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バンドの存在価値はドラムが担っている

くるりにちょっとだけいた謎の外国人ドラマー

ドラムが好きだ。ぶっちゃけ、ドラムが聴きたくて音楽を聴いていると言ってもいい。ジャズやヒップホップなんて、ほとんどドラムを聴くための音楽だ。少なくとも自分にとっては。

ロック・バンドの花形はヴォーカルとギターだけど、バンドの存在価値はドラムが担っていると思う。単にテクニカルなドラマーならスタジオ・ミュージシャンやアマチュアを含めて星の数だけど、特別な存在になれるのはほんの一握り。それは歴史が証明している。

フー、ローリング・ストーンズ、ビートルズ、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、レッド・ツェッペリン、ポリス、ストーン・ローゼズ、ニルヴァーナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、リバティーンズ・・・当たり前だけど、好きなロック・バンドは皆ドラマーがイカしてる。もしもドラマーが違う人間だったらと想像しただけで思わずゾッとする。

そんな、重度のドラム中毒患者の僕が、常備薬として手放せないアルバムが、くるりの5枚目のアルバム『アンテナ』である。彼らの20年を超えるキャリアの中でも、これが自分にとって特別なのには理由がある。それは、このアルバムだけで聴くことができる謎の外国人ドラマー、クリストファー・マグワイアの存在に由る。歌っている、ヴォーカルの岸田だけじゃなくて、ドラムも歌っているように聞こえる。『アンテナ』はそういう特殊なアルバムだ。

聴けば聴くほど、そのダイナミックでありながらもまったりとしたグルーヴにやられる。日本人とは明かに異なる身体能力から生み出される圧倒的なパワーと独特のタイム感覚、キックとスネアとタムタムとシンバルが織りなす色彩感豊かなハーモニー、まるで歌っているかのような寄せては返す緩急のさざ波・・・

マグワイア、只者じゃない。

しかし、当初は随分地味なアルバムだなぁと思って聴いていた。くるりお得意のバラエティに富んだ実験的で斜めったポップ感覚が希薄で、妙に懐かしいというか、悪く言えば随分古めかしい音だなと思ったのである。それもそのはず、『アンテナ』は全体が70年代の洋楽ロックを彷彿とさせる王道風のサウンドで占められているのだから。で、あるにもかかわらず、安易なオマージュやリスペクト感が漂っていないところに『アンテナ』の邦楽ロックとしての存在価値を感じる。

ストリングスに導かれて、やけに感傷的な「グッドモーニング」で幕開けされる『アンテナ』、その静寂をぶち壊すかのように、2曲目の「Morning Paper」から突如マグワイアが動きだす。こんな変則的な曲を、ここまで大胆にスイングさせることができるのはマグワイアなればこそ。そして満を待して、くるり史上最強のキラー・チューン「ロックンロール」へとなだれ込む。

イントロにおけるマグワイア怒涛のドラミングで体勢がグググッとのけ反ってゆく。無限ループのようなギターのリフレインにドラムとベースが絡み合うことで上昇気流が発生し、全身が天高く舞い上げられてゆくような感覚に襲われる。そこへ岸田があの声で、ある意味卑怯とも言えるセンチメンタリズムとノスタルジーを武器に、これでもかと波状攻撃を仕掛けて来る。毎回毎回、目頭がカーッと熱くなって、喉元へこみ上げてくる感情をグッと飲み込まなければならなくなる。全くもってタチの悪い、その名に違わぬキラーチューンだと思う。

マグワイアの快進撃はそのあとも止まるところを知らない。うねりをあげる激烈ハード・ナンバー「Hometown」では八面六臂の舞を披露、一転してフォーキーな「花火」と「黒い扉」では、まるで即興のようなフリーダムな空間を作り出し、組曲のような「花の水鉄砲」では岸田に寄り添いつつ手堅い職人ぶりを発揮し、弾き語りの「バンドワゴン」でしばしの休憩。そして最終曲「How To Go」へ・・・一体なんなのだろうか、こんな、なんの変哲も無いスロー・テンポの曲が、ロックを聴く幸せを溢れんばかりに隆起させてくれる。

そんな『アンテナ』を聴くたびに、ふと思う。岸田はどうしてマグワイアをバンドに留めなかったのかと。勿論、これは想像でしかないわけだけれど、もしかしたら「くるりはもうずっとこの路線でイイじゃん」と思ってしまう危険性を自ら感じとったのではあるまいか。常に進化することを望んでいる節のある岸田にとって、それはミュージシャンとして致命的なことなのかもしれない。そう思うと、最終曲「How To Go」での、感情が破裂してしまったかのように泣きじゃくるギター・ソロは、岸田がマグワイアに捧げた、決別の唄のようにも聞こえてくる。

『アンテナ』は、わけのわからない何かに扇動され装飾過多に陥り、ものの本質が見失われているかのように見える今の世の中だからこそ、初期衝動、興奮、安らぎ、心地よさといった、ロックの当たり前を、至極真っ当に響かせることができるのかもしれない。
 

(曲のタイトルは全てCD表示によります)

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