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フジファブリック『CHRONICLE』の謎に迫る

邦楽ロックバンド21世紀問題

思い起こせば、SUPERCARが解散した2005年を境に、邦楽ロックバンドと急に疎遠になったような気がする。なんだか気が抜けてしまったような、燃え尽き症候群みたいなそんな感じだった。それと合わせるように以前から好きだったエレファントカシマシや、くるりでさえ追いかけることをやめてしまい、興味が完全に他のジャンルに移行してしまったのである。

そしてつい先日、もしやと思いCD棚を見渡して愕然とした。予感的中、2000年代に出てきた邦楽ロックバンドのCDが、ASIAN KUNG-FU GENERATION以外、ただの一枚も見当たらないではないか・・・いくら疎遠だったからといって14年間全くチェックしていなかったなんて、これはさすがにヤバいというか、時の流れのバカッ速さと無情さをガッツリと思い知らされた。

という訳で、なんとかこの状況を打開し、新たな血を体内へ注入すべく色々検索してみたその結果、何とまぁ、あるわあるわ、なんたって14年のブランク、当然の事態とはいえ、こんなに沢山のバンドをまともに聴けるわけがない。いや、それでも聴かねばならぬという奇妙な使命感を果たすべく、数多の情報の中から選んだのがフジファブリックという風変わりな名前のバンドだった。

この選択は長年のリスナー経験から培った勘ではなく、100%他人の意見である。元々、音楽に関しては他力本願主義で、自分の感性に頼るよりもその方が効率的かつ確実に良いものに辿り着けると思っている。そう、美味しいワインが飲みたければソムリエにお尋ねし、餅は餅屋で買い、蛇の道はヘビの後についてゆけばいいという事である。

そして、最初に聴くべきものとして選んだのが、彼らの4枚目に当たる『CHRONICLE』というアルバムだった。理由は、一般的に代表作と言われているものや、いわゆる初心者向けのキャッチーで聴きやすいものよりも、そのアーティストの本質というか、核心に迫ったものを一番に聴く事が理解を深める最短距離だと信じているからである。仮に、もしそれが受け入れられなかったとしても、そのアーティストとは縁がなかったと潔くあきらめもつく。何はともあれ、こういった判断ができるのは、熱意ある人達の信用に値する情報があってこそで、とてもありがたく思う。

さて、フジファブリックというバンドは色々と背負っているものがあるようなのだけど、ここではあくまでも純粋にサウンドについてじっくり検証したい・・・などと勿体つけずに結論から先に言ってしまうと、『CHRONICLE』は良いアルバムだと思う。いや、非常に良い。音楽を個人的な好き嫌いで批評するのは客観性に欠ける行為だと思っているけれど、正直これはかなり、なんだかヤバいくらいに好き!・・・と、むやみに興奮してしまうほどに、このアルバムには音楽的な魅力がギッシリと詰まっている。

『CHRONICLE』は、フジファブリックの中心人物、志村正彦のパーソナリティが濃厚に反映されているアルバムという事なのだが、まずは全体を通して、ガレージっぽい異様に歪んだギター音響を上手い具合に親しみやすいポップスへ変換しているところや、随所に見られるキーボードシンセの使い方などに、アレンジャーとしての個性的な面白さがうかがえる。特に「Sugar!!」はキーボードのとぼけた味わいと軽やかなドラムの音が異様に気持ちがいい、アルバム随一のポップ・チューンだと思う。他にも、なぜだか爽やかに響くダメ人間ソング「バウムクーヘン」や、ちょっとユニコーンを彷彿とさせるパワー・ポップ「Merry-Go-Round」も非常に良い。

それと相反するような轟音ガレージ・ロック・ナンバー「Monster」、「All Right」も僕には直球どストライク。こんなのTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYの解散によってとっくに死滅したと思っていたので、単純にうれしいというか、ちょっとホッとした気分にもなってしまう。

そして、何と言っても最大の魅力は、あの透き通るような、限りなく透明に近い儚さをまとった志村正彦の歌声だろう。淡々とした抑制からの爆発という反則技ギリギリの「エイプリル」、「Clock」、「タイムマシン」が成立するのも志村正彦が歌えばこそで、一切替えはきかないように思える。また、紡ぎ出される詩も極めてシンプルなもので、理屈っぽい妙な言い回しも無く、野暮な深読みも必要とせず、耳をすませば自然と心に響くところにとても共感が持てる。

こういった、一見、志村正彦なればこその能力に見えるものも、実際には日々の訓練の積み重ねや長い思考の末にようやく辿り着いた音や言葉によって構築されているのではないかと想像する。志村正彦に限らず、そうした創作することの苦しさやプレッシャーを背負っているアーティストを安易に天才などと賞賛するのは控えたいし、無責任に神格化してしまうことには強い抵抗感を覚える。そもそも、何をもって天才とするかなんて、普通の人間が容易に断定できるはずもなく、ある意味危険な領域なのではないかという気がしてならない。

あくまでも一人の人間として曲を作り、詩を詠み、歌い、演奏する志村正彦の魅力が最も感じられる1曲を選ぶとすれば、僕は「Anthem」を推したい。意表をつく無骨なベース・ラインで始まり、ドラム一発からの空気がグニャリとゆがむような壮大なサウンド・シンフォニー、そこへ所在なさげに入ってくる彼の切なく暖かな歌声。そして、それらが一体となって脳内に響き渡る刹那、閉じ込められていた感情がゆるやかに解放され、まるで無重力空間を漂っているかのような心地よさを体感することができる。

『CHRONICLE』は、ちょっと悲しげで情けない心情を吐露したものがほとんどなのにもかかわらず、あたかも夢と希望に満ち溢れているかのように響く、とてもミステリアスなアルバムだ。音楽でも映画でも漫画でもなんでも、僕は夢と希望に満ち溢れているものが好きだ。なんだか得体の知れないドス黒いモヤモヤに覆われた世の中で、そういうものがなけりゃやっていられない。

音楽に古いも新しいもメジャーもマイナーもなく、あるのはそういう音楽とそうじゃない音楽。今から10年も前にリリースされた『CHRONICLE』に耳を傾けていると、改めてそれが真理なんだという思いが募ってくる。フジファブリックを知らずに過ごした15年を経た今だからこそ、余計にそう思えてしまうのかも知れない。

(曲のタイトルは全てCD表示によります)

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