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ねえ軽率に幸せになってよ

クリープハイプ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』

“栞”という曲を公開直後に聴いた時、「あれ?」と思った。
その曲には、私の知っているクリープハイプの偏屈さやひねくれがまったく感じられなかったからだ。明るく軽快なメロディライン、≪「今ならまだやり直せるよ」が風に舞う≫という歌詞の、まっすぐな清涼さ。
知らないクリープだ、と思った。
ただこの曲は、「FM802 × TSUTAYA ACCESS!」キャンペーンソングとして書き下ろされたもので、歌っているのも尾崎世界観だけでなく、Radio Bestsellersとしてあいみょん、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介などが参加しているものだった。だから「寄せた」のかな、なんて、後から考えるとずいぶん失礼な解釈をしてた。

それからしばらく経って、2018年の武道館のライブダイジェストとして公開された“栞”のクリープハイプverを見た。そこには、屈託なく笑い、バックヤードで楽しげにおどける尾崎世界観の姿があって、そこでようやく自分の勘違いに気づいた。
ああそうか、これは本当に尾崎の曲だったのか。

そうだ、思い返してみれば、『泣きたくなるほど嬉しい日々に』というアルバムが出たときも「あれ?」と思ったのだ。「こんな幸福ど真ん中みたいなタイトルつけるんだ」と。
「あの」尾崎世界観がこんなタイトルつけるか? 何かの皮肉とか、どんでんがえし的な仕掛けが仕組まれてるのかな? なんてことまで疑ってかかっていた。
だから、遅ればせながらアルバムを聴いてみて、その中に詰まった明るくて柔らかな曲の多さに打ちのめされた。

≪大好きになる 大好きになる 今を大好きになる/無理に変わらなくていいから/代わりなんかどこにもないから≫(“陽”)。
なんだ、この素直な歌詞は。

≪僕の髪が白くなればその気持ちも変わってるかな/君の髪が渇くまではここにいると思うよ≫(“寝癖”)って歌ってた人が、≪使い古して 使い果たして/その度に何度も蘇る/一生に一度じゃなくて/一生続いていく≫(“一生のお願い”)なんて言っちゃうのかよ。
なんだよこの曲は。こんな、泣いちゃうくらいいい曲たちは。

ショックで打ちのめされて打ち倒されて、あおむけになって改めて見上げた今のクリープハイプという空があまりにも晴れ渡っていて、思わず笑ってしまった。
そっか、こんな曲を歌えるようになったのか。幸せって言うようになったのか。

*

尾崎世界観といえば、数あるバンドマンの中でもひねくれ者の代表格と言っていいだろう。
居場所がない、認められないと吠えるのに、いざ人気が出ると今度は安易に流される大衆に嫌悪を示す。不機嫌で偏屈な、THEひねくれ者。

そのねじくれたかわいくない感情がよくわかるから、私含め多くのひねくれ者がクリープハイプの音楽を支持した。
売れ筋に乗ってからもその偏屈は健在だった。バンドなんて特に「売れたら変わった」なんて言われやすい。でも、勝手に裏切られた気になって勝手に離れていく聴き手に対して“社会の窓”で≪オリコン初登場7位その瞬間にあのバンドは終わった≫と放ったカウンターに痺れた。

クリープハイプのねじくれた歌じゃなきゃ癒されない気持ちがあって、だから私たちはずっと彼らの音楽を愛してた。
そんな、素直さの対極にいたクリープハイプが「泣きたくなるほど嬉しい日々に」なんてアルバムを出したことが、いま素直に嬉しい。

*

誰かが幸せになったり成功したりすると、必ず誰かがケチをつけて足を引っ張る世の中だ。
SNSが浸透して誰もが意見を発信できるようになって、それはもっともっと顕著になった。軽率に「幸せ」って言いづらくなった。「幸せ」って一言いうのに、十個の謙遜をくっつけなきゃ許されなくなった。

でも、そんなの馬鹿みたいだ。
いい人ぶりたいわけじゃない。だって、誰かの足を引っ張ってもその人に成り代われるわけじゃないし、自分が成功できるわけじゃない。そんなの時間の無駄だ。
それならそのエネルギーは自分自身が幸せになるために使いたい。
もっと軽率に幸せになりたい。幸せだったら軽率に幸せって言いたい。
そして、「あの」尾崎世界観が、「泣きたくなるほど嬉しい日々に」なんて歌ってしまえるなら、それができる気がするんだよ。

人生はいい日ばかりじゃない。
大嫌いだよクソが、と吐き捨てたい瞬間が波のように繰り返しやってくる。
自分以外全員バカだと思う時がある。自分自身が許せなくて消えたくなる時がある。
でもそのはざまで、信じられないような幸福な瞬間が波のように訪れる。
その瞬間を、素直に嬉しいと認められること。
“オレンジ”とか“SHE IS FINE”とか“イノチミジカシコイセヨオトメ”に胸を撃ち抜かれたのとおんなじように、“泣き笑い”に共感できる自分でありたい。

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