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幸福のしっぽを離して

ハヌマーンが教えてくれた「人間らしさ」

ハヌマーンというバンドをご存知だろうか。
2004年に結成され、2012年に解散した3ピースロックバンドだ。
世間での知名度は低いが、音楽が好きなら知っている人も多いかもしれない。
僕もリアルタイムでは知ることができなかったバンドだが、とても好きなバンドだ。
そんな彼らの中で一番好きな曲が「幸福のしっぽ」という曲だ。いやこのバンドで、どころではなく今まで出会った曲のなかでも、特に心に響いた曲だ。
 

「また転んだ 日々が行く
 なんで僕だけと呟く
 運命って言葉が浮かぶ
 手も足も出せずに笑う いつも」

周りの人からみればどうでもいいことでも、本人にしてみれば深刻な出来事ってよくあると思う。恋愛然り、日々の生活然り、だ。だいたいそれらのことは自分の力ではどうすることもできなくて、”運命”という都合のいい言葉に頼って、諦めてしまいがちだ。少なくとも僕はそう。歌詞のように”手も足も出せずに”笑うことすらできずにやり過ごしてしまう。
これを書いている数日前、恋人と別れた。相手から別れの連絡が来た時、まさに手も足も出さずにそれを受け入れた。アルペジオにのせて淡々と歌われるこの歌詞に深い共感を覚えた。

「伝えられないことばかりが
 性懲りもなく溢れ出す」

この曲の主人公も、同じような状況だと思った。相手からの別れを受け入れて、言いたいことは一つも言えていないのだ。頭の中では伝えたいことはたくさん出てくるのに。
歌詞は続く。

「それでもまだ人間でいたくて
 明日もまた同じ場所へ同じ手段で行く
 それでもまだ人間でいたくて
 彼らの理不尽さも品性の無さも受け入れてかなきゃ」

「晴れでもない代わりに雨でもない日の昼間に
 喜びもない代わりに悲しみもない日の昼間に」

サビで歌われるこのフレーズで”人間”という単語が出てくる。現在の僕たちは会社や学校という決められた場所へ同じ手段で向かう生活を繰り返している。そこでは納得できないような理不尽な事がたくさん起きて、いろんな人が様々な悩みを抱えている。だけどすべての人がそれらの理不尽さを受け入れられているのだろうか。それらを受け入れなければ”人間”にはなれないのだろうか。

次に書いた歌詞は、2番の頭の歌詞だ。
高校生の時は、パッとしなかった。”青春”と聞くとキラキラしたものを思い浮かべがちだが、実際はそんなことはない。大学生になれば何かが変わる!なんて思っていたけれど待っていたのは晴れでもない、雨でもない刺激のない生活だった。

「ようやく掴んだ幸福のしっぽ
 もう離すもんか幸福のしっぽ」

“幸福”というものは人それぞれだと思うが、僕にとっては恋愛が成就することだ。多くの人が同じ事を言うと思うけど。だから淡々とした生活の中でそれが叶ったときは歌詞の中で言うなら”幸福のしっぽ”を掴んだんだと思った。
だけど、幸福は自分一人だけでは成り立たない。ふとした瞬間に崩れてしまう。僕も主人公も結果的には何もできずにそのしっぽを離してしまった。この曲の主人公と自分を重ねてしまいとてもつらい気持ちになってしまう。
 

「近づいていたつもりが高速ですれ違っていただけ」

この曲で一番好きな歌詞だ。
人の出会いは刹那的なものだ。それがこの歌詞に集約されている。
絶望を感じる歌詞だけど、本当に素敵な歌詞だと思う。
 

「ただ受け容れるだけの掃除機と
 回り続ける洗濯機のように
 好きな歌など聴けなくても
 会いたい人には会えなくても
 行きたい場所に行けなくても
 黙ってすべてを受け容れるから
 そしたらまだ
 人間でいられるんかなぁ?
 母さん」

曲の最後はこのような歌詞で締めくくられる。主人公は理不尽や、品性の無さ、大切な人と別れた悲しみをただ受け容れて、淡々とした生活を送ることに”人間らしさ”を見出したように思える。しかし彼の母さんは「イエス」と言うだろうか?

私は言わないと思う。悲しみをただ受け容れて我慢してきちんと生活を送ることと、悲しみを受け容れたうえで悲しみに暮れることだったら、私は後者に人間らしさを感じる。嬉しい時には喜んで、悲しい時には涙を流したり落ち込むのが人間だろう。
僕には悲しいのに我慢することは絶対できない。「幸福のしっぽ」という曲は逆説的にそんな自分を肯定してくれているように感じるのだ。
 

僕は別れた恋人とは二度と会わないだろう。疎遠になって連絡先も知らない友達だっている。長い人生の中で”高速ですれ違う”ような出会いがたくさんあるだろう。だけど、「幸福のしっぽ」を聴いたことで別れたことを悲しむことは悪くないと思えるようになった。そうすれば二度と出会えない人と過ごした日々が報われるような気がするし、これからの出会いをもっと大切にできると思うのだ。

約8分半もあるとても長い曲だが、こんなに力強くて温かい曲を他に知らない。
僕はこの曲に本当に救われた。
特別な8分半をありがとう、ハヌマーン。
 
 
 
 
 

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