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中村佳穂「うたのげんざいち 2019」新木場

Trustの先にあるもの

 「うたのげんざいち 2019」新木場STUDIO COASTは、個人的に待ちに待ったライブであった。
 中村佳穂との出会いは、今年2月に行われたGRAPEVINEのSOMETHING SPECIALの対バン発表だった。その発表を見た直後から、ありとあらゆる場面で、中村佳穂の名前を目にした。
 当然のことではあるが、GRAPEVINEとの対バンを見た後の反応は凄まじくて、見に行くことのできなかった自分が、とてももどかしかった。
 その後、7月に行われたLIQUIDROOMでのライブ配信が、中村佳穂のライブを初めて体感する機会となった。2時間半にも達する圧巻のステージを、配信という形であれ見ることができたのはとても幸福で、中村佳穂と中村佳穂BANDが作る世界が凝縮されていた。音楽を身体中から放つ中村佳穂という人と、彼女のすべてを音で活かしていく中村佳穂BANDを、この目でこの身体で、そして自らの耳で空間に鳴り響く音を感じることができるなら、その想いが一層強くなった日でもあった。
 「うたのげんざいち 2019」に行くことを決定的にしたのは、意外にもAINOUを車で聴いたことだった。You may theyからGUMへと流れていく、まさしく“あの感じ”が、車にいるはずの場所をライブハウスに変えたのではという錯覚すら生じさせた。

 いよいよ当日、待ちに待った“あの感じ”を体感できる時間がやってきた。
 中村はステージに登場してほどなくすると、アドリブで今日のライブのことをぽつぽつと歌い始める。彼女が出す空気に、すべてが一瞬にして包まれていくように、会場中が息を呑んでステージを見つめる。
 そして、その空気を弾けさせるように、GUMが始まる。一気に沸き立つ場内を、鮮やかな照明が彩って開演の喜びを表現していく。
 アイアム主人公では、センターで跳び跳ねるように歌う中村が、辺りに陽気さを散りばめていく。
 その陽気さを、1つの音だけでそれを変えてしまうのも中村佳穂であり、中村佳穂BANDである。特にget backは、北川の鳴らす音、そしてコーラスが始まったその時から、青の照明に沈んでいく中で中村が張り詰めた声で歌うそのすべてに心が大きく動かされる。“名前を呼んで”その切実な詞が、どこまでも胸に沁みわたった。

 qから少しずつ、ゆったりと温かい時間が漂う。You may theyが始まると、また会場が熱を帯び出す。
 センターに、太鼓と機材が準備され、中村がセンターで太鼓を叩き始めると、それまで和んでいたステージでの会話を吹き飛ばしてしまうように、静けさがあたりに拡がる。太鼓1つで中村が歌い、その僅かな音だけで大いなる流れが生まれる。西田がLINDYのイントロをギターで鳴らした瞬間、スライドするようにこの日のゲスト石若が登場する。
 登場から圧倒するようにあらゆる打楽器を演奏する石若の音は、徐々に深谷のドラムと融合していく。たまに掛け合いながら、それぞれの強みを音で会話するように引き出す。そして、中村・深谷・中村の3人の太鼓の音だけで音楽が成り立ち、呼応するかのように膨らんでいく。
 LINDYが終わってふっと息をするように、中村が「駿くんと2人でやりたいな。」と呟いたかと思うと、中村佳穂BANDのメンバーが、煙のように消えていき、ステージに2人だけになったことを忘れさせるかのように、中村の奏でる音が響き出す。探るかのように、石若が丁寧に中村の音に寄り添っていく。
 メンバーがステージに戻り、また全員で、石若と制作したLIFE FOR KISSを演奏する。鍵盤は石若が担当し、中村がセンターで歌い、まさにここでしか見ることの出来ない一期一会の瞬間でもあった。
 
 本編最後のきっとね!が始まると、会場内は中村と中村佳穂BANDが生み出す風のような音にそっと撫でられ、喜びを表現せずにはいられない感情が、天井までをも埋め尽くしていく。
 アンコールとなったそのいのちは、このライブを、そして今年の中村佳穂を締めくくる曲として相応しかった。中村が“いけいけいきとしGO GO 疲れを知らぬ渡り鳥”と歌ったその時、中村自身を、中村佳穂BANDを、そしてここにいる観客全員の背中を押しているかのようだと思った。中村の歌声が、「どこまでも行けるよ。」と告げていた。
 そのいのちが、うたのげんざいちが終わろうというその時に、場内が星を散りばめたような照明で瞬きだし、ここではない何処かへ誘った。何もかも忘れることのない永遠が確かにそこに存在していた。

 このライブのMCの中で、中村がTrustという言葉について語っていたのだが、そのTrustという言葉自体が持つ力を感じ、とても印象に残った。AINOUが出てからこの日のCOASTに辿り着くまでの間、何よりも誰よりも音楽を信じていたのは中村佳穂その人であったのだと感じた。誰よりも音楽に愛し、音楽に愛されている中村佳穂が発する「Love you!」は、これからもたくさんの人に届いていくし、届き続ける。
 “生きているだけで君が好きさ”そう歌う強さを持つ、中村佳穂だからこそ。

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