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箱の中を愛で満たす

sumika "Wonder Bridge" で確信した音楽の力

小さなライブハウスで生まれた名もなきバンドが、大きくなって再びライブハウスに帰ってくる、と言う話はよくある。今から書くこの話も、そんなありふれた話の一つだが、私にとって、今回のライブはあまりにもひどく、そしてあまりにも最高なものだった。そんなライブを見た今、この想いをどこかにぶつけずにはいられないのだ。
 

2019年10月19日。Zepp Tokyo。

この日この場所で大きく息を吐き出したバンドがいた。2013年結成のロックバンド”sumika”だ。

この秋から始まった全国のライブハウスを回るツアー「Wonder Bridge」のうちの一公演だったが、この日は特別な一日だった。多くの応募と、なによりsumika自身の強い希望によって実現した、幻の追加公演だったのだ。他の公演が外れてしまった人、都合が合わず参加できなかった人など、さまざまなsumikaファンの想いが詰まった公演だっただけに、会場の空気はいつもよりも昂ぶっているように感じた。かく言う私も、本公演が外れてしまい、悲しみに明け暮れているときに追加公演の知らせを見て、そして幸運なことにこの場所に来ることを許されたのだった。

17:00。開演。会場の照明が落ち、拍手と歓声が起こる。でも、いつもと違う。いつもの入場曲(SE)がない。メンバーが静かにステージ上に現れる。片岡健太(Vo,Gt)が中央に立ち、お辞儀をする。異様な空気にざわつく会場。いやだ。思っていたのと違う。いつもみたいに明るく、元気な声で「sumika、始めます!!」と言って欲しかった。彼らの原点であるライブハウスでのライブ、一曲目はデビュー曲で盛り上げるのかな?なんて思っていたのに、私の期待とは裏腹に、メンバーは硬い表情で下を向いている。

最悪だ。

音楽が始まる。sumikaが選んだ一曲目は『春夏秋冬』。バラード曲だ。文字通り浮き足立っていた観客のかかとが地に着く。まっすぐ、ただまっすぐsumikaの音楽が心に入ってくる。

あぁ、だめだ。
この1ヶ月間、つらいことがあってもこの日があると自分に言い聞かせて堪えてきたのに、それはないよ。そんな顔で、そんな声で歌わないでくれ。

愛が止まらないじゃないか。

涙が流れるのも時間の問題だった。

会場中の誰もが楽しみにしていた瞬間は、会場中の誰も予想していなかったであろう空気で包まれていた。

ライブハウスで観客同士として知り合ったメンバーから始まった小さなバンド、sumika。ここまで大きくなるのにどれだけの苦悩があったか私には想像し得ないが、彼らの音楽は変わることなく私の心を掴み続けている。今年に入ってからは、ホールツアー、アリーナツアーと大規模な入れ物の中で音楽を吐き出し、また、成長するための経験を吸ってきた。そして今秋、原点である箱に戻ってきた。

〈ありがとうも さようならも 此処にいるんだよ〉
『春夏秋冬』

たくさんの春夏秋冬を経て、sumikaを追いかけてきた私たちファンに「ありがとう」を伝えてくれたのだ。そう言いたいのはこっちの方なのに。まったく、いつまでたっても態度だけは小さなバンドで困る。

音が止む。彼らが歩んできた春夏秋冬が会場を駆け巡って、そしてステージ上で収束する。いつのまにか緊張で固まっていた私の体も、まわりの観客の拍手の音で目が覚め、つられるように拍手する。息の詰まるような開演だった。

そこからはいつものsumikaだった。

ライブ定番曲『Lovers』、激しいロックナンバー『ペルソナ・プロムナード』。一曲目がバラードだっただけに、テンションを持ち上げるのが難しかった。でも、さすが私たちの住処、あっという間にアットホームな空気を作り出してくれる。腕は自然に上がるし、体は勝手に揺れる。

