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アオキテツはラッキーじゃない

a flood of circleの運命の人

a flood of circleの新作ミニアルバム『HEART』。リリースに先駆けてYouTubeでMVが公開されたのは、ギター・アオキテツが作詞作曲をしたトラック『Lucky Lucky』だった。テツを主演に据えた、爽快で笑えるMVだ。

2009年に4人組バンドとしてメジャーデビューしたa flood of circle、略してフラッド。だが、同年ツアー中にギター・岡庭匡志が失踪する。サポートメンバーを迎え、その後もベーシストが替わったり新しく加入したギタリストが替わったり。「結構メンバー替わるバンドだなあ」というのが当初の正直な思いだった。

テツがこのバンドに加入したのは2016年。フラッドは、ギタリストを一般公募した。応募はメールのみで受け付け、公式ホームページには「※失踪NG。※明るい性格ならなお良し。」と掲載。それまでは約1年、爆弾ジョニーのキョウスケがサポートギターを務めていたので、一般公募と言っても名の知れたバンドマンが加入するような気もしていた。
加入したテツはボーカル・佐々木とドラム・渡邊より6歳下で、「ずいぶん若い人が入ったな」と驚いた(ちなみにベース・HISAYO姐さんは年齢非公開)。まだ20代のテツはなんだか野心と自由さと無邪気さに溢れたギター少年という感じに見えて、メジャーデビューした頃のフラッドそのもののように思った。同時に佐々木が兄のように大人っぽく見えるようになったことも、なんとなく覚えている。

加入から2年近く経った2018年、主催ライブのアンコールでサポートメンバーだったテツの正式加入が発表された。このライブに行っていなかった私はツイッターで情報を知り、4人になったフラッドの新しいアーティスト写真と新作アルバムのジャケットを目にした。発売が4日後に迫っているのになかなかジャケットを公開しなかった『a flood of circle』、セルフタイトルのフルアルバムだ。この時の興奮はとてもよく覚えているし、思い出すだけで少し目頭が熱くなる。電車の中で「だからジャケット隠してたのかよ!!」と叫びたくなる気持ちを抑えていた。
バンドの公式YouTubeにも、この日の加入発表時の映像を含めた告知動画が公開されている。佐々木の「入る?」の言葉にざわつく会場と笑うテツ。「軽いよお~」とふて腐れて(?)から、「入るよお!!」。嬉しさ以上に、このバンドのカッコ良さを改めて全身で感じた。

そんなアルバム『a flood of circle』を聴いたときのことも忘れられない。店頭に並んでいるのを見てドキドキしたし、例のジャケットが本当に気に入って部屋に飾ったりしていた。1曲目の『Blood&Bones』はMVも公開されている。4人の演奏シーンで構成されている映像は、最初スローモーションで映されるメンバーが段階的に速度を取り戻していく。最初に佐々木、次に渡邊、2番に入ってHISAYO、最後にテツという順番で、それぞれフラッドに加わった順とリンクしている(といってもそこまで分かりやすい映像ではないので、1回見ただけではなかなか気づきにくい)。最後のサビで映像が明るく白み、バンド名のロゴが大きく映る瞬間なんて、カッコ良すぎて笑ってしまう。テツの新しい血と骨が加わって、フラッドはもう1度、4人組のロックバンドになった。

4人での音源やライブを重ねて先週リリースした『HEART』に収められた『Lucky Lucky』は、フラッドで初めてテツが作詞作曲を務めた。ストレートで爽やかで、冒頭の《Lucky Lucky》の1フレーズであっさり頭が空っぽになってしまう。『HEART』は4人のメンバーそれぞれが作詞や作曲を担当した5曲が収録され、フラッドにとっては貴重なミニアルバムだ。その中で意外にも、テツの作ったこの曲が一番フラッドらしいように感じられる。
サビの始まりの歌詞は《Lucky Lucky 生きてるLucky》。身軽で自由で、底抜けに明るい。明日はわからないけど、今日は生きてる、ラッキーだな。現在27歳のテツが初めて書いた歌詞には、彼の今までとこれからの生き方が詰まっているようにも感じる。テツ曰く、「初めてだからどんな曲でも書けると思ってた。だから特に苦労はなかった。」とのこと。この歌詞を読んだとき、テツ加入以前に発表した楽曲『ロックンロールバンド』の歌詞をふと思い出した。

《歌ってくれ ロックンロールバンド 今日が最後かもしれない》

人生なんてあっという間で、今日が最後になるかもわからない。今日は歌を歌えたって、明日はもう居場所がないかもしれない。一瞬一瞬が終わりであり始まりなのだと歌ったこの曲の、ヒリヒリした生きる感覚とはまるで違う雰囲気を纏いながらも『Lucky Lucky』で歌われているのは同じ生きる感覚だと思う。少し驚いたのは、この曲が収録されたアルバム『I’M FREE』のリリースは2013年、佐々木が27歳の時だ(いつから構想があったかは知らないけれど)。

MVのストーリーも、笑えて明るいコメディーになっていて、ついてなさ過ぎるサラリーマンのテツが命からがらの重傷を負っていきながら、病院のベッドの上で《Lucky Lucky 生きてるLucky》と歌う。と思ったらそれは夢で(?)、会社の屋上に飛び出しメンバーに加わって演奏。さらにはスーツからステージ衣装の黒シャツに変わる展開が、気持ち良くてニヤけてしまう。さらにさらにテツ自身が高層ビルサイズになったかと思えば、それも夢(!?)という、可笑しくて爽やかでカッコ良い、なんだか馬鹿になれるMVだ。そしてこれはもちろん、作曲者であるテツの“バンドマン人生”を描いたようなストーリーなのである。テレビの中のロックバンドを眺めていたサラリーマンは、(MV内では物理的に)打ちのめされながらも生き抜いて“a flood of circle”に加わる。生きててラッキー、こんなバンドに入れてラッキーだと言わんばかりだ。そりゃまあ、今までとこれからの生き方が詰まっているように感じるなんて言ったけど、だけどひとつだけ違う。テツはラッキーなんかじゃない。彼の今は、幸運なんてものが彼に与えた結果じゃない。流れる時を振り返らずに、打ちのめされて生きてきた彼が自分の手で掴んだものだ。私はただの彼らの一ファンなのだけれど、それでもこれははっきり言える、アオキテツはラッキーなんかじゃない。ラッキーなんてだけじゃないのだ。すんなりとは行かず泥臭く転がってきたフラッドが選んだのはそんなギタリストで、テツが加わってラッキーだったのは、3人だったフラッドの方だとも言える。佐々木はどんな気分でこの曲を歌っているのだろう。MVの中で、患者姿のテツの前で演奏する他メンバーを見ると、「早くこっちに来い!」と言っているようにも思えてくる。

以前サポートギタリストとしてフラッドで演奏していた曽根巧は、テツの正式加入の際にTwitterで祝福のツイートを残している。

「元カレのひとりとして願う、、テツくん、フラッドちゃんを幸せにしてやってくれ。君が運命の人だったんだ。」

アオキテツ。彼はこのバンドに幸運をもたらした、運命の人だ。

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