3141 件掲載中 月間賞発表 毎月10日 コメント機能終了のお知らせ
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

デヴィッド・ボウイ山脈の六合目あたり

遺作『★』の清々しさ

誰もが認めるロック史上10指に入るであろうレジェンド、デヴィッド・ボウイ。その数ある作品の中から最も心に響く1枚を選べと言われたら、僕ならほぼ迷いなく遺作の『★』を選ぶ。全作品を聴いている訳ではないのだが、おそらくこのセレクトが覆ることはないような気がしている。なぜなら、『★』にはクオリティ云々なんていう理屈を超えた、デヴィッド・ボウイという人間そのものを感じられるからだ。

デヴィッド・ボウイの存在を初めて認識したのは、1983年の映画『戦場のメリークリスマス』において、ビートたけしや坂本龍一と共演した謎の外国人というものだった。その宇宙人的ルックスのインパクトが強かったせいか、当時はミュージシャンというよりも役者が本業のちょっと歌も唄う人、みたいな捉え方をしていたものだ。

その後、「ブルー・ジーン」という曲がヒットしてテレビのCMでもよく流れていたのだけど、そこからミュージシャンとしてのデヴィッド・ボウイをチェックすることはなぜかしなかった。仮にその時、代表作の『ジギー・スターダスト』や『ヒーローズ』、世界的に大ヒットした『レッツ・ダンス』を聴いたとしても、洋楽を聴き始めたばかりの高校1年生の僕には、その音楽性を好きになることも、ましてや理解することも、おそらくはできなかったような気がする。

それなりにリスナー経験を積んできた今聴いても、やはりデヴィッド・ボウイの音楽には、誰もが楽しめるようなエンターテイメントとは一線を画した、ある程度聴く人間を選ぶ特殊性を強く感じる。僕自身、本当にデヴィッド・ボウイの音楽を楽しめるようになったのは、ほんの5、6年くらい前に10年ぶりの復帰作『ザ・ネクスト・デイ』を聴き、純粋に「デヴィッド・ボウイってカッコイイんだな」と感銘を受けてからであり、それが本当の意味での始まりだったのだと思う。

そんな浅い付き合いだったせいもあって、2016年に突然亡くなった時も、さほど驚くこともなく「ああ、そうなんだ・・・・」という、割とあっさりしたリアクションだった覚えがある。それからしばらくして、亡くなるわずか2日前にリリースされたという、最新作にして遺作となった『★』を購入し、ささやかな追悼の意を込めながら耳を傾けたのである。

一聴、その深遠で厳格な佇まいに襟を正されるような思いに駆られた。病に侵され生死の狭間をさまよう人間が、ここまで緊張感のある音を鳴らすことができるのか、音の一つ一つが粒立ちして鼓膜に刺激を与えるような、そんな凄まじい音楽を遺作として残せるアーティストなんて、他にどれだけ存在しているのだろうか・・・そういった幾つもの畏敬の念が絶え間なく湧いてくる41分、全7曲。一切の無駄を排除したその潔さと濃密な音楽純度に、デヴィッド・ボウイの覚悟と本気がみなぎっているように見えた。

オープニングを飾る10分にも及ぶタイトル曲は、自らが奏でる鎮魂歌のようにも、黄泉から舞い戻る復活の狼煙のようにも感じられる荘厳な大作だ。聴く進むに従い魂をグッと捕まれ、現世とあの世の狭間を彷徨うような幻覚に包まれてゆく。2曲目「ティズ・ア・ピティ・シー・ワズ・ア・ホア」のイントロで鳴らされるスネアの音一発で一気にテンションが上昇する。この快感こそが音楽を聴く喜びと醍醐味。ボウイとサックスの激しいつばぜり合いが、硬質でスインギーなドラムと相まって、早くもアルバム最初の山場を迎える。

3曲目、抑制の効いたバラード「ラザルス」を切々と歌いあげるボウイ。それを受けてむせび泣くサックス。突然、何かの終わりを告げるかのごとく、重いナタを振り下ろすように奏でられるギター・カッティングが悲痛な余韻を残す。しばし沈黙の後、不吉な予感を想起させるギター・リフと不気味なシンセサイザーがドラムン・ベースのリズムに乗って4曲目の「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」が渦巻き始める。ここでボウイは周到に第二の山場を築く。

そして後半。まるで葬列のような重い足取りを思わせる5曲目「ガール・ラヴズ・ミー」、悲しみにくれた人々を優しく包み込むような6曲目「ダラー・デイズ」、ボウイの祈りにも似た歌声がこだまし、サックスが天高く飛翔する。そして、フィナーレを告げるようなギターが華麗に響き渡り、最終曲「アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ」がおごそかに流れ出す。

空一面を覆う灰色の厚い雲、その隙間から暗黒と化した世界に差し込む一本の陽の光。それが次第に幅を広げ、辺りを穏やかに照らし始める。情熱的なサックスとギターの音色に包まれながら、世の無常をささやくように歌いあげるボウイ。彼のこの哀切に満ちてなお凛とした清々しさは一体なんなのだろうか。それは、自分の人生に一片の悔いもない者だけが成せる、不動不惑の幕引きなのかもしれない。

まるで山脈のようにそびえ立つ偉大なるアーティスト、デヴィッド・ボウイ。僕はまだその六合目あたりに差し掛かったばかりだ。未だデヴィッド・ボウイを制覇していない喜びを噛み締めつつ、彼の残した莫大な音楽遺産を、これから時間をかけてじっくりと発掘してゆきたいと思う。
 

(曲の日本語表記はrockin’on 2017年 1月号によります)

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい