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BUMP OF CHICKENからのメリークリスマス

ひとりになった時、安心して聴けるクリスマスソング

「仕事が終わって家に帰ってひとりになった時、安心して聴けるクリスマスソングがやっとできた」
─メンバーのひとりが、こんな感想を零したクリスマスソングがある。

世界中には何百何千のクリスマスソングがある。
私の知る限りではその多くが主人公⇔恋人、家族、仲間を唄ったものが多く、尚且つ一般的な幸せや一般的な愛情に満ち溢れたものが多く、主人公に感情移入して聴ければ良い気持ちで聴けるのだろうなあというものが多いように感じる。
そして、その音色からだけでも、冬の透き通った空気感や降り積もる雪の光景、イルミネーションのきらめき、誰かと過ごすぬくもり、プレゼントを開けた時の高揚感などが感じられる多幸感に満ちたものが多い。

歌詞を抜きにしてもその音色自体は個人的にとても好きではあるし、BGMとして秀逸なものも多いと思う。
だが「共感できる」とか「この曲が自分のものになった」という感覚が滅多にない。
曲が悪いわけでも、優れていないわけでもなく、むしろ非常に優れた音楽が多いように思うのではあるが、自分の生きる世界にマッチしないのだ。
しかし、そんな中でたった一曲だけ「自分のものになった」感覚があったクリスマスソングがあった。

冒頭で紹介した
「ひとりになった時、安心して聴ける」
という感想が相応しいその曲、BUMP OF CHICKEN のMerry Christmasだ。
 
 

この曲はクリスマスソングの中でもかなり稀有な存在だと思う。
そりゃ、冒頭に聴こえるシャンシャンシャンシャン…と遥か遠くから響くような鈴の音や、アイリッシュ的な要素を持った間奏のメロディはクリスマスソング”らしさ”がたっぷりとある。
だが、歌詞の中身はと言えば、前述した「一般的な幸せや一般的な愛情」とは全く違うものだ。
─全く違う、というか人々の幸せなクリスマスを外側から見ている、と言うのが正しいだろうか。
とにかく主人公の立ち位置がおよそクリスマスソングらしからぬ場所にある。
もっとわかりやすく言えば、この唄の主人公は所謂クリスマスにおけるリア充ではない人物であり、主人公が見ているものがクリスマスにおけるリア充なのである。
一般的なクリスマスソングと逆転しているとも言えると思うし、だからこそ、クリスマスにおけるリア充でない立場の人には響くのだと思う。
 
 

具体例をあげればこうだ。

【主人公】
『嬉しそうな並木道を どこへ向かうの 』
 キラキラ輝く楽し気な並木を宛てもなく歩く主人公

『今夜こそ優しくなれないかな 全て受け止めて笑えないかな 』
今夜くらい優しくなりたい、受け入れたい、笑いたい主人公

『 いつもより ひとりが寂しいのは いつもより 幸せになりたいから 比べちゃうから』
周りが幸せそうだからいつもより幸せになりたいと願ってしまうし、いつもの孤独だって寂しい主人公etc…
 
 

【自分が見ている風景】
自分とすれ違う街の人々

『街はまるでおもちゃ箱 手品みたいに 騙すように隠すように キラキラ光る 』
自分とは対照的におもちゃ箱みたいに楽し気な街並み

『バスの向こう側で 祈りの歌声 』
讃美歌を唄う誰かの歌声

『大声で泣き出した 毛糸の帽子 空に浮かぶ星を取って 飾りたいと言う 』
空に光るお星さまを、きっとツリーなどに飾りたいニット帽をかぶった子ども

『待ちぼうけ 腕時計 赤いほっぺた 白い息で冷えた手を 暖めながら』
寒空の下でほっぺを染めながら腕時計を気にしている人etc…
 

このように、ひとりぼっちの主人公と、クリスマスの街並みに溶け込んでいる人々の対比が続く。
自分はいつも通りで変わらないのに、街並みは浮足立っているものだからついつい周りと比べて「幸せになりたい」なんて思ってしまう。
そんな主人公の心情はとてもいじらしくも思えるし、同時にとても共感できる。

例外的に、主人公が見ている光景の中にも
『 ずっと周り続ける 気象衛星 』
─何も変わらず、クリスマスも露知らず、遥か上空で街を見守る気象衛星の存在だったり
『肩ぶつけて 頭下げて 睨まれた人  嘘つきが抱きしめた 大切な人』
─クリスマスでもやたら不幸体質だったり、クリスマスでも嘘つきだったりする人物も登場する。
クリスマスの街並みには色々な思惑が蠢いている。
『誰だろうと飲み込んで キラキラ光る』
─そして、そんな主人公の感じた森羅万象をクリスマスは丸ごと飲み込んで、輝く。

