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2017年7月11日

奥田夏音 (25歳)

終わりまでの永遠

ユビキタスが今、鳴らす心

7月6日、江坂pine farm。そう広くはないライヴバーに、大勢のユビキタスのファンが集まった。Ba.ニケの誕生日パーティーも兼ねた、バンド初となるアコースティックワンマンライヴだった。ライヴハウスとは一味違うライヴバーの空気感、足を踏み入れるなりメンバーが出迎えるというアットホーム感、それらすべてひっくるめて、会場はどこかお祭りのようで、ライヴハウスのあの独特の緊張感はなく、まるで少し大きめのホームパーティーにお呼ばれしたみたいな雰囲気に満ちていた。

セットリストは、2ndミニアルバム「奇跡に触れる2つの約束」に収録の「イコール」から始まるという、なかなかにレアな選曲となっていた。新曲「美しい日々」と「嘘のはじまり」を立て続けに演奏したかと思えば、「パラレルワード」や「Moo」といった、発表が3年前にもなる懐かしい曲を披露し、その度にファンからは歓声と感嘆のため息、そしてときに感極まったが故のすすり泣きすらも聞こえてきた。アコースティックセットではあまりステージに立っていないこと、現体制でのアコースティックは全くの初めてであること、と不安材料は確かに残っていた。しかし、その力強くも繊細な演奏はそんな不安をかき消してしまうには十分だった。日頃から弾き語りで活動もし、アンプラグドなステージに立つことに慣れているVo./Gt.ヤスキに委ねるのではなく、きちんとアコースティックのユビキタスとして、バンドとして、そこに成立していた。ニケのベースにしても、NATSUKIのカホンにしても、いつもよりも粒立って聴こえ、3人で鳴らす音をそれぞれが彩っている、バランスのいい演奏だった。もちろん、アコースティックライヴとしては、コーラスに厚みが欲しいとか、もっと大幅なアレンジを効かせたセルフカバーのようなライヴになってもいいんじゃないかとか、注文をつけたくなる点もあった。しかし、この日のライヴにはその内容を超えてしまうような、大きな目的があった。
この日、フロアの一番後ろでは、病気療養を理由に4月末でバンドを脱退したヒロキがライヴを見ていた。そのステージにいるはずだった彼が後ろから見守っているという状況。仮に何も起こらず、ユビキタスが彼ら3人のままで進んでいたら、このアコースティックワンマンは実現しなかったかもしれない。3人でいることが当然の日常だった彼らに突きつけられた、「当たり前だと思っていることは、本当は当たり前なんかじゃない」という現実が、失くしてからそのことに気づいたという悔しさが、今の彼らを動かしているのだ。「1本1本のライヴを『こなす』んじゃなくて、全部を、1日1日を大事にしていきたい。」とニケは淡々と、いつものように茶化すこともなく、自分に言い聞かせるかのように語った。ヒロキが脱退した後、自身ら主催のライヴは一度もなかったからこそ、このタイミングで、ちゃんと自分たちの足で進んでいく決意を、覚悟をちゃんと表したかったと、ファンに対してもバンドに対しても、そして音楽に対しても誠実であろうとする芯の強さを見せた。また、ヤスキは「ここに立ちたくても立たれへん人がいる。立てるはずやったのに立たれへん。もうそれ、めちゃめちゃ悔しいやん。でも今俺らはこうして立ててるわけで、だとしたら、やりたいのにできひんことに比べたら、ステージ立ててる俺らがやりたいことやるなんてちょろいことなんよ。」と、いつにも増して飾らぬ口調で、ほとんど吐露したとも言えるほどにリアルな言葉を投げかけた。2人からあふれたそんな言葉は、3人でステージに立ちたいという願いが叶うかどうかはこの先の話だとして、少なくとも、ヒロキがバンドを離れている今でさえ、彼らは〈3人で〉ユビキタスなのだと感じさせた。
そう、この日のライヴは、ニケのバースデーパーティーというだけではなく、この半年での間にいろんなことが起きた彼らなりのファンへの感謝祭であり、さらには、現体制になったユビキタスの手による、これからもユビキタスはちゃんと前に進んでいくという決意表明を改めてする場でもあったのだ。

ユビキタスは決して華々しいバンドではない。ある日突然売れる!みたいなことがあるわけでもなく、コンスタントにフェスに出ているでもなく、仲のいいバンドや後輩バンドがメジャーに進出したり、着々と売れていったりするのを横目にしながら、それでも、腐らずに毎日毎日を地道に積み上げているバンドだ。少しずつ時間を積み重ねていく彼らだから、ぶち当たる壁も多い。しかしそんな彼らが見せる人間らしさが、それが滲みでている音楽が、より一層聴く者を惹きつけるのだろう。

ニケはMCでこう語った。

「バンドっていつか絶対終わりが来ると思うねん。理由はなんであれ、必ずやめなあかん時が来る。それでも、俺はその最後の時まで全力でいきます。」

無責任に夢を見せるのではなく、厳しくも現実的な言葉を並べ、その上で、いつか来る最後の時までの時間を約束する。この日誕生日を迎えた彼の言葉は、やけに格好良くて、熱を帯びていた。

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