350 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年7月5日

イガラシ文章 (25歳)

もしかしたら、ここが理想郷かも。

KEYTALKアルバム『PARADISE』に寄せて

今年三月、KEYTALKが最高傑作をリリースした。
 

ミュージシャンが新譜、特に長めのアルバムをリリースする度に色々な音楽メディアの誌面に「最高傑作」という文字が踊るが、正直なところ私はあまりその言葉を信用していない。だって、最早決まり文句みたいなところがあるじゃないか。結成して十年も経っていない、メンバーもせいぜい二十代半ばの若いロックバンドの作品に、たとえ現段階の彼らの最高の力が結集されていたとしても最高傑作もあったもんじゃないだろう。

しかし、正直言ってKEYTALKの『PARADISE』には、そんなありふれた「最高傑作」という言い回しがそれこそ最高に相応しい。

多くの人がKEYTALKというバンドにフィジカルで踊れる音楽のイメージを持っていると思う。それは確かにそうだし、このアルバムに収録されている楽曲も今までのイメージ通り元気が良くノリのいいものが多いが、その、彼らを良くも悪くも音楽界に印象づけた「踊れる」というイメージを、斜め上にぶっ飛ばした所に成り立っている作品であることはまず書いておきたいと思う。

前作『HOT!』までの彼らの曲の運動量をマラソンレヴェルと例えるならば、『PARADISE』での彼らは3D映画やVR作品の主人公だ。いっそのこと大気圏を突き破り、宇宙遊泳しているぐらいのドラマチックさがある。

これは、それぞれが作詞作曲を手がける四人のメンバー個々の、クリエイターらしい叙情的な表現力がよりわかりやすく表れているからだろう。
 

まず構成がすごい。目を閉じてヘッドフォンをし、再生ボタンを押すとまず一曲目の『Summer Venus』からまぶたの裏の闇を極彩色の熱帯の花が鮮やかに彩る。新境地であるEDMまでナチュラルに取り込んだ義勝お得意のパーティチューンによって開かれた視界には、続く『ASTRO』で幾千の祈りが星のようにきらめく銀河が広がった。流石はメインコンポーザー、凄まじい求心力にあっけにとられるのも束の間、『ダウンロードディスコ』『パラサイト』などのトリッキーかつキャッチーなサウンドで武正が縦横無尽に宇宙を描き出す。八木が『秘密』や『Combat Song』でロマン溢れる大人っぽい物語を展開し、広がる宇宙に星座を描き出したかと思えば、目の前の壮大な星々の物語を「美しい」と感じる優しい心に気づかせてくれるのは『story』などに表れる巨匠の人間臭く切実な眼差しだ。

彼らの今までの持ち味だった四つ打ちドラムやメロディのはっきりしたギターリフに頼りすぎず、パンクやジャズ、フュージョンなど色々なジャンルを巻き込んでいく柔軟さがこれでもかと言う程に見せつけられるカラフルな楽曲達だが、決して覚えにくい、取っ付きにくい曲は一曲も無く、全曲リードトラックでもいけるんじゃないかと思わされる程に歌謡性が高い点もとてもKEYTALKらしい。

また、彼らの最大の武器であるツインボーカルの存在感も今まで以上に強い。ソロでそれぞれの想いを託した物語を歌えばそれぞれが確固たるフロントマンとなり、『Combat〜』などの曲ではまるで漫画のような世界観を伸び伸びと演じ、生命を賭けて刺し違える因縁のライバル同士になりきっている。かと思えば『スターリングスター』や『Oh!En!Ka!』では美しいユニゾンやハーモニーを聴かせてくるから目が回る。
しかも、掛け合いやハーモニーが前回よりもずっと、まるで息をするように自然に展開されていくのがまた堪らない。
 

メンバー個々の思想やロマンティシズムが明確に表れた色とりどりの楽曲達は聴いていてとても楽しい。

だけど、それは諸刃の剣でもあるのではないかという思いも過った。

例えば義勝によるリードトラックなどは多くの人の耳に触れる機会があると思うが、そこから見える「フィジカルで踊れる音楽」と言うようなイメージばかりが先行してしまうのは、彼らの音楽の色々な側面を知った後だとやっぱり悲しい。
しかし、作風が広がって様々なタイプの楽曲が沢山の人の耳に届くようになったとしても、ロックバンドとしてのKEYTALKのアイデンティティがわからなくなってしまう可能性があるかもしれないのだ。メンバー全員で曲を作っているなら、尚更。

だが、それは彼らにとって最強のアイデンティティとなる可能性もあるのかもしれない。

視点が四つあるということは単純に考えてそれだけ多くの人の好みに合った曲が作れるということになるし、それはそのままそれだけ多くの人の心に寄り添えるということになるんじゃないか。それぞれが「KEYTALKのため」に自分の言葉を、自分の音を鳴らし続けることが何よりも、「誰かのため」になることを、彼等自身が知っているのだ。
 

「そうさ何度も何度もすれ違って
息をするように願い続ける
きっと変わりゆくけれど

やがてその思いをつらぬけShooter
君は強いってわかってるから」
(『ASTRO』)
 

義勝は『ASTRO』で、「過去の自分を鼓舞するための歌を作った」と語った。彼は彼自身のための歌を、KEYTALKの物語として描くことで「誰か」の心に寄り添う普遍的な応援歌へと昇華したのだ。
アルバムの最後を飾る『スターリングスター』、そして『Oh!En!Ka!』からもそんな彼らの心意気を感じる。特に『Oh!En!Ka!』の力強く優しい歌詞は、誰かを励ますようでいて実は巨匠自身が抱くKEYTALKのギターボーカルとしての強い意志をも表しているようだ。

彼らはきっと、お互いの存在を信じているからこそこれだけ個性的な、いっそハチャメチャな程にバラバラな世界を楽曲の中で描けるのだろう。武正と八木なら絶対にKEYTALKの音が鳴らせる、義勝と巨匠なら絶対にKEYTALKの歌が歌える、と、彼ら自身が誰よりも信じているのだ。そしてそれは、決して手前味噌の思い込みではないことが、このアルバムを聴けばよくわかる。

お互いの存在を信じるなんて偽善的だし、ロックバンドとしては理想だけれど現実にはなかなかそうはいかないということぐらいは、いちリスナーでしかない私にもわかる。しかし、それをあたかも簡単なことのようにやってのけ、それが日常でもある彼らを、ロックバンドの理想形と言わずして何と言えばいいんだ。
彼らは言ってしまえば私にとっては同世代のお兄ちゃん達だ。そんなまだまだミュージシャンとしても人間としても若すぎる青年達にはこんな言葉重たいかもだが、ついついそう思いたくなってしまう。
だって、彼らにとってはそんな日常こそが「PARADISE」だなんて、素敵すぎる。
 

途方もなく壮大でヴァリエーション豊かな物語がたった四人の青年のもとに収束する痛快さは圧巻だ。しかも全十七曲、全て通して聴いてもたったの一時間足らず。瞬きのうちに走り去ってしまう彼らの後ろ姿を捕まえようとでもするかのように、私は何度も何度もこのアルバムを聴いた。この音は、歌は、確実にこの四人にしか鳴らせない。
もしかしたらここは、私にとっても「PARADISE」なのかもしれない。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい