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2017年7月4日

奥田夏音 (25歳)

巣立ちはハレの日に

見放題2017、ココロオークションの描く景色

7月の第一土曜日。夏フェスシーズンの開幕を告げるサーキットフェス、見放題が今年も開催された。今年で10回目を迎えたこのイベント、過去にはTHE ORAL CIGARETTES、フレデリック、KANA-BOONら現在のロックシーンの最前線を行くロックバンドを輩出した、若手ロックバンドにとってはシーンに打って出るための登竜門のような存在である。そしてそんな見放題には、一番大きなBIGCATのステージでの大トリを務めたバンドは、その年で見放題を卒業するという、暗黙の了解のような、慣わしがある。事前にアナウンスをするまでもなく、解禁の瞬間にすでに、誰もがそのバンドが見放題を卒業することを知るのだ。

今年の大トリを務めたのは、ココロオークション。
関西イチゼロ世代の切り札と呼ばれ、毎年のように「今年こそ売れる」と囁かれ続けた彼らも、昨年ついにメジャーデビューを果たし、それでも息つく間もなく全国各地を精力的に飛び回る。そんな彼らは、見放題が生んだ最強の歌モノロックバンドと言っても過言ではない。結成から6年間、彼らは見放題に出演し続け、多くの後輩バンドが脇を駆け抜けていく中、悔しい思いをしながら、でもいつかと心に誓いながら、キャリアを少しずつ積み重ねていった。彼らの想いは、彼らを愛する人々の期待と願いは、とうとうBIGCATの一番最後のステージで、花となって咲いた。
フロアの後ろの方まで、見放題での彼らの最後のステージを見届けようと、多くの人が詰め掛けていた。フロアのBGMのヴォリュームが上がり、照明が落ちる。登場SEがかかるとともに、群青とブルーグリーンの光がステージを満たし、メンバーの影が一つずつ現れる。メジャーデビューミニアルバムのリードを飾った「フライサイト」でステージは幕を開けた。飛躍を誓ったこの曲を先頭に、疾走感のあるロックナンバー「ヘッドフォントリガー」、彼らの始まりの曲である「ナゾノクサ」も織り込み、一曲一音を丁寧に鳴らしながら、彼らはこれまでの軌跡を描いて見せた。そして本編最後には、「この景色を、今まで見せてもらった全ての景色を。」と新曲、「景色の花束」を披露。ひとつひとつの物事を大事に、真剣に、捉えて向き合って触れていく、そんなココロオークションというバンドだからこそ、鳴らせる音であり、唄える歌だと思える1曲だった。
途中、粟子(Vo./Gt.)は何度もなんども、感謝の言葉を述べた。見放題と一緒に育った、見放題に育ててもらったと、この6年の思い出を一つずつ噛みしめるかのようにゆっくりと言葉にした。見放題に対する感謝、そこに誘ってくれた現マネージャーへの感謝、そして、彼らに出会い、彼らを愛するファンやバンド仲間に対する感謝。その言葉のどこを切り取っても、彼らしい謙虚さと優しさが滲んでいた。ココロオークションは彼や、あるいはメンバーの誰かが先頭を切ってぐいぐい進んでいくようなバンドではない。4人が足並みを揃えて、雨に降られても壁に阻まれても、なんとかして地道にでも前に進んでいくようなバンドだ。彼らの纏う軽やかな空気感の裏には、音楽に対するひたむきで静かな情熱と、寂しさを知っているが故の優しさが見え隠れする。
止まぬアンコールに応えて、再びステージに現れた彼らが最後に残したのは「蝉時雨」。その場にいる誰よりも、きっと彼らこそがこの曲を一番愛しているのだろう。ココロオークションの歴史を彩るこの夏の名曲は、どれだけ披露されても色褪せることを知らない。

《さあ、風向きが変わったな/夏が終わってしまう前に/僕らは今》

夏の始まり、彼らは慣れ親しんだホームのようなイベントを卒業した。サーキットイベントを卒業、なんて少し風変わりな習慣は、見放題というイベントをさらに特別なものにする。音楽好きの人の手で作られた、音楽好きのためのサーキット。そこで育ったココロオークションは、人を想い、手を差し伸べるあたたかいバンドだ。「誰も見捨てない音楽」を鳴らしながら、彼らはまた一歩ずつ、その歩みを進めていく。

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