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私のキャンバスに描いた最後の景色

UNISON SQUARE GARDEN「UNOストーリー」に背中を押された話

2019年10月12日
関東地方に大型の台風が直撃した。
前置きとして先に伝えたいのは、私は台風に関わるこの話を美談にするつもりはないということだ。今後このような大規模災害があった場合、これから書く話と同じように、自分の生活よりもライブを優先するとは思えない。
しかし、過去の事実として、今の自分を作る要素の1つとして、自分で考え、奇跡に向かって歩んで行った私の話を、ツアーが終わった今だからこそ形に残したい。
2019年は台風の被害が多い1年だった。
被災された方へ、心よりお見舞いと1日も早い復興をお祈り申し上げます。
 
 
 

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台風19号については、1週間前から前代未聞の超大型台風であるが故に、ニュースでも大きく取り上げられていた。交通機関も計画運休、多くの人が仕事も事前に休みになったり、店も前日から休業が発表されていたり、私が知る限りではここまでの対策がされた台風は初めてであった。

みんな、自分の命を守ることに徹しなければいけない状況だ。しかし、私の頭の中ではどうしても、命を守ること以上に諦めきれない用事があった。
 

UNISON SQUARE GARDENのライブだ。
 

ちょうど彼らは、7月にリリースされた「Bee side Sea side」というカップリング曲を集めたアルバムを引っ提げたファンクラブ限定のツアーをしている時期だった。
私にとっての、“このツアーの最後”を10月13日の大阪で迎えることになっていた。

だがしかし、そんなことを考えている場合ではない。
台風の対策をすべきだ。
それが正論であることは私もわかっていた。
実際、台風が来る12日が近づくに連れて、大阪に行っている場合ではないのでは…という思いが強くなっていたのだから。
 

10月12日、東京
台風で仕事が休みになった私は、いつもより遅めの起床。窓を開けて台風の恐ろしさを知った。
自宅の近くの川の水位が未だ見たことがないところまで上がっていたのだ。
台風がまだ接近していない、影響もそこまで出ていない午前中の時点で高かった川の水位は、夜には溢れてしまう。そんなことは安易に予想がついた。川に近い私の家は、川が溢れたらどうなってしまうのか……
 

私は家に一人でいた。
どうしたらいいのか、初めての経験で分からない。膝を抱え、ただひたすらうずくまっていた。
そして、一人が独りになる。
 

この間も雨は降り続ける。
動かぬ部屋で秒針の音だけが響き渡る。
 

ハザードマップを見て、ここにいては危険だということを知った。
困った果てに私が出した決断は、同じ都内でも離れたところに住む家族の家に避難するということだった。
その時にはもう、電車の計画運休まであと2時間しかなかった。
 

降りしきる雨に濡れながら駅へ急ぐ。当然ながら、歩いている人もいない。少し前までは半袖で出歩いていたのに寒かった。
やっとの思いで家族の家に辿りついた私はもう、独りではない。
不安に押し潰されていた私にようやく、穏やかな団欒の時間が流れ始めるのであった。
しかし夜には、2つの絶望を味わう。
 

避難させてもらっている身であるので、ライブは諦めるという決断をしたこと。
自宅の近くの川は予想通り溢れたということ。
 

自分の気持ちでどうにかできないことだってあるのだと、自然の恐ろしさと人間の小ささを思い知り、悔しさでいっぱいになった。

そんな私の気持ちをよそに、台風が本気を出して関東を襲う。
スマートフォンの警報が鳴り止まないし、テレビでは各地の被害状況がしきりに報じられる。
鉄道も止まり、店も閉めている。静かなはずの街が暴風雨により騒がしい。
テレビに映る台風の現在地を見ながら、
“あと2時間……あと1時間…あと少しで台風は過ぎ去る…”
と、ただひたすら耐える時間が続いた。

“そういえば本来なら今夜、大阪に出発する予定だったんだよな。……でも今は関係の無いことだ。”

そうこうしているうちに私は眠りについていた。
朝から、何なら1週間前から台風に神経を働かせ続けていたので、だいぶ疲れていたのだ。
 
 

10月13日、東京
朝早く目が覚める。台風は過ぎ去っていた。
昨日までの暗い世界を忘れさせる勢いで、太陽の光が部屋を照らす。平和だ、なんて平和なのだ。
晴れた朝なんて、今まで何度も経験してきたはずなのに、この日の朝は、なぜだか特別なものを見ているような気持ちになった。木々の葉についた雫がキラキラと輝いている。

そんな中、ライブは諦めたはずなのに、無意識に新幹線の運行情報を見ている自分がいた。そして、目を疑う。

新幹線は動いている。

私の絶望感にも太陽の光が差し込んできた。大阪に行けるのだ。
 

とはいえ、避難させてもらっている身であること、自宅までの電車が午後まで動かないこと、何より川が溢れた後の自宅はどうなっているのか心配であることなど、大阪行きを躊躇う理由がいくつもあった。しかし最後は家族に背中を押された。

“行ってきな”

たった一言だったが、私には大きな大きな勇気をもらった言葉だった。

そこから無我夢中に大阪へ急ぐ。
自宅に戻ることが出来なかった私は、レインブーツを履いているし、グッズも何も無い。とてもじゃないが、ライブに行く人には見えない身なりだった。
 

10月13日、大阪
なんばHatchに着くと、すぐに友人の姿が目に入った。“よく来たね”“大変だったね、大丈夫だった?”などと声をかけてくれたり、あまりの嬉しさに思わず抱き合ってしまう人がいたり、中にはグッズを持たずに来た私にリストバンドやサコッシュを貸してくれる人もいた。
全て、UNISON SQUARE GARDENを通じて出会えた縁だ。
大阪の空には、昨日の私には想像できなかった、どこまでも澄み渡る綺麗な青空が広がっていた。
 

