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邦楽ロックバンドのハードルが高くなる理由

SUPERCARというバンド・スタイル

僕には感情の起伏をおさえた音楽を好む傾向がある。小学5年生の時、イエロー・マジック・オーケストラを聴いて音楽に目覚めた事が、そのままずっと尾を引いているのだと思う。中高生の時も歌無しのインストゥルメンタルがカッコいいと思っていたし、大学生になってジャズを聴くようになってもヴォーカルものはほとんど聴かなかったし、いい年になってアメリカのヒップホップを好んで聴くのも、英語のラップを音響の一部として捉えているからだ。

なので、サウンドと日本語の歌詞が切っても切れない邦楽は、洋楽よりもハードルが断然高くなる。クロマニヨンズ、BLANKEY JET CITY、エレファントカシマシ、スチャダラパーなどは、そういった高いハードルを軽く飛び越えてくる存在なのだけれども、どうしても歌詞のメッセージ性に耳が引っ張られて、精神的に疲れてしまう時がある。それでもやっぱり邦楽のバンドが聴きたいとなった時に、フッと思い浮かぶのがSUPERCARなのである。

彼らとの出会いは3枚目の『Futurama』だった。オープニングのインスト・ナンバー「Changes」に導かれて始まる「PLAYSTAR VISTA」の開放感に満ちた万華鏡のようなキラメキに、心と体が、えも言われぬ多幸感に包まれてゆくのを感じた。この冒頭の2曲だけで、SUPERCARがサウンド重視のバンドである事が明確に伝わってくるし、こういうスタイルのバンドが知らぬ間にメジャーへ進出していたという事実に大いに興奮した。

それゆえに、歌詞はメッセージ性よりも気分的な要素が濃く、あくまでもサウンドに付随する添え物といった感じなのだが、それでもあえて日本語の響きにこだわり、いかにしてサウンドと融合させるかに心血を注いでいるという姿勢に、邦楽バンドとしての存在価値があるように思える。

SUPERCARは8年の活動期間で企画盤を除いたオリジナル・アルバムを5枚リリースしている。その中から1枚選ぶとすれば、これはもうダントツ、文句なしで最終作の『ANSWER』を推したい。フレッシュな感覚でシューゲイザー系のギター・サウンドを響かせたファースト『スリーアウトチェンジ』、爽やかに疾走するネオアコ感覚にエレクトロニカを融合させた4枚目『HIGHVISION』も魅力なのだけれども、『ANSWER』には聴くほどにジワリと染み込んでくる複雑で深みのある音響と、彼らとしては異例の良い意味でのダークな重みも備わっている。

『ANSWER』は、ヴォーカル&ギターのナカコーこと、中村弘二の趣向が濃厚に反映されているように感じる。トリップ・ホップ、ドラムン・ベース、アンビエント、ディープ・ハウスといった、いわゆるクラブ系のサウンド要素を巧みに取り入れた、重心の低い楽曲が並ぶこのアルバムには、全編に渡ってヘヴィでダークな雰囲気が漂っている。にも関わらず、気分的には外へ外へと向かう風通しの良さを感じるという不思議な聴覚体験が味わえる。

想像力を掻き立てる音、聴いているだけで様々な光景が目の前に広がるトリップ感を味わわせてくれる曲が『ANSWER』にはたくさん詰め込まれている。「WONDER WORD」、「BGM」、「DISCORD」なんかは、そのクールな音響と相まって、チラチラと雪が舞い降りる12月の街を散歩しているような感覚を味わえると同時に、サンサンと輝く真っ赤な太陽、青い海と白い砂浜といったリゾート風景までもが頭の中に浮かんでくる。

このように、優れた音楽には季節や場所を選ばず、どんなシチュエーションにもフィットしてしまう全能感が備わっているように僕には思えるのである。夏のイメージが濃厚な山下達郎やサザンオールスターズ、それからビーチ・ボーイズにしても、実際に試したことはないけれど、スキー場における快適なお供としても十分に機能を果たすのではと想像できる。

そんな全能感を兼ね備えた『ANSWER』の中でも特別な光景が浮かんでくる象徴的な曲が、SUPERCAR史上最も美しいバラード・ナンバー「LAST SCENE」だ。普段通りクールな調子でささやくように歌うナカコー。しかし、その声にはいつもと少し違うニュアンスを含んだ微かな憂いと、心地よい脱力感のようなものが感じられる。

”柔らかな光を背にした黒い人影が、まるで忍者のように水面をスローモーションで歩いている。他に人影はなく、ただ独り歩き続けるその人には、ほのかな希望の光がさしている・・・”

これは僕が勝手に思い描いたナカコーの心象風景のようなものだ。『ANSWER』という最高傑作を作ってしまったから、もうバンドとしてやれることはなくなってしまった。いや、もしかしたらナカコーは、最初からソロとして制作に臨んだのではあるまいか。すでにバンドの存在はそこには無く、ナカコーは独り歩きを始めていたのかもしれない・・・『ANSWER』を聴いていると、ふとそういった余計なことまで想像してしまったりもする。

SUPERCARが解散して早14年、「友よ、いつかまた、その日が来るまで・・・」なんて、そんな風な事をナカコーが言ったとは思えないし、もうその日は来ないような気もする。けれども、SUPERCARのまばゆいばかりのキラメキは、今も手を伸ばせばすぐそこに感じることができる。

(曲のタイトルは全てCD表示によります)

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