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2017年7月12日

イガラシ文章 (25歳)

悔しいけれど、完敗だ。

Mrs. GREEN APPLE「MGA MEET YOU TOUR」ファイナル東京公演を観て

五月十九日、私はさながら勇敢な戦士を待ち受ける魔王のような心持ちで東京国際フォーラムへ赴いた。

ミセスのライブを観るのは二回目だったが、楽曲自体は結構長い間聴いてきていたので、些か上から目線ではあるが、彼らの成長を確実にこの耳に刻みつけ続けてきた自負が私にはあった。
だから、企業の展示会やクラシックコンサートなんかも行われるこの広くハイソサエティなホールに一歩足を踏み入れた瞬間、こんなところで彼らのやり方が通じるのかと、ちょっとした心配と意地悪心すら湧いてきていたのは、隠しきれない事実だ。
同行してくれた友人にもそんな私の高慢さは伝わっていたのではないかと思う。ミセスを聴き始めてまだ日の浅い彼女は、私と一緒にボーカルを呼び捨てで呼び、今回のツアーで披露されているアルバム収録曲について語り合い笑い合いながらも、ちょっと引いているような気もしていた。
言い方は悪いが、今の彼らの身の丈には、有り余りすぎているんじゃないかと思っていたのだ。

UK・USのポップスがクラブのように鳴り響く場内。集まった人達の熱気を吸い込んで高まる気温。宇宙船のコックピットの窓のようなモニターが舞台狭しと配置され、その中央で誇らしげに輝く「M」を象ったロゴマークのネオンがさながらハンドルのようだ。
さあ、この仰々しい程の広大な舞台の上で、彼らはどう闘うのか。
魔王の思惑を尻目に、呆気なく幕が上がる。

モニターに銀河のようなグラフィック・アニメーションが映し出され、バンドセットを囲むように並べられたポール型の照明が松明のように光る。何か神聖な儀式でも始まるかのような演出の中、メンバーが登場した。

一曲目は、アルバム発売前からライブで披露されていた『Just a Friend』。切ない片想いの歌でありながらドギツいシンセサイザーの音が印象的な曲。音源で聴いていても充分好きな曲だったが、ライブでの音の広がり方が凄い。大きな舞台を一気にバンドサウンドが呑み込み、そして大森元貴の歌声が物語を描き出す。
『Oz』や『サママ・フェスティバル!』などもそうだが、アッパーで可愛らしいパーティチューンでの大森は、さながらアイドルのように愛嬌を振りまき、舞台狭しと駆け回る。ギターの若井滉斗にちょっかいを出したり、ベースの髙野清宗にビンタするふりをしてみせたり。『Oz』のサビでのキーボード藤澤涼架とのダンスは最早名物と言っても過言ではない。

と思いきや、こちらもアルバム発売前から既に披露されていた『うブ』や、テクノ色の強い未発表の新曲ではレーザービームと激しいシンセサイザーに包まれ、まるで挑発するように客席を扇動する。ディスコ空間と化した場内を支配する彼はアメリカンポップスのセクシーなスター歌手のようで、その全身から発せられる熱に煽られるかのように、メンバーも動き、舞い、激しくカラフルで骨太な音を鳴らす。

しかし、そんな自己主張激しい程に元気いっぱいなメンバーが、『おもちゃの兵隊』『ツキマシテハ』『絶世生物』などの楽曲では一気にクールな面持ちに変わり、冷徹な程に“演奏者”に徹するのが印象的だった。アドリブアレンジを加えたりと歌う事を楽しんでいるようだった大森の歌声が捻じれ、捩れ、掠れながら感情を爆発させる程に、さっきまで個性のかたまりのようだったメンバーは、彼の怒りややるせなさを具現化したような歌の物語を、舞台の上にただただ忠実に再現する装置と化す。さっきまでメンバーを温かな眼差しで見守りながら楽しげに叩いていたドラムの山中綾華も、まるで夜叉のように髪を振り乱し、重いビートを刻む。
ギターを掻き鳴らす大森の直立不動な佇まいと相反するエモーショナルな歌声からは、言いようのない嘆きと全能感が滲み出していた。