台風を乗り越えた後のライブがもうすぐ始まる。
 

会場が暗転し、イズミカワソラの「絵の具」が流れ、鈴木、田淵、斎藤の順にステージに現れる。
私が、“今、大阪にいるんだ!”と強く感じられたのは、この瞬間が始まりだった。

1曲目「リトルタイムストップ」のイントロが流れる。暗いステージに細い、白い光が差す。気付いたら、私の目からは涙が溢れていた。諦めていたユニゾンの音楽を今、生で聴けているんだと実感したから……。
ユニゾンの音楽は、台風で冷えきった私の心に暖かい風を送り込んでくる。「たくさんもらったあれやこれ必ず何かで返さなきゃ」という歌詞を乗せて。

私が大阪にいてライブを楽しめているのは、送り出してくれた家族をはじめ、関わっている多くの人のおかげなのだ。
東京に戻ったら恩返しをしなきゃ。
 

斎藤が「UNISON SQUARE GARDENです!」と名乗った後に始まったのは、3曲目「flat song」だ。バラード曲だからこそ、演出を限りなくシンプルにし、歌と楽器の音だけで感情を揺さぶってくる。

「雨が降って後に晴れて 時々手を繋ぐよ
また同じ景色を見ようね 何度だって 君となら」

何も苦しむことなく、当たり前のようにライブに行っていたなら、この歌詞の重みに涙することはなかっただろう。止まない雨はない。願った数だけ希望は見える。目の前でユニゾンが音楽を鳴らしているという、今まで何度となく見てきた景色も、雨が止んだ後にこうしてまた見られたからこそ感動が大きい。
この曲はバラード曲ではあるが、サビ部分のドラムの音が多い。スネアの三連符に乗せて、心の奥に閉じ込めていたこれまでの苦しみが一気に解放された。

そして私がカップリング曲の中で特に好きな「シグナルABC」もセットリストに入っていた。後半戦の起爆剤のような役目を果たすこの曲、3人が笑顔で、時に目を合わせながら楽しそうに演奏している姿が印象的であった。
さらに「生きてる今日を生きてる それだけなら案外簡単だろう」「君にだって命はある」という歌詞に涙する。今日を生きることは、簡単だが難しい。だからこそ、命があることは尊いし、自分の思うように生きることは幸せなことだ。
それに気付かせてくれた。
 

さて、私がこの日、1番大きな感動を味わったのが「UNOストーリー」だ。
この曲は本来セットリストに入っていない曲である。なぜ大阪で披露されたのか……

それは、“ファンクラブ限定ツアーだから”という理由で組まれた企画で決まったからだ。
サイコロを振り、出た目で次にやる曲を決めるという企画である。
この企画の中にある「UNOストーリー」が聴きたくて、聴くべくして、大阪に来た。このツアーが始まってから1度も当たったことがないし、この日だって当たるかも分からないのに。
 

しかし、願った数だけ奇跡は起こる。
 

斎藤の振ったサイコロは見事に「UNOストーリー」を表す2の目が出たのだ。思わず息を呑んだ。

「UNOストーリー」は、“君”という相手に対する気持ちや行動が多く歌詞に含まれている。「君だけに伝えたいから できるだけ近くまで行くよ」「こんなに君が好きだし」こんな相手ありきで、分かりやすい歌詞は、なかなかユニゾンで聴くことが出来ないだろう。しかし、それらの相手に対する優しさも良いが、私はこの歌詞を聴いて、自分が今ここにいる事実を噛み締めることになる。
 

「目の前にあるキャンバスはほら どこまでも広がって君を待ってる」
 

キャンバスに自分が見てきた現実を描いてみる。
溢れそうな川も、誰一人としていない静まり返った街の風景も、画面越しに見る台風の惨事も。
そして、太陽の光が差し込む朝、大阪で見た澄んだ青空。
さらに、目の前にはUNISON SQUARE GARDENがいる。

どこまでも限りなく広がっていったキャンバスの最終目的地には、このツアーで初めて引き当てた「UNOストーリー」が私のことを待っていたのだと思う。思いたい。

本当に来てよかった。
大阪に着いてから何度も噛み締めたこの気持ちは、「UNOストーリー」を聴いたことにより、さらに強くなった。
今、私はここにいる誰よりも幸せだと胸を張って言える。
 

行けるか分からないと悩んだ1週間に対して、ライブを見ていた2時間は短い。気付いたら終わっていた。そしてまた新幹線に揺られ、東京での生活が私を待っている。
しかし、東京でどんな現実が待っていようと今の私なら大丈夫だ、乗り越えられる。

「君にだって命はある」
ということに「シグナルABC」が気付かせてくれたから。

「UNOストーリー」が走り出す勇気をくれたから。
 

疲れ果てた心に活力が戻ってきた。
幸いにも、自宅は無事だった。
 
 
 

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12月3日、東京
私は台風の日に避難させてもらった家族の家に再び来ていた。あの日とは違う青空がそこに広がっていた。しかし、空気は冷たい。
台風が過ぎ去った後の東京は一気に寒くなった。更に季節は巡り、やってきたのは冬。

この日は東京でUNISON SQUARE GARDENのライブだ。

当たり前のようにライブに行けることがものすごく幸せなことだったのだと、この地に来て再確認する。
この先もきっと、自分の力ではどうしようもない出来事により、大事なものを諦めなければならないことがあるだろう。その時に、どんな決断をしても納得のいくように、大阪へ行った過去を、奇跡を忘れずにいたい。
 

「だから さあ今 自分の足で行けよ」

あの日の「UNOストーリー」が今も私の記憶の中で奏でられ続けている。
扉を開け、私は今日もまた3人の音楽を聴きに歩き出す。

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