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境界線を越えた先の世界へ

first live "eye"でmiletが示した覚悟と信念

令和1年11月11日。新たに元号が変わったこの年の月日が揃うスペシャルな夜。彼女の初ワンマンライヴのチケットは発売後(もちろん)即ソールドアウトし、プラチナ化していたが、幸運にも恵比寿リキッドルームの扉が開かれた。外は秋も深まり冷たい夜風と共に雨が降りしっとりと路面を濡らしていたが、何か特別な夜になりそうな予感がそこかしこに漂っていた。

会場に着いたのは17時を少し回った頃。既にリキッドルーム2Fのクロークや物販は開かれており、この記念すべき日のグッズを買い求める多くの人々でごった返していた。開場までは小一時間程あったので、近くのバルで食事を取り、リキッドルームに戻るとちょうど開場し整理番号順に入場が開始されたところだった。比較的若い整理番号だったのでそのまま入場するとステージ向かって右手側の前から5・6列目位の場所が取れたので、そこで開演を待つことに。

その時点で時刻は18:20頃、開演までは約40分程だ。場内にはSEがかかっていたが、そのSEが耳に入った瞬間そこでほくそ笑んでしまった。私の趣味嗜好が彼女のそれとほぼほぼ同じだったからだ。OasisにMuseとUKロックがガンガンかかっており、果ては彼女のフェイバリットであるクリスピアン・ミルズ(クーラ・シェイカー)の声が聴こえてきた時に上述のような状態になった。個人的には開演前から楽しませてもらった。

定刻を5分程過ぎた19:05頃、場内が暗転。キーボード・コーラス・ベース/ギター・ドラムスのバックバンドの4名が入ってくる。一拍置いてmiletが登場。場内からは割れんばかりの拍手でその期待感の高さを示し、私自身もあのmiletが目の前にいると胸を躍らされた。オープニングを飾るのは『航海前夜』。miletのデビューしてからこれまでの道程やこの日のライヴもひとつの航海と見立てると、それにふさわしい最高のオープナーだ。最初のワードの「境界線」という言葉が彼女の口から零れ落ちた時、その声に反応して会場にいる全員がぐっとmiletの世界に引き込まれていったのが瞬間分かった。全員が手を上げるでも、横揺れをするでも、手拍子をするでもなく、ただそこに立ち尽くしmiletの音楽を一身に浴びていた。miletの音楽という魔法によって、全員が動かなかったのではなく、文字通り「動けなかった」というように感じた。それ程までに一音で圧倒されてしまった。そのまま2曲目『Undone』へ。ほの暗いライティングでmiletの顔・姿はよくは見えないが明らかにそこに存在することが分かるのはまさにその「声」そのものの存在感であることをまざまざと見せつけられる。3曲目『Waterfall』は後のMCで話していたが、彼女のフェイバリットのようで、その話を聞く前から個人的にも好きな曲であったが、この辺りから少しずつ横揺れをしたりという人も居たと記憶している。ある意味我々オーディエンスも緊張していたし、milet自身も少なからずの緊張はあったように思える。ここまでの3曲は曲調も相まってではあるが、本当に丁寧に言葉を紡ぎ、我々に届けてくれた。

ここでMC。これまで暗かった場内が一転、ライティングで明るく照らされるとそこには紛れもなくmiletの姿が。明るく照らされたオーディエンスをひとりひとりつぶさに確認するように見回した後、丁寧に自己紹介をしてくれた。そして、「今日はたくさん歌っていくので皆さん最後まで楽しんでいってね」というような言葉を投げ掛けてくれた後の4曲目は彼女を世間に広く知らしめた『us』。
 

『好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな この線を越えてしまえば 戻れないんだよ
 好きだと言ってしまえれば 世界は変わるかな あなたとだからどこへでも わかってるでしょ I want you』(『us』/ milet歌詞より抜粋)
 

ご存知上記のキラーフレーズとメロディラインはドラマ主題歌という形で数多くの人々が耳にしたことだろう。この曲はドラマの内容も相まって男女の恋愛についての歌であると理解できるが、一方でmilet自身の決意と我々ファンとの関係性について言及している曲でもあると思う。miletは後のMCで以下のようなことを言っていた。

「本当に今日ここでステージに立って皆さんの前で歌えるということが夢のよう、夢なのかな(「夢じゃないよー」とオーディエンスからレスポンス)」
「今年の3月6日にデビューしてから約8ヶ月、あっという間の期間でした」
「(デビューからここまで4枚のEPを出して)こんなにも多くの人が関わり、大きなことになるとは予想していなかった」