一方で、『soFt-dRink』や『鯨の唄』、そして初のフルアルバム『TWELVE』に収録されていた『Hug』などからは、等身大の青年の眼差しが真摯に伝わってくる。特にアコースティック編成で演奏された『Hug』はアルバムに収録された音源から感じる、傷だらけの手のひらでそっと抱き締められるような痛々しさは薄れ、代わりに柔らかな羽毛で窒息させられるような切実な優しさを感じた。大森の歌声は奇を衒う事もなく、ひたすらに優しく温かい。メンバーの演奏もそれに呼応するように、何処までも丁寧で神々しいまでに美しかった。

気がつけば、私は泣いていた。邪悪な魔王は呆気なく何処かへ姿を消し、まるで小さな子供のようにボロボロと涙を零しながら彼らの音に身を任せていた。

初めて彼らの音楽を耳にした時からこうだった。その音にひとたび触れると、少なくともその間だけは彼らの事しか考えられなくなってしまう。無邪気な子供の笑顔のような親しみやすい音は私の懐にするりと入り込み、人の心に真摯に向き合った歌詞はあたかも自分の歌のように、自分自身の思想のようにじわりと染み込んでくる。

彼らの音楽に出会った時、私はただただ悔しかった。
小学生の頃から作詞作曲を初め、高校卒業間もなくしてバンドをインディーズ・メジャー両方でデビューさせる程の曲を生み出す事が出来る大森元貴はやっぱり天才だし、そんな彼の描く独特な詞の世界を、音を使ってしっかりと再現するメンバー四人の伸びしろも恐ろしい程だ。たったの四歳差とは言え、歳下の華奢な青年が率いるバンドに胸のうちの全てを奪われたようで、好きだと言う気持ちを受け入れるのに抵抗すら感じていた程だった。

でも、今は彼らにもっと、奪われたいとすら思う。尻込みしてなかなか足を運べなかったライブにも進んで行くようになった。

アンコールのMCで、その日二十四歳の誕生日を迎えた藤澤が、思いの丈を語った。学生時代吹奏楽部に入っていた彼は、発表会でホールの舞台に立ったものの、演奏を楽しめず、満足のいく音も出せなかったと。でも今は、ミセスのメンバーとして演奏できる事が何よりも楽しいと、不器用そうに語る彼が愛おしかった。

当たり前だが、彼らにはそれぞれの人生がある。言葉少なながら弾けるような笑顔を見せるリズム隊のふたりにも、中学時代、大森にバンドに誘われた事によってその人生を決定づけられた若井にも、そして、大森にも。
多感な時期に周囲に合わせられない自分に気づき、学校にも行けなくなり、その救われない心の拠り所として音楽を選んだ大森にとって、きっと音楽は最強の武器なのだ。そして、それは四人にとっても同様なのだろうと思う。

音楽は、誰も傷つけずに人の心を奪い、幸せや切なさや、温かい気持ちで支配する事が出来る最強の武器だ。何者でもない少年少女だった彼らは、音楽と言う武器を手にする事で美しい戦士に変身した。
ミセスの音楽に触れているとそんな事を本気で思うし、実際最強の武器を手にどんどんたくさんの人を魅了していく彼らの姿はRPGの主人公の、戦士のパーティを見ているようで痛快だった。

「日本の人はリズムに乗って踊るのが苦手だって言われてるんだって。それってさ、悔しくない?」

曲間のMCで、挑発的な眼差しでそう言い放つ大森のアジテーターとしての才能には目を見張るものがあるし、最早戦士を通り越して少年王のような堂々たる風格すら感じる程だった。

終演後、私は暗くなった舞台を友人と眺めながら、心の中で白旗を掲げた。悔しいけれど、魔王、完敗。あまりに見事な惨敗具合に、いっそ清々しさすら感じる。
しかし多分私の中の魔王は、浅はかにもまた蘇ってくるのだろう。どうせ負ける事は目に見えているのに、きっと何度だって戦士達を唆す。
その時はまた、ひと思いに息の根を止めてくれ。その、“世にもハッピーな世界最強の武器”で。

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