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米津玄師、愛ある緻密な思考とその美しさに言霊がみえる

嵐『カイト』 励まさない応援歌に見た情景 ~私のStory~

「つらかったら、いつでも帰ってきぃよ。」
振り返ると、まるで菩薩のように優しく微笑みを浮かべた祖母が立っていた。

共働きの両親に代わって母のように私を育ててくれた人。
夢を叶え、地元徳島から東京へ出て奮闘していた私だったが、ふと激務に疲れ実家に帰った。
心配させてはいけないと思い愚痴はこぼさなかった。ただ笑顔で楽しく過ごしたつもりだった。
東京へ戻る日「おばあちゃん、飛行機の時間やけんもう行くな!」と少し離れた祖母に声を掛けた。玄関のドアに手を掛けたとき、思いがけず耳に優しく飛び込んできた言葉だった。
「いつでも帰ってきぃよ」
祖母にはすべてわかっていたのだ。疲弊して、でもどうしていいかもわからない、まだ若かった私に与えてくれた「逃げていい」という選択肢。
思わずこぼれ落ちる涙を見せまいと、背を向けたまま「ありがとう」しか言えなかった私。

今なお、涙の味と共に記憶に焼き付いた人生のワンシーン
 

米津玄師が嵐のために作詞作曲した『カイト』
応援歌だという。
米津玄師が大好きな私と9歳の息子は大晦日、テレビに釘付けだった。
「小さな頃に見た 高く飛んでいくカイト」
どこか懐かしいメロディに乗せ、嵐のメンバーがゆっくりと噛みしめるように歌い出した。
瞬時に脳内に描かれる光景。
幼い自分に戻った私がカイトの糸を握りしめ、空を見上げている。
あの頃、未来は遠く眩しく、迷いもなく「一番星」を見上げる私の瞳は輝いていただろう。

空に舞い上がったカイト。
米津玄師はこう続ける。
「泣かないで」「逃げていい」
この歌詞に出会ったとき、私の中であのワンシーンがあまりにも鮮やかによみがえり、溢れ出す涙を止めることができなくなった。
振り返ると必ず、そこには許しと救いがある。
そんなすべてを包み込む愛が待っているからこそ、子は空だけを見上げて、見上げて、「やまない夢」を追える。いつか、「憧れた未来」から見える景色を知るために。

あの日、私には許しがあった。だから。
そう、今、私はこれを東京で書いている。
 

隣を見ると、まばたきすら忘れたように、新国立競技場で歌う嵐の姿を見つめ聴き入る息子の姿があった。その真っすぐな眼差しがあまりにも煌めいて、美しくて、この子の頭の中を覗きたくなったほどだった。
きっと彼は今カイトの糸を握りしめ、あの頃の私のように空を見上げているに違いない。
この子の「一番星」は米津玄師。

ふと自分の手を見ると、この子と一緒にカイトの糸を持ち、空を見上げている。
息子もいつかカイトのように一番星を目指して離れていくのだろう。
私がただただ思うことは、どんな嵐の中であろうとも指がちぎれそうになろうとも決してこの手を離さないということ。
この子が振り返った時、「泣かないで」「逃げていい」と言える強さと深い愛を持つこと。

「そして帰ろう その糸の繋がった先まで」

息子の糸を持つ私が振り返ると、そこには私のカイトの糸を持つ両親や祖父母の姿が見える。許しと救いを与えてくれた、帰る場所。こうやって、ずっとずっと遠い昔から繋がってきた糸。
 

私達は、途方もなく広がる大空にただ彷徨う小さなカイトじゃない。
誰しも誰かにその糸は繋がり、決してひとりじゃないということ。
それを知ることは確かに、どんな励ましの言葉よりも強く強く、私達の背中を押す。
 

これほどまでに優しい応援歌を、私は知らない
 

「君の夢よ 叶えと願う」
「叶えと願う」そう、いつだって励ましじゃない。愛は「願い」だ。

「溢れ出す ラル ラリ ラ」
 

これほどまでに美しい応援歌を、私は知らない
 
 

「誰かに生かされ許されて今の自分があることを忘れてはならない。」米津玄師は語る。
この曲を聴く度に、その想いが胸に溢れる。
そして自分もまた誰かを生かし許していける存在であるということを胸に刻む。
 
 

最後に、これはあくまで私の生きてきた範囲での価値観から解釈したストーリー。
米津玄師が込めた想いは、100人いれば100人の感じ方や解釈があるだろう。
お互いのストーリーを批評するのではなく一旦受け入れて、自分の心のもうひとつの扉を開けばいい。
音楽に、中傷はいらない。
どうかどんな音楽を語るときも、そのすべてに関わる人々を語るときも、美しく愛ある言葉で語ってほしい。
「人々が美しく心を寄せあう」令和という世であってほしい、と願ってやまない。
 


 
講評
米津玄師が嵐に提供した楽曲“カイト”の歌詞を、祖母との思い出や息子との関係性に重ね、この曲のメッセージを紐解いた作品。歌詞の情景が目に浮かぶような美しい表現と、励ましの言葉を使わない応援歌であるという考察によって、楽曲の魅力が丁寧に伝えられています。文末にも書かれている通り、100人いれば100通りの解釈ができるからこそ、米津が生み出す音楽が多くのリスナーに受け入れられているのだと思います。

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