つまり、元々歌が、歌うことが大好きで活動を始めたmiletがその「好き」である「歌」をいよいよデビューという形で、EPという形で世に出した時、milet自身の中でも環境や心の持ち方、見られ方など彼女を取り巻くあらゆること(すなわち、「何か」であり「世界」)が変わり、その線を越えれば戻れないこともわかっているけど、それでも我々ファンも含め、miletを応援し支えてくれる周りの「あなた」とだからこの先どこへでも行ける、だからあなたが必要であると。miletが我々オーディエンスに投げ掛けてくれた言葉を加味するとそのようにも解釈できた、そんな意味性を感じ取って聴いたこの『us』はこの日のハイライトのひとつでもあった。

続いての5曲目の『Runway』は通常のアレンジとは異なり、荘厳なイメージで次の曲へのブリッジ的な形。そして6曲目は直近に発売された新EPからEDMを取り入れた新機軸のコンテンポラリーなサウンドが特徴の『Imaginary Love』。またmiletの新たな歌の表情が見えるような曲。7曲目『Fire Arrow』、8曲目『Drown』、9曲目『inside you』はmiletの本領発揮な一連の流れ。クールな佇まいの中に圧倒的な熱量を内包しているmiletの声。印象的だったのはリキッドルームのライティングの妙で光を湛えたmiletの瞳とそこから反射する光が醸し出す妖艶な雰囲気がmiletをより魅力的に輝かせていたことだ。また、『inside you』のサビの突き抜けるような解放感もすべてのオーディエンスの心を開くカタルシスを感じさせる瞬間でもあった。

10曲目は現時点未発売の『Parachute』、11曲目『Fine Line』は良い意味でこれまでのmilet「らしくない」アップテンポなナンバーで、歌っている時の彼女の笑顔や仕草、おどけてみせたりと観ているこちらも自然と楽しくなってくるような曲で畳み掛ける。12曲目『Wonderland』も『inside you』同様サビの突き抜けた感覚が聴いていて心に響くし、これはライヴでしか味わえない生の音に耳を奪われた。13曲目『THE SHOW』はリリースされた日本語詞版ではなく全編英詞版だったがmiletの美しい発音の歌ですっと心地良い曲。14曲目『I Gotta Go』は彼女の曲群の中でも音数が最もミニマルな曲であるが、それ故に彼女のシンガーとしての実力をはっきりと聴くことのできる曲。声の抑揚や英詞の発音、言葉尻のハスキーヴォイスもすべてが美しい曲だった。

途中のMCでも、前述したように歌っている姿・佇まいはクールなのに喋ると可愛さや天然?さを発揮して、そのギャップがまた彼女のさらなる魅力でもあった。テレビなどでは歌っているシーンだけのことも多く、話したり笑っているシーンがあまり見られていなかっただけに、自分のライヴではそれらが全開で、常に自然体で歌と人と向き合っているんだろうなと感じた。そして、そんなMCの中で特に印象に強く残ったのが以下のような言葉だった。
 

「元々、誰に聴かれることもないかもしれない曲をただ楽しく作っていて、そういった曲を今こうして多くの人に聴いてもらえている」
「私はお客さんが1ケタだったり、1人になっても歌い続ける、お客さんが誰もいなくなったとしても歌い続けていると思います。どこかで誰かの耳に入るかもしれないから。そんな私の曲が短い人生の中のBGMになってくれたら。離れてもいいから、また戻ってきてくれたら」
 

デビューしてから目まぐるしく色々な状況や環境が変化する中で息つく暇も無い程だったと思うし、その中で「ただ楽しく作っていた」曲が「この線を越えた」ことで今までのようには出来なくなるかもしれない、葛藤や苦悩もあったと思うがそれらすらもすべて乗り越えてシンガーとして生きていくという彼女の強い意志・信念が垣間見えた。

そして、15曲目『You & I』では力強く、こうも歌っている。

『ただ ここを選んで』
『最後の一瞬はあなたと二人で 息を止めfalling down』(『You & I』/milet歌詞より抜粋)

ここ(シンガーとしての自分)を選び、それはあなたと、あなたとならこの大海原(音楽シーン)にも乗り出して行けると決意し飛び込むことができると。
さらに、本編最後16曲目の『Rewrite』では象徴的な言葉としてこう歌っている。
 

『忘れないphraseをひとつ 生き続くphraseをひとつ』(『Rewrite』/milet歌詞より抜粋)
 

このmiletのMCでの強い意志と信念の言葉は、我々ファンも「忘れないphrase」として「生き続くphrase」としてこの先もずっと心に持ち続けていくべきものであると思う。
それ程までの覚悟を持って歌に向かい続けるmiletの歌をこれからも聴いていきたいというよりも感じていきたいし、願わくばひとりひとりのファンとしてmiletと共に大海原に飛び込んで進んで行きたいと。この『Rewrite』はまさに本編の最後を彩るのにふさわしい祝祭的空間だったし、miletもサビ前の『go oh』の部分やサビの『Oh I Oh I~』の部分をこちらに委ねてシングアロングが起こったり、皆で『We are forever』を大合唱した様はさながら先のUKロックの大御所バンド(今は解散しているどこかのべらんめえ兄弟バンド)のギグのようだったのは最高だったし、milet自身も心から楽しんでいるような笑顔で天を仰いだり、くるくる回ったり、あの瞬間miletの音楽を通じて会場にいるすべての人が幸せを分かち合っていたように思う。