これこれ、これぞsumikaの音楽。ロックでポップなsumikaを全身で感じたくて、私はこの場所に来たのだ。

それなのに、やっぱりこの日のsumikaは意地悪だった。せっかくの古巣・ライブハウスでのライブなのに、しっかり私の心をぐちゃぐちゃにしてくる。

自分のことを全員が理解してくれるわけなんてない。だから、自分の心を信じて大切にしてほしい。そんなMCで始まった曲は、『ゴーストライター』。

自分を潰してまで大人になろうとする”あなた”をどうにかして救いたい”私”の曲。

〈いつの日か私にもその痛みを教えて〉
『ゴーストライター』

今すぐじゃなくていい。大人でいる必要もあるから。でも、いつか、本当の自分を打ち明けてほしい。絶対に一人で抱え込むことはしないでほしいんだ。

大切な人を優しく包み込む言葉。人の温もりを直に感じられる詞。簡単には言えないフレーズも、音楽は私たちの心まで届けてくれる。

この歌を歌う片岡健太の声は、いつにも増して引っかかりのない、透き通った声だった。濁らないように必死に抑えながら、それでいて力強い歌声だったように感じた。

あぁ、だめだ。
せっかく盛り上がって来たところなのに。詞が嫌というほど入ってくる。まいった。

ライブのセットリストには波があると言うが、この日のsumikaの波は荒すぎて、私には舵を切ることはできなかった。ただただ、荒波に飲まれていた。

それでも、その波の中に心地よさを残してくれるのはさすがとしか言いようがない。

『フィクション』『ふっかつのじゅもん』と、代表曲で終盤の盛り上げに差し掛かると、ライブ定番曲、『「伝言歌」』が始まる。

“伝えたーーーい”

みんなで歌うこのフレーズ。この日、この場所でしか成り立たないこの音楽。

「これがスマホにできるかっ!!」と叫ぶ片岡健太。

たしかに。よく考えたら変な話だ。顔も名前も知らない人たちと、大声で同じ言葉を発している。LINEで待ち合わせたわけでもないのに、同じ場所に集まって同じ空気を吸っている。

ただ一つ言えることは、みんな音楽を愛し、sumikaを愛していること。奇跡だけど必然。家のソファに座ってボタンを一つ押すだけで音楽が聴ける時代なのに、なんて古典的なんだ。それでいてこの瞬間を超える幸福はおそらくスマホの中にはないだろう。

あぁ、ライブって素敵だ。

あいも変わらず煽りはくさいが、ライブ中にそんなことを考える暇はない。昂まって馬鹿になっている私は彼の信者だ。全ての言葉が正しく思えてしまう。実際そうなのだ。当たり前のことだって、口にされて初めて認識することもある。sumikaの音楽、詞は、いつだって私にそのことを教えてくれる。

アンコール曲も終わり、会場には想いの詰まった暖かい拍手が響き渡る。最後までステージに残った片岡健太は、マイクを外し、「愛してます!!」と叫ぶ。

アーティストがファンに感謝し、ファンを愛すというのは本当なのだろうか。そこそこ有名になれば、もうファン一人一人のことは見えないのではないか。そんなことをよく考えるが、彼の姿勢、彼の声はそんな疑問を解決してくれる。答えはyesだ。少なくともsumikaは。この日のsumikaを見てそう信じることにした。だって私は彼らを、彼らの音楽を愛しているのだから。信じるのは私の勝手だ。

結果的に見れば、今回のライブは、彼らの原点であるライブハウスでの特別な公演だったのにもかかわらず、デビュー曲すら歌わない、それどころか開演から重いバラードで私の心をめちゃくちゃにするひどいライブだった。

でも、全ての音、全ての瞬間に愛を感じた。私からも愛を送り続けた。期待と違った。最悪だった。でも、行って良かった。今のsumikaの音楽を全身で感じられて良かった。最高だった。

幸運なことにどこでも気軽に音楽を聴ける時代。そんな時代に私が思うことは、音楽をただの飾りにしないで欲しいということ。音楽の楽しみ方は人それぞれだが、音楽を奏でてくれる人がいる以上、最低限私たちはそれに応えるべきだ。歌手の解釈と違ったっていい。メロディーだけを楽しんだっていい。でも、一度はその中身にあるものを全身で感じて欲しい。それが、アーティストに対する、音楽に対する愛情だと思うのだ。

決して当たり前ではない瞬間。様々な理由で好きなアーティストのライブに行けない人はたくさんいる。難しい。とても難しい。音楽は自由なのに、自由じゃなくなる場合がある。sumikaはそのことを知っている。だからこそ彼らは、苦しみながら、なんとかその問題を解決しようと奔放する。この日の追加公演もそうだ。なんとかして0を1以上にしてくれる。

それに私は応えたい。届いてるよと、伝えたい。
 

2019年10月19日。
箱の中は愛で満たされていた。
 

言葉は入れ物で、中身は人それぞれ。
私からは、”ありがとう”の意味を込めて。

sumika、ありがとう。

また帰ってきます。

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