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ヌーの大群の裏側で、ペンギンが牙を向く

COUNTDOWN JAPAN 19/20 PENGUIN RESEARCHのステージにて

 
今年もCDJで、PENGUIN RESEARCHを拝んできた。
今年も、PENGUIN RESEARCHの為にCDJへお金を払い足を運んだと言っても過言ではない。
元々私は狭く深くの人間で、フェスよりもワンマンの現場を増やしたいタイプだった。
それでも、ひとつでも多く、PENGUIN RESEARCHのライブを拝みたいと切に思い、最後のアーティスト発表で彼らの名前が発表されてすぐさまチケットを取った。
取ってよかった。心の底からそう思う。
リハも含め、彼らがステージに立っていたおよそ1時間弱のためだけに、12,000円を払った価値は存分にあった。あまりあるお釣りがくるほどだ。

PENGUIN RESEARCHは、King Gnuのちょうど真裏のタイムテーブルだった。
あのKing Gnuだ。紅白でも歌った、あのKing Gnuの裏だった。
それでも私は、迷わずPENGUIN RESEARCHに行くと決めていた(というかその為にチケットを取ったので当たり前である)。
King Gnuさんは、狭く深く(悪く言えば井の中の蛙)の私でさえ名前を聞いたことのあるバンドだったので、タイテが発表された際、正直少し落胆してしまったところもある。
これでは、新規の客は多くは望めないな、と思ったからだ。
そしてきっとそれは正しかったのだろう。
私は最前近くにいたので当日の客席の全容を確認できてはいないが、集客はイマイチだったのかもしれない。
でもそれでもしょうがないと思っていた。
けれどきっと、彼らは違ったのだろう。
失礼な感想だったと今思い返して恥いるばかりだ。

リハーサルの時点で、もう既に衝動が迸っていた。
特に、コンポーザーでありバンドの屋台骨ともいえる、ベース・堀江晶太の荒ぶりようは異様だった。
まさに“異様”としか表現できないレベルである。
リハーサル最後、バケモノダイバーを演奏していた。スタッフさんに時間が来たら止めてくれ、という旨をお願いしていたようだった。
けれどいざ演奏が始まると、何かが憑依でもしたかのように、正気を失ったようにベースを掻き鳴らして荒れ狂う堀江氏が、そこに、いた。
リハーサルから眺めていた我々オーディエンスも、思わず息を詰める程に、苛烈で、切羽詰まったベースプレイを疾走させる。
我々は固唾を飲んで魅入ってしまう他なかった。
しばらくしてタイムオーバーでスタッフが止めに入るも、その制止を振り切って、まるで癇癪を起こしたようにベースをステージに投げつけて走り去ってしまった。
そんな一部始終を、息を詰めて見届けた我々は、一拍置いて、熱狂に沸いた。
凄かった。その一言に尽きる。
普段の彼は決してそんなことはない。
私の知る彼はいつも礼儀正しく、丁寧な所作でスタッフに対応していた。
しかしこの日は違っていた。
きっとリハーサルということさえ忘れていて、激昂したのではないだろうかと思えるほどに、衝動的なワンシーンだった。
本当に、ただただ“すごいものを見た”という熱量の歓声で、客席はスタート前から俄かに湧き上がった。

そんな熱狂の中、間を開けずすぐに幕は上がった。
先程舞台裏へ引っ込んだメンバーが、すぐにステージへ戻ってくる。
序盤の決闘から、否が応にもフロアは最高点まで引きずり上げられる。
訳もわからないほどの熱狂に呑まれて、叫んで、跳んで、腕を上げた。