そのような完璧なエンディングを迎えて本編は終了。しかし、オーディエンスの熱量は止まることを知らず、最初は拍手でアンコールへの期待を表していたが、途中から中央前方にいた方を皮切りにmiletコールが巻き起こる。そして、数分後miletがバンドメンバーと共に今回のツアー「milet first tour “eye”」のオリジナルグッズのTシャツに着替えて登場すると再び割れんばかりの拍手で迎えるオーディエンス。このTシャツをはじめツアーグッズもすべてmilet描き下ろしのイラスト・デザインが使われており、改めて彼女の多才さに驚くばかりだった。ちなみに、「コンセプトはー?」とのオーディエンスからの質問には「私が着たいものー」と答えていたのも可愛かった。

そんな中始まったアンコールの1曲目(17曲目)はアコースティックアレンジでの『us』。再びこの名曲を演じたところを見るとやはり、前述したようにこの曲は彼女の中でも大きな意味やウェイトを占める曲なのだということが改めてわかる。アコースティックアレンジになると音の重なりが軽くなる為、より彼女の地の歌声というものがよく響き、染み入るように心へと溶けていくようだ。そして、最後の曲を演奏する前に彼女は改めて重ね重ねでオーディエンスやファン、関わってくれるすべての方への感謝を述べる。途中のMCでも、

「私を元気に生んで育ててくれた両親やその両親、その両親…にも感謝しているし、もちろん、ここにいる皆さんのご両親やその両親…にも感謝しているし、ここで出会えた奇跡に本当に感謝しています」
「今日のライヴはここに居る皆さんの誰一人が欠けてもできなかったライヴだった」

これ程までに大きく広い愛でこの日集まってくれた人や、関係者、果てはその人々の両親やその両親…までに感謝を述べる。非常に優れた素晴らしい人間性。そんな彼女が作る歌が慈愛に満ち溢れるのは必然でそれを耳にした誰かを救う。この日最後の曲(18曲目)は『Diving Board』。彼女は歌う前に「また会えるようにと願いを込めて」というような言葉で、この聴いた誰かの背中を「大丈夫、できるよ」と押してくれる曲で我々を送り出してくれた。再びの祝祭的空間に、今日のライヴが終わってしまうという残念な気持ちよりも、「また再び会えるんだ」というポジティブなフィーリングを与えてくれたmiletにこちらこそ感謝したいと思ったし、実際皆がそういった気持ちであったように思う。
miletと共に皆で出航したこの日のライヴは全18曲を以て見事フィナーレの帰港を迎えた。約1時間30分程に及んだmiletとの航海で我々は彼女の新たな一面を発見し、彼女もまた新しい世界を発見してくれたのではないかと思う。

最後にこの「first live “eye”」はなぜeyeなのか、勝手に解釈してみたい。
eyeはもちろん「目」のアイであり、「(You &)I」のアイであり、「(出)会い」のアイであり、「愛」のアイでもあるとも思う。1曲目の『航海前夜』の出だしにも「Eye to eye for us この声と体~」とあるように一対一(=You&I)で向かい合って目を合わせて歌を届けること、miletが最後の方のMCで「また会いに来て下さい、私も皆さんに会いに行きます」と言っていたこと(同じようにtwitterにも「(中略)みなさんに会いにいく」と記載)、そして最後のアイは「愛」で、その感情を以て歌に人に真摯に向き合っていること、こんな風にmiletにとって必要な、大切なものがアイであり、それらがすべて目の前のひとりひとりに向けて歌うというシンガーとしての本質に帰結することからこのタイトルにしたのではないかと考えた。
 

「This is all I wanted This is all I needed,baby
 But right now it is useless ‘Cause you’re in my life,you see?
 どこまでも深くどこまでも高く
 Keep your head up, I know you will make it」(『Diving Board』/ milet歌詞より抜粋)
 

「夢のような」ライヴを終えて皆一様に日常へと戻っていく。「あなたが私の人生に居てくれるから、これまで欲してたものなんて意味がない、わかるでしょ?」と『Diving Board』の歌詞にあるようにmiletも我々オーディエンスも今回のライヴを通じて双方向でその意味を確認できたのであればこんなに幸せなことはないと強く感じた。これからどこまでも深く飛び込み、どこまでも高く羽ばたいていくmiletを観られる幸せに浸りながら、次に会えるその日まで「顔を上げて」それぞれの人生を歩んでいきたい。

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