563 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年7月24日

苅野 雅弥 (28歳)
14
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

怒れるジジイも悪くない

久しぶりにPiLを聴いてみた

 「騙された気分はどうだい?」という捨て台詞をセックス・ピストルズのラスト・ライヴで吐いたのは、ヴォーカルを務めていたジョニー・ロットンことジョン・ライドンである。そんなジョンは、ドナルド・トランプやイギリスのEU離脱を擁護して批判されるなど、相変わらず騒がしい。だから、というのも変だが、1978年にピストルズを脱退してジョンが始めたバンド、PiL(パブリック・イメージ・リミテッド)の作品群を久しぶりに聴いてみた。
 

 PiLはジョンを中心に、当時ジョンの友人だったジャー・ウォブル、ザ・クラッシュの初期メンバーとしても知られるキース・レヴィン、そしてジム・ウォーカーの計4人で結成された。バンド名の公式表記はPublic Image Ltdだが、“株式会社”を意味するLtdをバンド名に使うところが面白い。反体制というパンクのイメージをまっとうしたピストルズ時代をふまえると、バンド名が痛烈な皮肉に見えてくる。
 この4人で作られたファースト・アルバムが、1978年の『Public Image (First Issue)』だ。まず興味を引かれるのは、真っすぐカメラを見つめるジョンの姿がフィーチャーされたジャケット。ボロボロの服を着ていたピストルズ時代とは打ってかわり、ビシっとしたスーツ姿が印象的。i-D Magazineを創設したテリー・ジョーンズなどが関わったアート・ワークもスタイリッシュだ。
 低音が強調され、乾いた質感が際立つサウンドも、ピストルズの音からだいぶかけ離れていた。そうした傾向が顕著に表れているのは、ダブの影響を感じさせるベース・ラインが特徴のディスコ・トラック「Fodderstompf」だろう。また、ノイ!などのクラウトロックを連想させる音作りが目立つのも特徴だ。ジョンのヴォーカルもダークな雰囲気を醸し、さながら演説のよう。しかし、「Public Image」「Low Life」「Attack」の3曲は、ピストルズ時代の音を引きずった曲調になっており、完全にピストルズの影を払拭できているわけではない。それでも、“一般に認識されているイメージ”という意味を持つ「Public Image」で、もっともピストルズに近いラウドな音を鳴らしているのが、どこまでもリスナーをからかうジョンらしいとも言える。
 

 そんなファースト・アルバムの方向性は、次作の『Metal Box』でもしっかり受け継がれている。前作以上にダブとクラウトロックの要素を色濃くし、シンプルな反復ビートが高い中毒性を生みだすなど、PiLなりの独自性を確立している。さらに、PiL流のディスコ・アルバムという側面もあり、踊れる曲が多い。ジョンが手掛けた歌詞も、〈奴は機械のように働きつづけてきた これが生活と言えるか?〉と歌われる「Careering」など、内観的なものが多い。ちなみに『Metal Box』はジム・ウォーカー脱退後に作られ、ジャー・ウォブル、キース・レヴィン、マーティン・アトキンス、デヴィッド・ハンフリー、リチャード・デュダンスキーといった面々が代わるがわるドラムを担当している。そのおかげか、グルーヴが多彩になっている。特にジャー・ウォブルがドラムを叩いている「Careering」は、拙いドラミングが耳に残るものの、それが結果的に、常識をぶち壊してとりあえずやってみるというポスト・パンクの精神を象徴することに繋がり、『Metal Box』のなかでも際立った曲に仕上がっている。また、「Careering」を聴いたあと、ディスコ・パンク・ブームを牽引したザ・ラプチャーの「Echoes」を聴いてみてほしい。両曲の歌いだしがとても似ていることに気づくはずだ。ディスコ・パンクは、ポスト・パンクの影響を多分に受けているが、『Metal Box』はとりわけ強い影響をあたえているようだ。
 

