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ザ・カーズと名乗るアメリカのロックバンド

リック・オケイセックの訃報を受けて

ついこの前、音楽雑誌の小さな記事でリック・オケイセックの訃報に接した。亡くなったのは9月で、ちょうど70歳(75歳説もあり)だったそうだ。近年、プリンスやデヴィッド・ボウイが死去した時は、「そうなんだ・・・・・・・」と、ほんの少しだけ言葉が出なくなった程度だったのに、お世辞にもレジェンドとは言い難いリック・オケイセックの死去にはなんとも言えない感慨を覚えて、おもむろに立ち上がりCDをプレイヤーにセットしてしまった。

この少なくないショックの原因は、おそらくリック・オケイセックにはプリンスやデヴィッド・ボウイのような危うさや儚さのようなものを感じておらず、普通にもっと長生きするものだと勝手に思い込んでいたからだろう。元々僕は、音楽は人一倍好きだけれどミュージシャン自体にはあまり興味がない方なので、これまでどんなミュージシャンの訃報に対してもほとんど動じたことがなかったのである。だから、今回のように訃報を知ってすぐにCDを聴くなんていう行為は初めてだったかもしれない。

リック・オケイセックは、アメリカのザ・カーズというロックバンドのリード・ヴォーカル&ギターを担当し、ほぼ全ての作詞作曲を手がけるマルチな才能に長けた人物である。しかしながら、現在の日本においては検索してもアニメのカーズしか出てこないくらいバンドの知名度は無に等しく、洋楽をチェックしている45歳くらいの人たちにはウィーザーのプロデューサーといった方が通りが良いかもしれない。けれども、僕にとっては生涯聴き続けることを約束された、超ビップ扱いなミュージシャンの一人なのである。

そんなリック・オケイセック率いるカーズとの出会いは、高校生の時に「ユー・マイト・シンク」という曲のミュージック・ビデオを観た事だった。直訳すると”自動車たち”というバンド名、ヴォーカリストの異様に細くて長い顔、オケイセックという変わった名前のインパクトもさることながら、その、どこかとぼけたような独特な歌唱法と、ポップでありながらもヒネりの効いたとびきりクールなサウンドに、それまでの人生にはなかった抗いがたい魅力を感じたのだった。

その瞬間、カーズは洋楽を聴き始めたばかりの自分にとって、デュラン・デュランに続く二つ目のフェイバリット・バンドとなった。そして、すぐさま過去のアルバムを貸レコード屋で全てチェックし、「ユー・マイト・シンク」が収録された最新アルバム『ハートビート・シティ』は、レンタルではなく新品で購入した。高校生にとって1枚2800円のレコードはおいそれと買えるものではなかったけれど、これだけはどうしても自分のものにしたかったのである。

そうやって30年以上も前に手に入れたアナログ・レコードは、今もすぐ手の届くところに置いてある。カーズ最大のヒット・アルバムであり、サウンド的にはいかにも80年代真っ只中という時代性を色濃く反映したものにもかかわらず、今聴いてもさほど古さを感じさせない。そこがカーズというバンドの類例のない音使いセンスなのだと思う。

カーズのオリジナル・アルバムは全部で7枚あり、全て一聴の価値がある。一般的に名盤とされているデビュー・アルバム『錯乱のドライヴ』とセカンドの『キャンディ・オーに捧ぐ』は、クイーンのプロデューサーとして有名なロイ・トーマス・ベイカーが関わっているため、曲調は軽快でありながらも、まんまクイーンなコーラスワークと重厚感のあるサウンドが味わえる文句なしの出来栄え。それ以外も、カーズ史上最も硬質でインダストリアル的な肌触りさえ漂わせる『パノラマ』、モダンで弾けるようなエレポップ・ワールドを展開する『シェイク・イット・アップ』、驚くほど見事にカーズ・サウンドを再構築してみせた24年ぶりのカムバック作『ムーヴ・ライク・ディス』など、やはり全てが捨て難い。しかし、ここで取り上げたいのは、世界的に大ヒットした『ハートビート・シティ』の次にひっそりとリリースされた、解散前の最終作『ドア・トゥ・ドア』である。

このアルバムは、意外にもリック・オケイセック初のプロデュース作で、それまでのアルバムとはサウンドの雰囲気が似て非なるパワーポップ的な分厚いものになっていて、クールで軽快なカーズ・サウンドに親しんできた僕は少し戸惑った。そして、バンド自体も『ドア・トゥ・ドア』リリース後、自然消滅のように解散してしまったため、このアルバムの存在はカーズの中で最も希薄なものになってしまっている。しかし、その後何度も聴き込むに従って、まさしく愛聴盤と呼ぶにふさわしい、特別な思いが募る1枚となったのである。

「リーヴ・オア・ステイ」、「ユー・アー・ザ・ガール」、「ファイン・ライン」、「エヴリシング・ユー・セイ」、「ストラップ・ミー・イン」など、従来のカーズ節とは一味違う魅力を味わえるナンバーが多数収録された、とてもクオリティの高いアルバムなだけに、その存在感の薄さが非常にしのびなく感じられる。そんな中で特別な感情なしには聴けないのが、アルバムの最後を締めくくる「ゴー・アウェイ」〜「ドア・トゥ・ドア」と連なる2曲である。

「ゴー・アウェイ」から滲み出てくる隠しきれない哀愁と孤独感、何かが吹っ切れたように激しく疾走する「ドア・トゥ・ドア」・・・リックは初めからこれが最後と決めて制作に臨んだような気がしてならない。そんなの、ただの後付けにしか過ぎないのかもしれないが、これほどまでにバンドの終焉をドラマチックに演出したようなサウンドを聴いていると、いまなお胸に迫るものがある。

こんな風にして、自分に都合のいい物語を当てはめて音楽を聴くのは、あまり好ましいことではないと思うのだけれども、音楽には理屈だけでは解釈できない感情的な部分が確かにある。だから、せめてこういう時ぐらいはそうやって耳を傾けるのもいいじゃないかと言い訳しつつ、静かにリック・オケイセックの冥福を祈りたい。

(曲のタイトルはCDに付随する解説書によります)

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