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「味方だから ずっと」

何者にもなれなかった私の味方になってくれた、ANTENAとライフソング

十代の頃。
いつかは「何者か」になれると漠然と信じていた。

けれど何をしても、人よりも実るのが遅い自分。周りの空気だけが慌しく動いていて、私だけがずっと同じ場所で足をとられているような。このままここに根が生えてしまうのではとゾッとする、そんな日々。
焦りを通り越すとだんだん鳩尾の部分が重くなって、倍以上の空気を吸わないと息が出来なくなるような錯覚に陥って、過呼吸寸前になることもよくあった。
そんな時はいつだって大好きな音楽が癒してくれた。

頑張れ、負けないで、夢はいつか叶うよ。

そう語りかける声を聴きながら、人よりも実るのが遅いのなら、もっと努力すればいいんだ。そう思ってなんでもないような穏やかな顔をして、夢に届くために日々を過ごしていた。

「努力は必ず報われる」
この言葉は成功者がよく口にする言葉で、確かにその通りなのだと思う。
地べたを這いつくばるほどの努力を重ねなければ、何の夢にも目標にも届かない。
けれど、既に二十代後半に差し掛かろうとしていた私は、思い知っていた。
努力を重ねた上で立てるのは、夢や目標の上ではなく、そこへ辿り着くためのスタートラインだということを。
俊足という才能も、シューズという武器も持ち合わせていなかった私は、あの頃漠然と思い描いていた「何者か」にはなれないのだと。
それが分かった時、心の中に小さな穴が開いた気がした。

何者でもなくても、日々生きてゆける。思ったほど絶望はしなかったし、それなりに楽しい毎日。
十代の頃と同じく、穏やかな表情を浮かべ、何でもないような素振りで。
けれど心のどこかはずっと乾いていて、撒いたはずの種は芽も出さない。
何かを見ているようで、ただ光を通すだけの眼。重たい鳩尾の奥。
それでも、ゆっくりと穴は塞がっていく。だから、だんだん痛みも感じなくなっていく。
その頃私は、あれだけ自分を癒してくれていたはずの音楽と、少し距離を置くようになっていた。
上辺だけを飾り、決してこちら側に立つことのない言葉たちにうんざりしていたのかも知れない。

時は過ぎて、三十代も半ばに差し掛かる頃。
私はあの頃以上に音楽を欲し、それまで聴くことの無かったような色んな曲を聴くようになっていた。

その日もラジオを聴きながら、毎年恒例の行事になっていたARABAKI ROCK FESTに出演するバンドの情報を集めていた。
「ラララ 僕は もう戻ることの できない道を歩いてる」
不意に流れてきた曲にドキッとした。ANTENA(当時はアンテナ表記)の『夕暮れ鉄塔』だった。
その声と音に文字通り釘付けになって、全ての動作は止まったまま、耳だけがじっとメロディーと歌詞を追いかけていく。
「黙っている方が楽だけど それでは何にも変われない」
「本当は いつだって不安で たまには泣いてみたくなる」

ああそっか。
私、ずっと不安だったんだ。
何者でもない自分が、何の肩書もなくどこにも属せていない自分が。
もう夢は口にせず、誰からも嫌われないように穏やかに生きてたつもりだけど、本当は痛くて泣きたかったんだ。
それに気がついた時、心のどこかにあった種がやっと芽を出した気がした。

それからは時間をゆっくり逆再生するように、ANTENAの曲たちを聴き込んでいった。
上辺だけの綺麗な言葉や頑張れを並べるんじゃなく、やさぐれた部分やカッコ悪い部分も隠さずに書かれた歌詞や、心を優しく撫でるような曲たち。
その中でも『天国なんて全部嘘さ』の中の
「生きてみよう とりあえずは 味方だからずっと」
という歌詞に、大事だった人を思い出して自分でも引くほど号泣してしまった。

味方だから、ってなかなか言えない言葉だと思う。結構な覚悟が必要だよなぁ、と。
不安でいる人にとっては、光や水や空気のような言葉だから。それだけに、言葉の重さを考えると、自分が受け止め切れるのかと躊躇してしまう。
でもこの曲を聴いて、私も味方だからって伝えられていたら、あの人が自分から世界とサヨナラする事なく、いい感じに歳を重ねられていたんだろうか、などと考えてしまった。
「バカみたいだねって笑って それでいいじゃない」
って歌詞のように笑い合えたかもしれない。
滲む視界に後悔しても、もう届かない。

私に足りなかったのは勇気と覚悟だったんだろう。自分の夢も、大事な人も、もう無くしたくない。
ANTENAのおかげでその事にも改めて気付けた。

彼らは自らの音楽達をライフソングと位置づけている。
泣きじゃくる人には、その泣き顔を見ないように、笑顔で優しく背中をトントンしてくれるし、何かに向かって走り出す人には笑顔で行ってらっしゃい、と手を振ってくれるような。そんな、いつでもここにいるよ、と優しく側にいてくれる楽曲達。
投げやりでも他人事でもなく、ちゃんと「味方だから」と言ってくれる。

そんなANTENAに、今度は私が伝える番だ。

私はきっともう、ずっとなりたかった「何者か」になれている。
それを伝えずに後悔するのは、もう嫌だから。
そんなのもう知ってるよ、と笑われてしまうかな。
でも聞いてほしい。

この先は私も、「ANTENAの味方」だから、ずっと。

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