曲間で、徐にボーカル・生田鷹司が口を開く。
「去年、このカウントダウンでさ、俺たちと同じキャパのステージに立ってたバンドが、いま、まさに、いちばんでかいステージに立ってんだ」
あぁ、King Gnuのことだな、とすぐに察した。けれどそれにどう反応していいかわからず、間の悪い、変な合いの手を入れてしまった。
客席の、そんな微妙な反応を受けて、
「すごいよな、ほんとすげえよ。でも正直悔しくて悔しくてたまらねえよ!!!」
と、ボーカルは吠えた。
正直なところを言うと、私は少し意外に思えて、びっくりしてしまった。
PENGUIN RESEARCHは、元々弱者の目線からの歌が多く、負けても負けても這い上がってやるぜ、と言うスタンスが多かったので、人と比べるようなことはあまりないのかと、強者に牙剥くなんてことはしないのかと、随分勝手に思っていたのだ。
でも、全然そんなことはなかった。
よく考えれば当たり前だろう。負けたくない、と上を向くならば、その先にはきっと負けたくない相手や、いつか超えたい理想の自分自身がいるのだから。
「でも、だからこそ、今日こっちに来てくれたあなたたちに、『今日こっちを選んで良かった』と思わせてやる!!!」
そう叫ぶ彼は、いつもの、私達ファンを大切に、自分たちの音楽を大切にしてくれる彼で、ああ、やっぱり自分の愛したバンドだ、と妙にストンと腑に落ちた。

そしてそんなボーカルに呼応するように、ベース・堀江も弥増して狂っていた。
本当に、言葉を選ばずに言えば、“狂気”の一言がふさわしい激情を迸らせていた。
けれど正気を失って見せながらも、時折無邪気で少年のような、いつものステージでよく見せる笑顔を溢すものだから、こちらの情緒も振り回される。
人間の全ての感情を凝縮して固めたものを、目まぐるしくその顔色を変えながら発露させ、物質的な質量で圧倒してくるような、そんな感覚さえあった。
ライブステージを見ながら「人間の感情って、目に見えるのか」と言う感想を抱いたのは、人生初である。
それほどまでに、生々しく、剥き出しの、生きた“魂”をべったりと押しつけられたようなステージだった。

最後の一曲、boyhoodがその極致だった。
普段はめったに曲間で発言することなどない堀江が、急に慌ただしくスタンドマイクを引き寄せ、絶叫したのだ。
まさに『絶叫』の一言に尽きる咆哮だった。
私含む、最前付近にいたオーディエンスには、何もかも音割れして言葉として受け取ることはできなかったが、ただただ堪えきれない衝動の暴発のように発された、ビリビリと突き刺すような刺激を、肌で受け止めた。
その刺激で、アドレナリンはドバドバと放出され、ほとんど気が狂ったように彼の絶叫に応える。
そしてそのまま、曲はクライマックスを迎え、ボルテージは最高潮の中、彼はまたベースを叩きつけてステージを走り去っていった。
観客はその姿に尚一層狂喜に舞い上がった。

熱狂の過ぎ去った後、残された私は、その場に崩れ落ちそうになるのをどうにか堪えてふらふらと会場の外へ歩いた。きっと熱に浮かされた熱病患者のようだっただろうと思う。
筆舌に尽くしがたい、衝動と情動を掻き乱されるようなステージに、文字通り骨抜きにされてしまったようだった。
フェスの大舞台だと言うのに、キャパ100人程度の小さなライブハウスにいたかのような錯覚さえ覚える、密度の高い熱量だった。

今、この瞬間、彼らを好きでいられたことを、”神様ありがとう”などと、無意識に天に祈ったのも初めてだった。
他の人はいざ知らず、少なくとも私は、間違いなく「PENGUIN RESEARCHを選んでよかった」と断言できよう。そんなステージだった。
2019年の締めくくりに、彼らを浴びることができて本当に良かった。
もちろん、King Gnuが2019年を代表するバンドだと言うことに、異論を唱えるつもりはサラサラない。彼らは彼らで、多くのオーディエンスを魅了する偉大なバンドであるのだろう。
ただその裏で、可愛い名前をした「ペンギン」達が、その印象とは裏腹に、存分にその鋭い牙を剥いていたという事実だけでも、知ってもらえたら嬉しいと思う。

2020年も彼らから、一時たりとも目が離せない。
 

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