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有安杏果とリスナーをつなぐ空

遠くから放たれつづける励ましの声

いわゆる「モノノフ」として認めてもらえるような、ももいろクローバーZの熱心なファンではない。持っていないアルバムもあるし、ライブに足を運んだことは1度しかない。もちろん何曲かは胸に刻まれている。たとえば「モノクロデッサン」で歌われる

<<どの色が欠けてもこの夢の続きは描けないから>>

という詞には慰められた。僕が何色を持っているのかは分からないけれど、この命にも意味があるのかとさえ思った。ももいろクローバーZのために楽曲を生み出してきた人たちの労を思うし、それを全力で歌いつづけている彼女たちに感謝してもいる。

ただ、ももいろクローバーZは、2018年に「ひとつの色」を欠くことになる。有安杏果が卒業したことで、メンバーは緑色を失うことになったのだ。有安杏果が自身のブログに書きつづったことは、優れた詞よりも尊いものに感じられた。20代前半の人が書いたとは思えない、各方面への感謝を散りばめた挨拶に敬意をいだいた。何より印象に残ったのは、最後の1文だ。有安杏果は、以下のように文章を結んでいる。

<<遠くの空からだけど、ずっとみんなのこと応援してます。>>

***

それは「ありきたり」な言葉だろうか。巣立とうとする誰かが残していく、常套句のようなものだろうか。僕はそう思わない。有安杏果が「空」を大事に思っていること、そこに人を結ぶ可能性があると示していることは、いささかの空虚さも感じさせない。有安杏果が卒業を発表する前に、自ら作詞・作曲した「ヒカリの声」が、上記の「ファンとの約束」に説得力を与えている。

有安杏果はつづる。

<<僕らを繋いでる 空が今泣いてる>>

有安杏果は作中で、自尊心を失ってしまって流されていく自分を認めながら、世界のどこかで同じ空を見上げている人がいるからこそ、大事なことを思い出したいというようなことを歌う。有安杏果の意味する空は、文字通りの空であり、名前も知らない誰かの存在に気づかせてくれるような媒介でもあるのではないだろうか。

そう解釈するならば、有安杏果が泣かせたくはないと思っているのは、空であり、僕たちリスナーでもあるのだろう。その思いに応えようとするなら、僕たちもまた空を泣かせはしたくないものだ。空が泣く日も(雨が降る日や雷鳴がとどろく日も)どこかで生きている誰かが、その雨に濡れて風邪をひくことがないように願いたい。あまりにも多いモノノフたちは、互いの顔や名前を知りはしない。それでも彼ら彼女らの無事を案ずることはできる。

***

ももいろクローバーZが、緑色を失った今も輝きつづけているように、有安杏果も「個人としての色彩」をもって活動を再開したところだ。昨年(2019年)にはライブを催したし、写真家としての非凡さも僕たちに見せてくれている。一度は「普通の女の子」になった有安杏果は、いま勇気ある表現者に戻った。<<遠くの空>>の下にいた有安杏果は、あらためて近しい存在となった。それでもリスナー(あるいは写真の鑑賞者)と有安杏果の間には、物理的な距離があり、確実に共有できるのは空である。万人の上に広がる空。僕たちは手をつなぐことはできないけど、同じ空を見上げることはできる。

僕が今後、ももいろクローバーZのライブに足を運ぶことになるかは分からない。そして有安杏果の主催するライブへ出かけるかも分からない。距離を作っているのは僕自身である。僕たちは励まし合う仲間ではあるけど、残念ながら知己ではない。それでも、だからこそ、僕は有安杏果を真似て、その熱い生き方を見習って、こう言いたいと思う。

<<遠くの空からだけど、ずっとみんなのこと応援してます。>>

その「みんな」には、ももいろクローバーZの面々が含まれ、彼女たちを支える関係者一同も含まれる。そして当然、有安杏果も、そのなかにいる。さらに言うなら、多くのモノノフさえも、そこに入っているのだ。僕のような一般市民が「みんな」を思うことは、おこがましいことかもしれない。でも、もしかしたら多くの人が、同じように僕のことを、遠くから応援してくれているのかもしれない。

***

ありがとう、有安杏果さん。生み出した曲だけでなく、日々、撮りためている写真だけではなく、空を大事に思う気持ちさえも、私たちは受け取っています。空から降り注ぐ光が、ご活動を守ってくれることを、きっと多くのファンが願っています。

※《》内はももいろクローバーZ「モノクロデッサン」の歌詞、有安杏果の公式ブログ、有安杏果「ヒカリの声」の歌詞より引用

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