誰しも多少は身に覚えがないだろうか。
例えば年末の仕事が多忙で夜遅くにやっと帰路についたころに目にした楽し気なイルミネーションとか、例えば恋人と別れた直後に見た楽し気なカップルを見た時とか、パパとママに両手を握ってもらって歩く小さな子どもとか…全く違う「あっち側」と「こっち側」を感じざるを得ないのに、容赦なくクリスマスの街並みに一緒くたに飲み込まれてしまった感覚を。
自分もやさしい光の中にいるのに、優しくなれない、受け止められない、笑えない感覚を。
みんなうらやましいな、優しくなりたいな、受け止めたいな、笑いたいな、と思う感覚を。

そんな、日の当たることのない「クリスマスあるある」を街並みの煌めきと共に描写したこの曲はやっぱり相当稀有である。
だって、わざわざクリスマスを素直に楽しめない人のクリスマスソングなんて普通は唄おうとしないと思うから。
 
 
 

終盤には向けて歌詞はこう展開していく。

『信号待ち 流れ星に驚く声 いつも通り見逃した どうしていつも
だけど今日はそれでも 嬉しかったよ 誰かが見たのなら 素敵な事だ
そんな風に思えたと 伝えたくなる  誰かにあなたに 伝えたくなる』

いつものように貧乏くじを引く主人公、みんなが気付く流れ星すら見逃してしまう主人公。
でも冒頭に登場したようなクリスマスの街に飲み込まれている周りの人々は、きっと顔がほころんだり、わぁっという歓声があがったりしたのではないだろうか。
そんな光景は歌詞の中で言語化されていないが、この曲の情景描写が秀逸なために人々の顔が目に浮かぶように広がる。
そして、人々の幸福感、高揚感の中にいた主人公もおそらくはそんな誰かの顔をみて、『誰かが見たのなら 素敵な事だ』とふっと心をあたためるのである。
それまでは、優しくなりたい、受け止めたい、笑いたい、と言っていた主人公が、流れ星を引き金に心情の変化を見せるのだ。

「流れ星によって、幸せな気持ちになれた」
それはこの曲の大きなキーポイントであり、この曲の救いでもある。
その上「流れ星は見られなかった」というちょっと自虐的なところも相俟って、それまで主人公に感情移入していた自分が置いてけぼりにされることなく、彼の感じた幸せ感を共有できてしまう。
まるでキャンドルの灯火のような、小さな幸せだけれども。
本当に何気ないところに幸せは転がっている、と感じさせてくれるのだ。クリスマスの街並みなんてものにおいては特に。
 

いつか藤原基央はこんなことを言っていた。
「イルミネーションが点いた時に、周りにいた人がみんなわぁって見上げる。みんな同じものを見て感動してるのがすごくいいなって」
この曲の流れ星もまさにそれと同じだ。
赤の他人がひとつの灯りを見て同じ感動を共有する、その一体感から得る感動を日頃から感じている彼だからこそ、書ける歌詞なのだろう。
そしてその感動は、多分だけれど、「わぁって見上げる」側の幸せの内側にいる人よりも「わぁってみんなが見上げていることに気付く」側の幸せの外側にいる人のほうが気付きやすいのではないだろうか。
それって、とても素敵なことだと思う。
 

ラストは
『同じラララ』
『イヤホンの向こう』
『そんなこともないかな』
『そうだといいね』
という、まるで主人公のひとりごとのようなメロディが鼻唄のように続いていく。
イヤホンの向こう側にいる人、この曲を聴いている人、クリスマスの幸せの外側にいるタイプのリスナーに向けて、彼らはイヤホンのあっち側からクリスマスソングを届けてくれている。
 
 

最新曲の「流れ星の正体」ではこんなフレーズがあった。

”太陽が忘れた路地裏に 心を殺した教室の窓に 逃げ込んだ毛布の内側に 全ての力で輝け 流れ星”
─流れ星の正体

彼らが歌を届けたいと思っている対象は、こういう人たちだ。
太陽が忘れた路地裏にいる人に、学校で心を殺したいつかのあなたに、毛布の中に逃げ込んで蹲って震えている人に、そんな人たちの心の内側まで届け、輝け!
ずっと音楽にそういう想いを込めている。
そして、Merry Christmasも漏れなく、そういうところまで届いたのではないだろうか。
少なくとも、かつて逃げ込んだ毛布の内側にいた私の心には、唯一届いたクリスマスソングだったのだから。
 
 

BUMP OF CHICKENからのメリークリスマスは、王道のクリスマスソングじゃない。
クリスマスの主役になれない人へのクリスマスソングだ。
ひとりになった時でも安心して聴けるクリスマスソングだ。

だからこそ王道を歩けない私たちに、誰かに、あなたに、届くんだ。
 
 
 
 
 

(※文中の『 』カッコ内は全てBUMP OF CHICKEN/Merry Christmasより引用)

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