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日曜日の夜の憂鬱をかき消した「音楽の力」

イロムクは私に、音楽の楽しさを教えてくれた

学生時代、私は大勢で歌い騒ぐことが大好きで、朝まで酒を飲みながらカラオケで過ごすことが多かった。地元や大学の友達、バイト先の後輩など、音楽の趣味が様々な人とカラオケに行き続けていれば、自ずと知らない音楽を覚えることができる。
今までの私はそうやって、友人や当時の恋人からの影響による、“受け身”で新しいアーティストに出会うことが多かった。「好きな人が好きな曲だから、私も好き」と思い込んでいる自分がいた。

もちろん、こうやって新しい音楽を開拓する人は多いだろうし、アーティストにとっても、口コミは名を広める絶好の手段だと思う。
けれど私の場合、その時に興味を持った数曲しか聞かないという、表面上の楽しみ方しかできなかった。バンドのメンバーの人数は曖昧で、ボーカルの名前すら知らないなんてこともざらにあった。だからこそ、その曲の本当の魅力や、アーティストが伝えようとしている思いに気付けなかった。むしろ、好きだと思い込んでいただけに、興味すら湧かなかった。
 

そんな私は、ある日運命的な出会いを果たすことになる。なんとなく立ち寄った渋谷のタワーレコード。そして、ふと目に入る『さよならしなくてよかったよ なかったことにできるでしょ』の言葉。下北系ロックバンド『イロムク』の2019年5月に発売されたシングルのタイトルである。なぜか、私はこの場から動くことができなかった。

『さよならしなくてよかったよ なかったことにできるでしょ』

この言葉の意味をじっくり考え、ぼんやりと想像を膨らませている間、今まで感じたことのない心地良さを感じていた。気づいたら、ヘッドホンを片手に『ぬるいネクター』を何度も何度も、繰り返し聴いていた。そして、この曲を演奏する彼らを、いつか見てみたいと思った。はじめて、音楽だけでなく、それを作り出す“人”に興味を抱いた。

今まで、ライブに行きたくなるほど興味を持ったアーティストなんていなかったし、音楽に対して無知な自分に恥ずかしさを感じていた。行きたい気持ちは山々だが、ステージとの距離が近いライブハウス。古くからの熱狂的なファンも多く来るだろう。私なんかが行っても、場違いになるんじゃないかという恐怖心があった。だからこそ、ライブに行く勇気すらなく、一歩踏み出すまでに時間がかかった。
 

2019年10月22日、とあるきっかけでWALTZMOREのツアーファイナル“Enchante”に足を運んだ。この時の会場の一体感と、繊細な演奏には思わず心を奪われた。生の演奏を聴いていると、それまで感じていた不安はいつの間にか消えていた。今でもあの雰囲気は忘れられない。

心が満たされた私は帰ろうと階段を下りると、ビラ配りをしているイロムクのドラム、河野さんに遭遇した。私の「いつも聴いてます」という言葉に河野さんは「ありがとう、めっちゃ嬉しい〜」と笑ってくれた。私は彼から、5日後に迫るイロムクtour2019 “ふたりのゆくえ” ツアーファイナルのビラを受け取った。ワンマンという私にとっては未知の空間。また少し、自信のなさから緊張感を覚えた。さらに、ワンマン当日の直前まで予定があった私は、行くと即答できなかった。
 
 
 

そして、2019年10月27日。

私は下北沢近松で、ステージの上で演奏するイロムクを眺めていた。ビラをもらった帰り道、せっかくメンバー本人が声をかけてくれて、念願の生演奏を見れる機会だと思い、チケット購入していた。
タワレコで『ぬるいネクター』を聴いてから5カ月後のことだった。

2時間弱、彼らの全てが詰め込まれたセットリスト。ボーカル藤沼さんの感情を爆発させた楽曲は、どれも心のどこかで共感してしまうものばかり。私が高校時代に付き合っていた男を思い出させるような『ネイル』『ままごと』で心を奪われたかと思えば、うっとりさせられる名曲の『夢で逢えたら』、メンバーのことを書いた『羊のうた』など、全23曲を披露。そして2019年に発売した3rd mini album“ふたり”のアルバム名の由来も語った。歌声、ギター、ベース、ドラム、全ての音色が混ざり合い、観る者全てを様々な感情の渦で巻き込んだ。歌詞からMCまで、人間味のある一言ひと言が、私の心を掴んで離さなかった。

その日は日曜日の夜。いつもだったら翌日の仕事のことを考えて憂鬱になっている時間だ。ステージでライトを浴び、輝いている彼らは、私に明日への活力を与えてくれた。

自分から「もっと聴きたいし知りたい」と思えたバンドに出会えた喜びを感じると同時に、もっと早くこの世界観を知ることができていたら、と後悔もした。
メンバー一人ひとりの表情と、顔を見合わせて楽しそうに演奏する姿、全身に響き渡る魂の籠もった音楽、CD音源との小さな違いを感じる事が、こんなにも幸せな瞬間なのだと気づかされた。
 

少しでもライブに行こうか迷っている人がいるなら、ぜひ一度、足を運んでほしい。私も彼らの魅力を知ったばかりの新参者。しかし、今ではそれが気にならないくらい、全てに夢中だ。

今後も、私は “彼らのゆくえ” を追い続けるだろう。そして、彼らが大きなステージで、箱いっぱいの観客に包まれる日を心待ちにしたい。

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