 だが、その『Metal Box』が発表された後、ジャー・ウォブルが脱退。そのままベーシストを補填せずに作られたのが『The Flowers Of Romance』である。PiLのダブ/レゲエ要素を担っていたジャー・ウォブルが抜けた影響で、ジョンの呪術的なヴォーカルと、『Metal Box』に引きつづき参加したマーティン・アトキンスによる、民族音楽を想起させるドラミングが際立つ。ポップ・ソングとしての体裁を保った曲は皆無で、ひとつひとつの音粒が無造作に放り込まれた印象を抱かせる。人によっては、完成品というよりデモ音源と言いたくなるかもしれない。とはいえ、贅肉やエモーションを徹底的に削ぎ落としたサウンドスケープは、リスナーの心を魅了する妖しい雰囲気を醸す。その雰囲気は退廃的で、荒廃的で、遥拝的。ここまで極北に行きつくと、神々しいと思えるのだから不思議だ。音楽的には『Metal Box』のほうが理解しやすく、後進のアーティストたちも影響を受けやすいのかもしれない。しかし、『The Flowers Of Romance』の特異性こそ、PiLというバンドの本質をもっとも明確に表している。その本質とはもちろん、常識を壊し、自分たちだけのサウンドを追求するというポスト・パンクの自由な実験精神である。
 

 パンクは、それまでのロック史に反抗するための手段だったが、あっという間に商業主義の一部になってしまい、骨抜きにされた。このような経験をパンクの最前線で見たジョンだからこそ、〈騙された気分はどうだい?〉という言葉を吐きだすことができ、『The Flowers Of Romance』というポスト・パンクを象徴する傑作に辿りつけたのだ。
 一般的には、『The Flowers Of Romance』期までがPiLの全盛期とされている。『The Flowers Of Romance』に続くアルバムとして、ジョンとキースは『Commercial Zone』を作りあげるが、収録曲「Love Song」のミックスをやりなおすためにキース・レヴィンがスタジオ入りし、その行動に怒ったジョンがマスターをリリース元のVirginに送るよう指示するなど、バンド内の緊張感も高まった。こうした状況を受けて、キース・レヴィンはPiLを脱退し、セルフ・リリースという形で『Commercial Zone』を発表してしまったため、ジョンは『This Is What You Want… This Is What You Get』を発表する羽目になってしまった。そうしたドタバタが影響してか、『This Is What You Want… This Is What You Get』は多くの批判に晒された。このアルバム以降にリリースされた、『Album』『Happy?』『9』『That What Is Not』というアルバム群も、高い評価を受けているとは言いがたい。とりわけ、『Happy?』『9』『That What Is Not』は、ジョンのキャラを前面に押しだす路線が露骨に表れていることもあり、初期のPiLにあったヒリヒリとした緊張感がほとんどない。
 ジョンのセルフ・レーベルPiL Officialから発表された、『This Is PiL』と『What The World Needs Now…』も同様で、自虐的な芸を身につけたコメディアンとしてのジョンがそこにいる。これは言うなれば、パンク芸人だ。それが現在のジョンであることは、多くの人が同意するのではないだろうか。
 

 しかし筆者は、そのようなジョンに興味を持ってしまっている。2004年にイギリスで放送されたリアリティー番組、『I’m A Celebrity Get Me Out Of Here』で、クレヨンしんちゃんのようにお尻をカメラに向けて突きだす姿を見ても、それは変わらない。そもそも、ジョンがPiLを始めたのは、ジョニー・ロットンという偶像から逃れるためでもあった。こうしたことをふまえると、常に私たちの期待を裏切りつづけるという意味で、ジョンの行動は一貫している。たとえば、ジョンはソロ・アルバム『Psycho’s Path』をリリースする前年、金もうけのためと公言してピストルズ再結成ツアーをおこない、その後もたびたびピストルズの再結成を繰り返している。とはいえ、その行動に幻滅はしなかった。いや、幻滅はしたのだが、この幻滅こそがジョンの狙いであり、だとすればジョンは相変わらず私たちの期待を裏切ってくれるのだなと、一種の安心感を抱いてしまった。そんな安心感と共に頭をよぎったのは、盲目的な信奉と生ぬるい共依存を拒絶しつづける誠実さだ。それをジョンは、ポップ・ミュージックという名のウイルスを用いて示してきたのではないか?ジョンは、先述の「Public Image」で次のように歌っている。
 

〈誰か止めてくれ 俺は昔と違う〉〈他人への印象は自分で決めるもの その印象が自分のものでなきゃウソさ〉
 

 PiLは昔も今も、画一的になりやすいコミュニティーというよりは、協働もありつつあくまで個人を尊重するコレクティヴな集団だ。ゆえにPiLはいざこざが絶えず、現在はメンバーが流動的なジョンの個人プロジェクトな趣になってしまったが、それはジョンが自分に正直であることの証明にもなっていると感じるのは、筆者だけだろうか?
 2016年、ジョンは還暦を迎えた。怒れるジジイも時には間違うが、害にもなれない老害よりは数百倍マシだ。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい