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2017年7月5日

布瀬 夢軸 (19歳)
35
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

音楽という翻訳機

People In The Boxと観客の絆

『Things Discovered』というCDがある。私はこの世で一番「自由」と「可能性」が表現されたCDだと思っている。売れよう、売ろう、というよりは自分たちが今やりたいことをやった結果、を率直に渡されたような内容だ。だがそれは全く悪いことではない。好きなことだけをして、素直にファンと向き合ってやってきた彼らが新たに辿り着いた場所がここなのだ。

『Things Discovered』リリースツアーファイナル。新木場STUDIO COAST。程よい緊張感と楽しみを持ってその日はやってきた。People In The Box(以下People)の二千人キャパの会場でのワンマンは、ツアーファイナルでもない限りなかなか見れない。以前同ツアーの仙台公演も訪れたが、キャパ数はあの時の10倍近くある。
 

小さい会場には小さい会場なりの、大きい会場には大きい会場なりの音の響き方がある。それは1曲目『月曜日/無菌室』の1音目が鳴らされた瞬間にすぐに実感した。原曲はギターのリフが印象的だが、今回はドラムのフレーズのみから始まった。山口大吾(Dr)の叩くドラムの音が、突き抜けるように響く。その音が会場中を飽和したところで、原曲通りのギターの音が追いかけ始める。Peopleは小さな会場で見ても決して見劣りしないが、大きい会場で見ると曲が一気に壮大さを増す。
Peopleの歌詞において、はっきりとした意味が分からないものはかなり多い(要は暗喩的な曲が多い)。だが全ての歌詞が、曲そのものに劣らず「美しい」ということは確かだった。文章的にはもちろんのことだが、メロディーの魅力が美しさを増強させている。

〈太陽のなかで愛されたら 君はもう生きれないかもしれない 木漏れ日模様に脈打った身体〉
〈指を重ねて 地図をなぞって 僕ら世界をゆすった〉
『月曜日/無菌室』

続けて披露された『木洩れ陽、果物、機関車』は『Things Discovered』の中で唯一歌のある新曲だ。発売前から演奏され、メンバーと共に成長を遂げてきた。初めてステージで披露された時とは圧倒力も輝かしさも格段に違っていた。

今回この会場によく似合っていたのは『塔(エンパイアステートメント)』だろう。重く降り注ぐような曲の荘厳さや波多野裕文(Vo.Gt)の伸びやかな声が広い会場に美しく鳴る。また、去年のマンスリーライブで披露された際は、波多野一人で受け持っていた後半の「血で血を洗う」の掛け合いを福井健太(Ba)のコーラスと分担したことにより、原曲通りの声の伸びが再現された。

ライブ中盤には新曲たちが披露された。今回のツアー通して演奏されてきた曲たちだが、いつ発売されるのかどうかも実はファンたちにはまだ分からない。Peopleらしい複雑さとユーモアを兼ね備えた曲たちがCDになる日を楽しみにしたい。

新曲たちの後にさらりと紛れ込ませていたのは『プレムジーク9月/東京』だろうか。『Things Discovered』内で波多野プロデュースの新曲、となってはいるのだがいわゆる“作曲”が行われていない。各々が好きに楽器に触れている動作音のみの曲、である。これを“曲”と呼ぶかどうかはさておき、私はこれをライブでやる時のメンバーの“良い意味で”無気力な表情がとても好きだ。
その後の『土曜日/待合室』への繋ぎも徐々に各々が曲へと吸い込まれていく流れが秀逸だった。

この日のライブは普段のPeopleのライブを知っているファンからすると、少し異様な空気感を伴っていた。というのも、曲が始まった時の歓声やMCへのリアクションの大きさなど、普段の静かで厳かさすらあるライブに比べて、かなり観客側からの反応が強かったのだ。もちろん静かなライブでも観客の熱量は高いのだが、今回は目に見えて分かるほどに高い。それはステージ上の本人たちにも伝わっていたようで、互いにライブを楽しむという気持ちを本人たちと共有している感覚が大きかった。
ライブが終盤に差し掛かり演奏された『maze』や『矛盾の境界』は特にステージ上と観客側の熱量のぶつかり合いが大きく、Peopleのライブとは思えないほどだった。

MCを挟んだ後のラストスパートが『市民』『旧市街』と来て最後の一曲に何が来るのか。Peopleの曲群のなかでもダークで複雑な曲たちの後に続けるものはなかなか予想しづらかった。そして演奏されたのは、その予想の更に斜め上だった。

〈ぼくはきみの翻訳機になって 世界を飛びまわってみたい 高い空を斧でまっぷたつに 箱のなか震える心臓〉
〈カーテン揺れる 踊る光〉
『翻訳機』

ほとんどのライブで一曲目か序盤に演奏されがちな『翻訳機』は、その日のライブの感覚を確かめる役割を持つ。しかしラストに演奏されると、また違う役割を持っているように感じた。
ステージ上と観客との壁がなくなった状態で演奏されたそれは、自分も曲と一体化できるような心地良さがあった。
観客一人一人と奏でているメンバーとが、間違いなく音楽で繋がった瞬間だった。

アンコールでは1st mini album『rabbit hole』を出してから10年である話や、それに伴って翌日に裏ファイナルを開催する告知をしてファンを驚かせた。
アンコール1曲目では「できたばかり」だという新曲を披露してくれた。『塔(エンパイアステートメント)』を聞いた時に似た、音が“降ってくる”感覚、全てを包み込むような温もりが印象的だった。
2曲目はこのツアー恒例のじゃんけんによって決められた。ツアーファイナル最後の最後の曲は『新市街』。
どこか不穏なのに混ぜ込まれる跳ねるようなリズム、明るく狂っている。お互いに楽しくて仕方ないことが伝わり合う最後だった。
 

Peopleは見ての通り三人しかいない。派手な舞台演出もない。MCで波多野が「見てくださいこのステージ!何もない!」と誇らし気に言っていた通り、3人と機材以外何もないステージ。3人で曲を表現しきることそのものが、Peopleの魅力なのだ。その魅力を最大限発揮して、それにファンも答えたのが今回のツアーだったように思われる。

彼らにしか表現できない「音楽の自由」と「音楽の可能性」がここにある。

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