3594 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

CRCK/LCKSにすくわれた話

「病室でハミング」に寄せて

どれだけ、私のこころの内側を広げて見せてしまえれば、と思っただろう。
引っくり返してさらけ出してしまえれば、いくら溢れても尽きないありがとうの気持ちが、ほんの少し、爪の先くらいなら伝わるかもしれないのに。

少なくとも私の場合、音楽と記憶と感情は、時に息苦しいほどに密接に結び付いている。ある曲を聴けば、抑圧された学生時代が丸ごと思い出されて、息苦しくて堪らなくなるし、また別の曲を聴けば、学祭ライブで当時付き合っていたひとと跳び跳ねて歌った無鉄砲な若さと興奮にむず痒くなる。そういうものだ。
初めてCRCK/LCKSの「病室でハミング」を聴いた時、あらゆる時間も感覚も正常を失って、私は薄暗い灰色の病室にいた。もう10年以上経つのに、毎日針を刺すものだからあちこち固く変色してしまった腕だとか、カーテンの隙間から絶え間なく聞こえる誰かの呻きだとか、感じることをやめてしまったこころだとか、全部がそのまま、そこにあった。
毎日毎日、繰り返されるいつ終わるともしれない治療と手術に、私はすり減っていた。たすけて欲しいと、思っていた。同時に、そんなの無理だとも思っていた。
それなのに、私の時間も諦めも悲観も易々と飛び越えて、「病室でハミング」は私を救ってくれた。タール状の真っ黒い絶望から掬い上げてくれた。
歌詞が、歌声が、音が、全てが過去と今の境界を溶かして、ずっとずっとすくわれたかった私をすくってくれた。恥ずかしくって情けなくって堪らない、10年以上、同じところで足踏みしたまんま、たすけて欲しいって言葉にすら出来ていなかったのに。
気付けば、目を見開いたまんま、まともに呼吸することも忘れて、泣いていた。そうして、そんな自分を認識した瞬間、声を上げて泣いた。ようやく終わった、もう大丈夫だ、進んでいい、ちゃんと幸せでいられるんだ。
単純に、歌詞にだけ注目すれば、決して明るくて前向きな、所謂応援歌というわけじゃない。それなのに、何故だか私はこの曲じゃないといけなかった。この曲でなきゃすくわれなかった。

今、私は毎日ごくごく普通に仕事をして、家事をして、子育てをしている。当時に比べれば、すっかり健康になった。いつまでも、過ぎたことに気持ちを奪われるつもりはないし、悲劇のヒロインを気取るつもりもない。
けれど、気に入りのウォークマンから、不意に「病室でハミング」が流れると、時にはあの頃の自分に寄り添いたくなる。寄り添って、ちゃんとすくわれるから、大丈夫だよ、って伝えたくなるのだ。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい