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2017年7月18日

奥田夏音 (25歳)
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今はまだ、窓の外から

sumikaのワンマンライヴを観た夜の話

そのバンドが売れているか否かを世間的に判断する時に、もっともわかりやすい指針となるのが、「チケットが即完するかどうか」である。
7月15日、Zepp Osaka Baysideで「今最もチケットが取れないバンド」を観た。まだ彼らはテレビでそう謳われたわけではないし、当分出そうにもない。しかし、今一番チケットが取れないのは、sumika、彼らじゃないだろうか。

18時、フロアの照明がふっ、と落ちる。微かなざわめきが大きな歓声となってメンバーを迎え入れた。そこから終演まで、あっという間だった。次で最後の曲です、という片岡(Vo./Gt.)の言葉を聞いた時、まだ半分くらいじゃないの?と思ったほどだった。その体感時間からも明らかなように、彼らのライヴは、なんだか無性に楽しかった。騒いで楽しいだとか、知っている曲ばかりだとか、そんなことではなくて、なぜか心の底から楽しかった。ふつふつと、その場に居られることに喜びが湧いてくるような、そんな静かで、確かな楽しさだった。手拍子の感覚(あるいは、間隔)、時々混ざる変拍子的なリズム、コールアンドレスポンス、シンガロング……初心者にはかなりハードルが高いはずだ。しかしそこにも、ついていけない恥ずかしさなどはなく、出来ないなら出来ないで「じゃあいいや」と笑ってしまえるような、自由さと、やっぱり「楽しさ」があった。それはそのまま幸福感にもつながり、会場を出る時、私はやけに上機嫌だった。

2ヶ月ほど前、友人に尋ねた。sumikaの魅力って何?と。「わたしはあのバンドを見て『幸せ』で泣く。」と彼女は言った。心を強く揺さぶるような音楽ではなく、感情を大きく昂らせる音楽ではなく、ただ心のすぐそばで、必要なだけのヴォリュームで鳴っている、あたたかい音楽なんだ、と。そんな彼女の言葉を反芻しながら、私はこの日、ステージを見つめ、その音楽を味わった。そして、彼女の言葉の意味が少しだけわかった気がした。なぜ彼らがこんなにも愛されるのかも。拳を突き上げたり、音の波に飲まれたりするようなライヴではなく、少し心が浮き立つような、たとえば四葉のクローバーを見つけたとか、帰り道で野良猫が撫でさせてくれたとか、そんな小さな幸せのような、日常にある一瞬の非日常が、sumikaの音楽であり、ライヴなのだろう。どちらかといえば「ライヴキッズ向け」ではないはずの彼らが各地のフェスに引っ張りだこなのは、彼らが求められているから、それだけだ。そのささやかな幸せのような音が、心の内側から火が灯るようなあたたかさを持った音が、求められているのだ。

sumikaとは「住処」である。誰にとってもの帰る場所。彼らはそうありたいと願い、ファンはそうだと言う。そんな関係性を美しいと思った。私はまだ、住処だとは言えない。この先だって、そんな風に言えるようになるかどうかはわからない。ただ、もっと、近づいてみたいと思った。
「いいね、しあわせだね」そう言おうとして、後ろの友人を振り返る。ほんの少し涙をにじませた彼女を見て言葉を飲み込んだ。何も見ていない顔をして、あの好きな曲やってくれたよ!と、にこにこしながら、いつものように自分勝手な言葉を吐いた。のぞきこんだ、窓の外から。

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