3575 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

ヒーロー不在の世界

フジファブリック 志村正彦にありったけの愛を込めて

私は現在業務中である。納期が年内中の仕事が山積みで、道草を食う余裕は一切ない。しかしどうしても私は、この本業とは一切関わりのない文章をトイレで書かなければならなくなった。今朝から発作的に涙が溢れ、脳が停止してしまうのだ。まったく仕事にならない。非常に困っている。

志村正彦。私にとってのヒーローがいなくなって、10回目の今日を迎えても、いまだにこの有り様である。少しも笑えない。

親しい人間から芸能人まで含め、悲しみを伴う死別を当然ながら何度か経験してきたが、そのどれもを平常心で思い返すことができる。しかし、どうしてか志村正彦だけは違う。街灯、夕日、花火、星空。彼の詞は情景の至る所に染み込んでいて、不意にあの優しい歌声が全身を巡る。その度にいつも平静を保てなくなっては、物陰に駆け込むことになる。私は非常に困っているんだよ、志村。

2009年12月24日、志村正彦は突然、本当に突然、幻のようにいなくなってしまった。パニック状態のまま外に出た私の目に、イルミネーションの光があまりにも軽薄に、道端のサンタがあまりにも無神経に映った。コンビニ前の少しだけ大きなクリスマスツリーを、思い切り引き倒してやりたい衝動に駆られた。それをぐっと力を入れて耐えた瞬間、ダムが決壊したように涙が止まらなくなったことを鮮明に覚えている。

思えば、私はあれほど突然に、大きな存在である誰かを失ったことがないように思う。私の経験してきた死別は、どれもが心の準備をする前段階があった。身近な人間だった場合は、遺体と対面して、死を再認識することもできた。志村正彦の場合は、そのどれもがあまりにも足りな過ぎて、私にとって存在が大き過ぎた。

私の目に映る彼は、まぎれもなく勇敢な人だった。というと彼は「俺はそんな柄じゃないよ」と返すかもしれないが。たしかに、志村正彦に強者の印象はまるでない。しかし、強者は勇敢である必要がない。勇気を振り絞らずとも戦えるからだ。志村正彦は、何度も折れたであろう心を信念で支え、その上で才能と努力をもって、自分の心象風景を歌い続けてきたように、私の目には映っていた。ギターを下げマイクの前に立つ彼は、まぎれもなく勇敢な私のヒーローだった。

ヒーロー不在の世界を、いまだに私は受け止められない。事ここに至って、前向きな言葉が見つからなかった。私は志村正彦が大好きだった。今でもそうだ。こんな馬鹿みたいな文章を書かなければ何もできないほどに。そんな彼はもう10年も前にいなくなったらしい。私の心の中に音楽は深く刻まれてはいるが、心の中で彼は生き続けている、なんて詭弁はとても言えない。かといって亡くなったことも受け入れられないまま、彼の存在をどこに見出せばいいか探し続けているようだ。

いったい誰に怒り、誰を恨み、何をどうすればいいのか。志村。志村よ。なんで死んじゃったんだよ。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい