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岩代太郎とスピッツが出会えた奇跡

旋律から感じとれる「誰もが空を飛ぶ」可能性

ドラマ「白線流し」が本当に好きだった。今でも折に触れて観かえしている。ドラマの主題は夢を見つけることの困難さであり、星空を眺めることの魅力であり、そして何より友愛の尊さである。ヒロインの七倉園子は、本編(連続ドラマ)の最終盤で、人の夢を応援したい、誰かの旅立ちを言祝げる人間になりたいと願うようになる。それをもって物語が完結していたとしても、このドラマは(それこそ)星のように輝くものだっただろう。

しかし本編が終わったあと、数年ごとに発表されたスペシャル(続編)は、蛇足であるどころか、さらに深いメッセージを僕たちに届けた。ヒロインは、近しい人に夢を託していた自分が、ある意味では未熟だったことを悟り、自分自身の道を歩いていこう、自分自身の夢を叶えようと思い直す。友人の成功を願うことは、人として極めて重要なことだと僕も思う。それでも、その友人もまた、こちらの成功を願ってくれているわけでもあり、だからこそ僕も「自分の道」を歩ければと願っている。

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このドラマが、そういった深みにまで達することを、作中に流れる曲を書いた岩代氏は予期できていたのだろうか。本編の脚本を渡された時点で、そこまでの展開を読むことができていたのだろうか。覚束ない足どりで歩きはじめるヒロインが、いつの日か「真なる友愛のあり方」を見出すことを知っていたのだろうか。それは分からないけど、サウンド・トラックの冒頭に収められた曲には、実に「MY OWN LIFE」という題がつけられている。私自身の人生。このドラマが「ヒロインの成長」を描くだけのものではないこと、仲間たち各々の歩みを描くものでもあること、それどころか視聴者ひとりひとりの前途を照らすものでさえあることを、その題と旋律は僕たちに教えようとしているのだと思う。

広く知られているのは、恐らくは主題歌を作ったスピッツのほうであり、彼らの奏でた「空も飛べるはず」も、もちろん非の打ちどころのない名曲だ。<<君と出会った奇跡>>という詞は、ヒロインたちが(文字通り)奇跡的に結びついていくストーリーを彩る。長い時を伴に歩むことになる仲間と出会うことは、誰もが経験しうる奇跡であり、それが起こるのが人の世なのだとしたら、僕たちはある意味で、空を飛ぶことさえできるのかもしれない。脚本家の信本敬子氏と岩代氏とスピッツは、あまりにも強く結びついている。まさに奇跡が起こったのだ、彼ら彼女らは空を飛んだのだ。

スピッツもまた、ドラマの放つメッセージが深まっていくことを、まるで予期するかのような曲を書いた。挿入歌の「Y」には<<ボロボロの約束胸に抱いて>>という詞が含まれるのだ。ヒロインたちは白線に書き込んだ各々の誓いを、守り通すことはできずに年を重ねていく(その様子がスペシャルで描かれる)。たとえばヒロインは「勇気のない自分」を川に流すことを決めて高校から巣立つのだけど、彼女は怯えながら、惑いながら、それゆえに人を傷つけたりもしながら、それからの数年を生きることになるのだ。それでも「約束」を捨てはしない。それがボロボロになっても胸に抱きつづけようとする姿勢は、ドラマが完結するまで貫かれることになる。

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僕はスピッツのファンであり、そして(くり返すように)ドラマ「白線流し」のファンでもあり、それゆえにサウンド・トラックを買い、岩代氏の名前を知ることになった。そのことが僕に、ある出会いをもたらしてくれたという事実もある。僕は「MY OWN LIFE」を愛聴しているという共通項から、ひとりの女性と親しくなれた。それは奇跡であったのかもしれないし、運命のようなものだったのかもしれない。どちらにせよ、僕は(比喩的な意味ではあるけれど)空を飛べた。翼をもたず、鳥のように無垢な目は持たない人間でも、誰かと出会うことで羽ばたけるのだ。もちろん空は、いつも青いわけではなく、時として雨雲に覆われ、稲光に引き裂かれる。そういった自然現象に抗うことは困難で、多くの場合、恋路はボロボロなものになる。それもまた「私自身の人生」として受け入れなければ、僕は岩代氏のファンである資格を持てないだろう。

「MY OWN LIFE」はインストゥルメンタルであり、そこから「言葉」を引用できないことが、もどかしい。そのメロディーの穏やかさと哀しさを、うまく表現できない自分の非才が憎くさえある。それは水の流れを感じさせるようなものであり、雪どけの近さを思わせるようなものでもあり、人間が早足では歩きつづけられないことを悟らせるようなものでもある。それはスピッツの楽曲群にこめられたメッセージと、たしかに繋がっているように思える。岩代氏とスピッツが出会えた奇跡は、視聴者の胸にあふれているのだ。

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七倉園子は、あれから(ドラマが完結してから)どのような道を歩み、どのような女性に育ったのだろうか。はたして幸せに生きているのだろうか。それを知りたくもあるし、知らされないからこそ想像の自由が与えられているとも思う。もし彼女の「約束」が、もう原型をとどめないほどにボロボロになっていたとしても、それを捨てはしないでほしいと思う。僕だって勇気など持っていない。勇気のない自分を流しきることは、誰にも果たせないだろう。それでも岩代氏のメロディーは、スピッツの主張に呼応するように、僕たちを励ましてくれる。あなただって空を飛べるはずだと。その声を信じて、地面を蹴ってみようとするなら、もたない翼を広げてみようとするなら、僕たちは「勇気のようなもの」を獲得することはできるかもしれない。

視聴者とヒロインは、もちろん「実際に」出会ったわけではないけど、こうして長い時を伴に歩きつづけている。星と星を結ぶように、人と人を繋ぎ合わせてくれた岩代氏に、そしてスピッツに感謝を届けたい。僕たちの結びつきが作り出す星座は、もしかすると歪なものかもしれない。それでも夜空を見上げてみる。それは「私自身の星座」なのだから。

※《》内はスピッツ「空も飛べるはず」「Y」の歌詞より引用

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