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世界で最も有名なバンドの行方

ビートルズを知っているのは自分だけ、という世の中で。

先日、あるラジオ番組を聞いていて、『YESTERDAY』というビートルズを題材にした映画が公開されていることを知った。話によると「売れないシンガー・ソングライターの主人公がアクシデントに遭い、昏睡状態から目覚めると、そこはビートルズが存在しない世界になっていた。唯一ビートルズを知る主人公は、そのような状況下で一体どのような行動を取るのか」・・・というストーリーらしい。

ラジオのパーソナリティは、ほんの少しの皮肉を交えてこう語った。

「最近は音楽好きを名乗る人でさえビートルズを聴いたことが無いなんて、
                    特に珍しいことではなくなっている」と・・・

それほどまでに現代は音楽の細分化、個別化が進み、スタンダードの共有性が極めて希薄になっているという事なのだろう。まぁ、なんというか、他人がどんな音楽をどう聴こうが、そんなこと知ったことじゃないと言ってしまえばそれまでなのだけれども、まさに映画のような事態が現実世界にも起こりつつあるのは確かだと思う。

どんなに素晴らしい音楽も、聴く人間がいなければ存在しないのも同然。実際の話、既にそうなってしまっている音楽が結構あるような気がして、ちょっとさみしい気分にもなってくる。「いや、いくらなんでも世界で最も有名なビートルズは大丈夫だ」なんて、少なくとも僕は気軽には断言できない。偉大なるビートルズもまだデビュー60周年足らず、生誕260年を超えるモーツァルトやベートーベンのような確固たる継承体制は確立されてはいないのである。

というわけで、ここで一つ、ビートルズを知っているのが自分だけになってしまったと仮定して、再び世の中へビートルズの素晴らしさを伝えるため、たった一枚だけアルバムをリリース出来るとしたら、自分はどれを選ぶのかを考えてみたいと思う。

ビートルズにはオリジナル・アルバムがTVや映画のサントラ盤を含め13枚あり、それぞれに特徴際立つ名盤が揃う中、僕ならほぼ迷わずに『リヴォルヴァー』を選ぶ。その最大の理由は、ポール・マッカートニー、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターそれぞれの最上パフォーマンスと僕が勝手に認定している曲が全部入っているからである。

ビートルズ第三の男、ジョージ・ハリスンが生み出した最高にクールでファンキーな「タックスマン」、七色の才能を持つポール・マッカートニーが、唄一本で問答無用の凄みを見せつけた「エリナー・リグビー」、不世出のヴォーカリスト、ジョン・レノンが、時代を20年フライングしてしまった音響に不老不死の魔法をかけた、ビートルズ史上最大の問題作「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」・・・この3曲だけで、もう十分元が取れてしまうのだが、さらに豪華なオマケとして、フィーチャリング リンゴ・スターの「イエロー・サブマリン」がもれなく付いてくる『リヴォルヴァー』は、やはり超お得盤だと言える。

ただ、一般的なビートルズのイメージを形作っているのは、おそらく「レット・イット・ビー」、「ヘイ・ジュード」、映画のタイトルにもなった「イエスタデイ」、ジョン・レノンのソロ作品「イマジン」など、美しいメロディを持ったバラード曲なのではないかと思われる。しかし、『リヴォルヴァー』の主だった曲は、そういったイメージからは想像もつかないコンセプトとサウンドで構築されている。それ故に、画一的なイメージが横行している現状においては、不気味とも言えるジャケット・デザインも含めて、ビートルズらしからぬ異形のアルバムとして認識されている感がうかがえる。

加えて、ビートルズは他のアルバムも超強豪ぞろい。フレッシュなキラメキなら『ア・ハード・デイズ・ナイト』、凛とした美しさなら『ラバー・ソウル』、熟練した完成度なら『アビー・ロード』、ロック的躍動感なら『ザ・ビートルズ(通称ホワイト・アルバム)』、歴史的名盤度なら『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に軍配が上がるだろう。しかし、あらゆるサウンド・スタイルが出尽くした感のある現代においても尚、新たな驚きと興奮をもって迫ってくるのは『リヴォルヴァー』をおいて他にない。

だからこそ、「イエスタデイ」も「レット・イット・ビー」も「ヘイ・ジュード」も存在しない世界において、「とんでもなくカッコいいバンドが出てきたぞ!」と、大手を振って喧伝できるのが『リヴォルヴァー』なのではないかと思う。単に好きだという個人的価値観を超越し、後世へ伝えてゆかねばと思わせる、音楽として揺るぎのない何かが『リヴォルヴァー』には確かにある。
 

(曲のタイトルはアナログ・レコードに付随した解説書によります)

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