「KEEP YOUR VIEW」を初めて聞いた時のスケールに近い。サイバーパンクや近未来という無機質な言葉がはびこる時代、ホッピー神山のシンセを含む定評ある演奏力、ボーカル福岡の個性的な声が描く広がりは宇宙だった。
一方「Still」に広がる景色は砂漠。
日向が持ち込んだデモ段階ではシンセで作られていたというこの曲が、つるっと無機質な音にならず、しっかりナッシングスのバンドサウンドになっているのは、どんな素材もナッシングスの音にできるという自信と底力を見せつけられた気がする。
とある取材で生形が「オリエンタル感は出したかった」と話すように、時に琴のようにも聞こえるギターの音が耳に心地よい。試行錯誤の上、古い弦とローズウッドのピックを使用したというこだわりの音による中東のイメージと、サビでグンと広大な砂漠に瞬間移動する浮遊感は正に巨大スクリーンで上質な映画を見ているかのようだ。村松がこの曲の歌詞を作る際、「必要なものはとにかく色気だなと思っ」たと語り、別れを感じさせる歌詞にしたことが、偶然にもある映画のシーンに思い至る要因となった。
「シェルタリング・スカイ」は倦怠期の夫婦が喪失感の癒しを求め中東の地(モロッコ)を訪れる話なのだが、後半に描かれる胸を締め付けられるような砂漠の美しさを思い出してしまった。この映画は決して後味の良い映画ではない。表面的には自堕落で倫理感もクリーンさもない愚かな人間の話かもしれない。けれど人は時に思っていても届かなかったり努力をしてもなり得なかったり行動したくても許されなかったりする。不器用な生き方に苦しみながら一生を終える人もいるのだ。けれど相手の愚かさを理解はできないが多くを知り、心の奥底で繋がっているある一点が存在するから、砂漠の果てなき美しさを二人で見て感じることができるのではないか…結末の理不尽さを封じ込めるように、砂漠の美しさが記憶に留められている理由はそこにあるのかもしれない。
ライブを現実逃避の場所と言葉で言ってしまえば、安易で愚かな人のたわごとに聞こえてしまうかもしれない。ライブ通いが増える度、現実から逃げているだけ、アーティストに貢いでるだけではと自分に嫌気がさす事もある。けれどその度に耳にする生形の言葉は不思議と素直に受け止めてしまう。いつでもブレず、言う事はストレートかつシンプル。
生形は幾度か自身の自堕落な過去を語っているが、それが成功者のエピソードにならないのは、彼がいつも聞く側のファンに寄り添うコメントをするからに他ならない。ライブの楽しさ、大事さ、凄さを知っている人。
「好きなバンドを観に行ってる時はその瞬間だけ違う人間でいられる(中略)観ているその人のことを自分に照らし合わせてる」、いつでも「1対1でやってるつもり」、「いいライブができていい曲いい音いいアルバムができて…それだけを考えてれば間違いない」
好きでも受け身でしか関われない音楽に、それでものめり込めずにおれない音楽に、自分の存在価値にふと疑問がよぎる度、生形はこんな言葉を届けてくれるのだ。彼は音楽の力を知り、それしかないと信じ、それが成り立つ術を知っている。いい曲を作りいいライブをし、それを聞き評価してくれる人がいる。ファンの存在だけでなくその思いにまで寄り添うことで、届く思いが、共有できる思いが別次元のものになることを知っているのだろう。
バンドとファンは映画のポールとキットのように必ずしもパートナーとして結びつく関係ではない。しかし音楽の送り手はリスナーを、ファンは新たな音を紡ぐアーティストをお互い求めてやまぬ存在なのだ。

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