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今、この瞬間の音の楽しさ

坂本真綾 LIVE TOUR 2019「今日だけの音楽」

坂本真綾さんのコンサート
LIVE TOUR2019「今日だけの音楽」堺公演に行ってきた。

本ツアーのタイトルにもなっている、4年振りのオリジナルアルバム「今日だけの音楽」

夢の中に登場する、誰なのかも分からない、輪郭が曖昧な人々に、一人一人の音楽を尋ねていくという本アルバムのコンセプト。
今日のステージはまさにそれを体現していた。

今回のアルバムは、全ての曲がこのアルバムのためだけに書き下ろされた、明確な一枚完結型のコンセプトアルバムだ。
そのため、始まるまではセットリストの構成がとても気になった。

本作はフルアルバムとはいえ、1枚通して聴いても44分と、コンパクトな作りが特徴だ。
このアルバムだけでセトリを組むとなると少し曲数が足りない。
本作以外の曲をどうやってセトリに組み込むのだろうか…それが懸念だった。

そんな、私の懸念など軽く吹き飛ばす素晴らしい構成だった。

セットリストは、表題曲「今日だけの音楽」以外の本アルバム曲を全て前半にまとめ、次に本アルバム以外のシングル曲や懐かしい曲を、そして本編締めに表題曲という構成で組み立てられていた。

言うなれば本アルバムとそれ以外をキッパリと分けて二部制のような構成にすることで、それぞれの世界観を崩さずに、存分に音楽に浸ることが出来たのだ。

また、表題曲「今日だけの音楽」はアルバム内でも最後に位置しており、「夢の世界で出会った人々は全て自分の中にあるものだった」という気づきを与えて、ゆっくりと夢と現実を繋ぐような役割を担っている。
過去の楽曲達を含めて、公演全体をまとめあげ、ゆったりとした余韻を残す、本編ラストにふさわしい選曲だ。

ここまででも十分素晴らしいのだが、特筆したいのはアンコールだ。

アンコールの1曲目は、今ツアーの全日程で毎回違った曲を披露するという。
文字通り「今日だけの音楽」があることで、「今日だけのセットリスト」になるという、本作ならではの試みだ。

今日は、関西に住む真綾さんのお友達が来ているとのことで、25年前のデビューシングルのC/W「ともだち」をセレクト。

「音楽は、そのときにしかない音を閉じ込めて録音したものでも、聴くときによって受け取るものが違うという瞬間があることが楽しい」

MCで真綾さんが話していたその言葉の通り、歌詞は全く同じはずなのに、原曲と本公演の演奏では、背景に全く別のストーリーが思い浮かんだ。

10代の初々しい真綾さんが素直な声で歌う原曲は、転校してしまった「ともだち」を寂しく思いながらも、各々の未来を見つめるといった、そんなストーリーを思い浮かべながら聴いていた。

あの頃、学校というのは世界の全てだった。
SNSはおろか、ネット環境すらまともにない。
転校というのは今生の別れも同然だった。
原曲を聴いていたときは、明るい曲調ながら「決別」を強く感じる歌だと感じていた。

一方、25年越しの「ともだち」は、各々人生のステージが変わっていくことで、滅多に会わなくなった旧い「ともだち」の歌に思える。
たまにしか連絡を取らなくても、会えばすぐにあの頃に戻って笑い合えると、大人になったからこそ知っている。
今回の「ともだち」では、そんなゆとりと優しさを感じる歌声が響いていた。

2015年、さいたまスーパーアリーナで行われた20周年記念コンサートのときにも同じようなことがあった。
1stアルバム収録の「そのままでいいんだ」を菅野よう子さんのピアノで歌い上げた場面だ。

<そのままで いいんだ そんな優しい言葉を いわれたの>

この曲をリリースした当時の彼女は、この<優しい言葉>をお守り代わりにするような、10代の心もとない少女だ。
しかし2015年当時、この曲を歌う30代の彼女の声には、少女に<優しい言葉>をかける大人としての感情が込められていた。
まるで、タイムリープして当時の自分自身に語りかけているかのような優しい歌声に、思わず泣いてしまったことを思い出す。
(しかもこのときバックにデビュー当時の映像を流すというニクい演出付き)

音楽は可変的だ。

生演奏は勿論、音源ですら聴くときの感情、環境によって全く聴こえる音が異なる。
今この瞬間に感じる音は、そのときだけのものなのだ。
そのことを、本公演で改めて感じることが出来たように思う。

ひとりひとりの丁寧な仕事の結晶のような音楽に、心がじんわりと温かくなるような、そんな夜だった。

※<>内は歌詞からの引用

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