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失って初めて気づく系のアレ

クリープハイプ・Saucy Dog・ELLEGARDENのリアルな女々しさ

別れは突然訪れる。

7年前に一目惚れし、密かに想い続け、7年目にして付き合うことができた年上の彼女。
近づくきっかけは音楽だった。当時高校生の君は海外で生活し、周りに邦ロック好きがいない中、ロックバンドのライブに彼女を誘うと、偶然にもELLEGARDENのファンだということを知った。
そこからはオススメのバンドを教えあいながら距離を縮め、日本へ帰国し二人でライブに行くようになった頃、君は晴れて彼氏となった。

君は様々なバンドを聴き、勧めたが、最も彼女が気に入ったのはクリープハイプだった。
思い返せば君の女々しさが好きと言ってくれた彼女がクリープハイプにハマるのは必然だったのかもしれない。
来年のツアーファイナルのチケットも抽選で2枚当選し、CDJでも大晦日に一緒に見れるはずだった。

関西に住む君と東京に住む彼女は遠距離で交際を続けて7ヶ月半が経とうとしていた。
その日君は彼女に会うために東京で宿泊していた。
昼に会った後、一度家に帰るという彼女と午後6時くらいにホテルで待ち合わせ、時間まで部屋で音楽を聴きながら大学の卒業論文を書いていた。
何日か前にお互いが忙しい中でイライラしてしまい、電話で喧嘩になってしまったことを君は気にしていた。

午後5時頃、携帯の通知が鳴る。
「ごめん、やっぱり会えない。本当にごめん。今回は帰ってほしい。一人で冷静に考える時間が欲しい。」
すぐに電話をかけても出ない。
一瞬にして鼓動が速くなり、呼吸が小刻みになる。
胃が痛い。胸が苦しい。
気が動転し、何をすればいいかわからない。
気がつくと目から涙が溢れていた。

翌朝、ほとんど寝付けないままホテルを発ち、朝の新宿を歩いて駅へ向かう。
数歩歩くと彼女と同じ場所を歩いた思い出が脳裏に蘇り、また涙が溢れてきた。
全曲シャッフルで流しているiPodからはクリープハイプが流れている。
よりによって彼女が一番好きだった『左耳』だ。

「君が居なくなったら アタシはどうなるかな
 君が居なくなったら 寂しいな 悲しいな」『左耳』

寂しいどころじゃない。悲しいどころじゃない。
心の真ん中がすっぽり抜け落ちるのと同じだ。

こうなったらクリープハイプを聴きながら帰ろう。
君が一番好きな『手と手』を流す。

「大切な物を無くしたよ 今になって気づいたのが遅かった」
「繋いでたいから手と手握って 指と指の間絡ませたなら
 もう要らない もう要らないよ 君の他にはなんにも要らないよ」『手と手』

これが失ってから気づく系のアレか。
普段は必ず手を繋いでたのに今回は繋いでこなかったのはだからか。

アーティストをSaucy Dogに変える。

「気がつけば僕の殆どを君が占めていた
 それじゃあ残された僕の毎日の意味は知れていた」
「君じゃないんなら意味無いからなんてさ」『ナイトクロージング』

彼女は君にとって全てだった。彼女に好かれるためならなんでもした。
マッシュが好きと言われれば短髪から伸ばしてマッシュにした。
ベーシストいいよねと言われれば楽器経験もないのにベースを購入し練習した。
服も彼女の好みに合わせて買った。
今の君の構成要素は半分以上が彼女だ。彼女さえいればいいとずっと思ってた。

電車で涙をこらえながら東京駅で新幹線の切符を購入する。
月曜午前8時の東京駅は人で、君の目は涙で溢れていた。

思い出すのは何気ないことだ。
家に泊まりに来た時、深夜に手を繋いでコンビニに行ったこと。
パスタを茹でてくれた時に麺にオリーブオイルをかけておくと時間が経ってもくっつかなくなることを自慢げに話していた横顔。
大学のゼミの飲み会御用達の居酒屋に連れて行った時の笑顔。

家に到着する。

「気がつけば日常が 思い出になっていた
 見渡せば部屋にはもう 君との記憶ばっかりでした」『Wake/Saucy Dog』

掛けてある彼女が選んでくれたシャツ。下駄箱の中の彼女のサンダル。
洗面所に置いてある化粧品一式。服が詰め込んであるトランク。
彼女が来るのを待っているかのように、部屋に佇んでいる。

気分を変えようと、彼女のために始めたベースを手に取る。
近づくきっかけとなったELLEGARDENの曲の中で君が最も好きで、ベースを始めて最初に弾けるようになった曲を弾く。

「She’s a supernova I was reaching out for
 I heard her footsteps fading away from me」
(僕が手を伸ばした彼女は超新星のようだった
 彼女の足音が遠ざかるのが聞こえた)『Supernova』

7年前は彼女が手の届かない存在だったからこそ共感したこの曲が、自ら手放してしまった状態で聴くとこれまで以上に心に刺さる。

「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ
 信じていたのに嘘だったんだ」『愛の標識/クリープハイプ』

何度もこの部屋に泊まりに来て、幸せそうで、結婚の話もしていた君はもういない。
一方的な別れを前にして、これまで聴いて来た曲たちが全く違う聴こえ方をする。まるで君の気持ちを代弁するように、寄り添うように、流れ込んで来る。
聴いていると、自然と涙が溢れる。

「ただ ただちゃんと
 ただ ただ好きなんだ」『ただ/クリープハイプ』

ずっと自分のことが嫌いだった。
言葉で気持ちを伝えるのが苦手で、家族に対してさえも気を使い、愛想笑いしていた。
彼女は君が唯一本音で話せ、愛想笑いなんてしなくても一緒にいれば自然と頬が緩む存在だった。
彼女と一緒にいる時間は自分のことが少し好きになれた。

彼女と別れるくらいなら死にたいと思っていた。
それでも女々しい音楽が君を支えてくれる。
次会う時にもう一度好きになってもらえるように、君は立ち上がる。

「じゃあね
 またどっか遠くで
 いつか」『いつか/Saucy Dog』

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