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2017年7月24日

KAI (38歳)

グラストンベリー2017

俺たちとグラストンベリーとBo Ningenとトム・ヨーク

またこの場所に帰ってきた。

世界最高最大のロックフェス、グラストンベリーフェスティバル。
 

俺たちは去年「死ぬまでに一度はグラストンベリー」という人生の目標を達成した。

友人のダイスケ・ユカ夫婦と俺は2年連続での参加になる。

今年は俺も結婚し、新婚旅行として妻のサチを連れてきた。

去年渋滞に巻き込まれて結局ロンドンから8時間かかったバスもきっちり4時間で着き、公式キャンプサイトであるワージービューへもシャトルバスでスムーズに着くことが出来た。
 

暑い。

真夏の暑さだ。

去年は雨続きで史上最悪の泥と言われたグラストンベリーだが、今年は芝生も青々として美しい。

夜になると寒くなり、防寒着を着込む。

去年もそうだったが寒暖差がすごい。
 
 

金曜日、俺たちは会場に日の丸を持ってきた。

今日はロンドンを拠点として活動する日本人によるバンド、Bo Ningenのライブがある。

彼らにとっては2度目のグラストンベリーだが、今回はTHE PARKと呼ばれるメインステージの一つに出演する。

2年前サマソニで観て以来ファンになった俺とサチは、初見となるダイスケとユカをこのステージに連れてきた。

日本人がイギリスでバンドを組み、グラストンベリーのメインステージの一つに出る。

この歴史的な瞬間を日の丸を持って応援しようと思っていた。

ステージに着くとこの日トップバッターのバンドの演奏が始まっていた。

まだ早い時間なので観客はまばらだ。

ライブが終わって転換の時間となり、最前列に行く。

「Bo Ningen埋まるかな」

「まだガラガラだけどどうだろう」

そんなことをサチと話しながら待っていると、隣にいたイギリス人のおじさんに声をかけられる。

「お前たちこのバンドを見たことがあるか?」

あると答えると

「俺は2回見てるぜ」と返ってくる。

熱心なファンがいることを知り、これは埋まるかもしれないと思い待つ。

開演時間前だがメンバーがステージ上に現れる。

セッティングを自分達自身でするのだろう、ステージスタッフに丁寧に挨拶をしている。

観客は騒ぐことなくその様子を見ている。

セッティングが終ってメンバーが一旦バックステージに戻る。

開演時間が近づく。

後ろを振り返ると人、そして人。

「完全に埋まったな!」

「凄い」

開演。

メンバーがステージ上にまた現れる。

今度は大歓声が4人を迎える。

ボーカル兼ベースのTaigenがマイクを通さずメンバーに語りかける。
 
 
 

「いきますか」
 
 
 

メンバーがそれに答える
 
 
 

爆音
 
 
 
 
 

その後のことはあまりよく覚えていない。

俺はとにかく絶叫していた。

ラスト、Taigenがステージを降り、俺たちのところにやってきた。

最前列の柵の前に広げた日の丸の真上だ。

俺の真横で傷だらけのフェンダージャズベースをかつぎ上げ、ストラップを噛みちぎる。

その瞬間。

俺はベースのネック裏に印字されている文字を見つけた。

「MADE IN JAPAN」

このとき、日本人が日本語で日本製の楽器で世界をロックしていた。

これがロック。

ロックってこういうことだ。

自分自身をさらけだし、たった1音に全身全霊を込め、この瞬間を生ききること、命を燃やすこと、そしてその熱をどんな人とも分け合うこと。

応援しようと思っていた俺は逆に勇気をもらっていた。

背中を押された。

今年Bo Ningenはグラストンベリーに熱狂と伝説を残した。
 
 

この日のピラミッドステージのトリはRadioheadだった。

俺がUKロックを好きになる扉を開けてくれた存在。

学生だったころ、こんなにも絶望的で美しい音楽があるのかと夢中になり、今でも憧れ続けているバンド、そしてそのボーカリスト。

Radioheadのライブは何度か観ているが、特に印象に残っているのは2003年と2016年のサマーソニック。

どちらも大阪会場。

俺たちはそこにいた。

2003年は俺とダイスケ、2016年は俺たち4人ともがサマソニ大阪にいた。

これが何を意味するかはRadiohead好きの日本人ならわかるだろう。

そう、俺たちは単独公演も含めてCreepをライブで聴いたことがない。

どのライブも本当に素晴らしかったが、Creepが演奏されることはなかった。

グラストンベリーに行くことと同じように、Creepを生で聴くことは人生の悲願だった。
 

Daydreamingからライブは始まり、Airbag、Myxomatosis、(ピラミッドステージでの)Pyramid Song、Let Down、Idioteque、アンコールに入ってNo Surprises、2+2=5、Fake Plastic Trees。

美しい瞬間の連続で何度も泣いた。

そして最後から2曲目。

ついにあのアルペジオをエドが弾き始める。
 

Creep。
 

夢に見た瞬間がついにやってきた。

トムと一緒に歌う。

すぐに涙で視界が曇る。

サビの前にさしかかりジョニーがギターを振りかぶる。
 
 

ギャギャッッッッッッッ!!!!!!!!
 
 

バカでかい音であのディストーションのギターが鳴り響く。

身体が震える。

声を張り上げてサビを歌う。

泣きすぎてもうステージなんて見えない。

天を仰ぎながら全力で歌う。
 

隣にはサチがいる。

ダイスケもユカもいる。

大好きなやつらと一緒にCreepが聴けた。

夢が叶った。
 

俺は長年追い続けたミュージシャンの夢も諦めた。

それ以外にも沢山の夢が叶わなかった。

必ず夢は叶うとか、夢は叶えるためにあるとか、そんなのが嘘だってのは痛いほど知っている。

努力しても報われないならしない方がマシだと言うやつもいる。

でも俺はこう言いたい。
 

「叶う夢もある」
 

叶う夢もあるならたくさん夢を見れば良い。

99が叶わなくても1つでも叶えばこんなにも最高だ。

生まれてきてよかった。

心底そう思えた。
 
 

次の日俺たちはトム・ヨークに出会った。

俺はこっちに来て初めて会った日本人のユウジから朝トムと会ったと聞いていた。

どこかをうろちょろしているらしいが、なにしろ東京ドーム100個分といわれる広大な会場だ。

会えることはないだろうと思っていた。
 

夕方俺とサチがステージ間の移動中に人通りの少ない道を歩いていると、正面から黒ずくめの集団がゆっくりと歩いてきた。

その中心にトムがいた。
 

心臓が止まりそうになりながら握手を求めると俺ともサチとも快く握手してくれた。

あまりにも一瞬だったが、トムも俺もそこにいた。

トムの手は意外にゴツゴツしていた。

この手でずっとギターを弾いて来たのかと思うとたまらない気持ちになった。

夢にも思わなかったようなことが起こった。
 

震えながら別行動していたダイスケとユカに連絡した。

「会いたいが探しても会えないだろう」と言っていた。

しかし、あいつらもその後すぐ別の場所でトムと遭遇した。

もしトムと出会えたら何を言うかをずっと考えて今まで生きてきたダイスケはライブの感想と自分が大ファンであることを伝えた。

トムは「はじめまして、はじめまして、はじめまして」と日本語で答えてくれた。

ユカは握手だけしてもらったが何も伝えられなかったと悔やんでいた。

それなら俺だって同じだ。

交わした視線、握ったこの手で俺たちがどれだけ彼の音楽に夢中になってきたか、救われてきたか、その一部でも伝わったはずだと信じよう。

その晩、俺たちはトムと出会えたこの奇跡について語り合った。

俺とダイスケは抱き合い、涙を流しながら笑った。

これが今年の俺たちのグラストンベリーだった。
 
 

グラストンベリーはただのロックフェスじゃない。

楽園で最終目標で故郷で、今生きていること自体への祝祭で、好きなものを好きだと全力で叫べる場所だ。

夢は叶うし、夢にも思わなかったことまで起こる。

グラストンベリーには魔法がある。

イギリスの片田舎の牧場で1年に5日間だけ現れる魔法、そしてその引力。

これに触れるために世界中から人々が集まる。

やっぱり俺は音楽が好きだ。

最後に1つだけ言わせてくれ。

みんなグラストンベリーに行こうぜ!!

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