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2017年7月24日

タナイユウ (36歳)
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小さな革命

YUKI concert tour “Blink Blink” 2017 を観て

4月29日から広島グリーンアリーナを皮切りにスタートしたYUKI concert tour“Blink Blink”2017は、3月に発売されたYUKIの最新アルバム『まばたき』のレコ発ツアーと、ソロデビュー15周年記念ライヴも兼ねた、YUKIの過去から現在地までを辿る、彼女にとって大きな節目となるツアーである。私は、全13公演中の8公演目に当たる7月1日、横浜アリーナで開催されたライヴを観てきた。

ライヴのハンドルを握り締めるYUKIと共にステージを繰り広げるバンドメンバーには、ストリングスとホーンセクションも加わり、会場一帯に響き渡るのは、それはもう極上のサウンドだ。素晴らしいバンドメンバーに囲まれ、誰よりも嬉しそうなYUKIのパワフルな歌声は、17,000人を収容できるという巨大な横浜アリーナでさえ、どんな色にも染め上げてしまう。ヒップホップにR&B、ロックにジャズに、エレクトロなダンスミュージック。ジャンルのボーダーラインを好奇心の赴くままに飛び越え、15年間大切に育ててきた、いつの時代のどの楽曲も、全く古さを感じないどころか、更にビビッドな状態で私達の元には届けられる。

そして、最新アルバム『まばたき』の中では、「まだまだ、もっと、先へ行きたいんだ」という、まさにアルバム1曲目のタイトルでもある“暴れたがっている”欲望を、YUKIは恥じることなく曝け出した。“名も無い小さい花”という曲では、<初めてを沢山しよう>と歌い、“私は誰だ”という曲でも、<私がこわいもの/この胸の火が消えること/いつでも探してる/サムシング/ニュー>と歌う。何より「音楽が好き、歌が好き」というYUKIの本能的なシグナルが、マイクを通して伝わるたびに気付かされるのだ。きっと、YUKIの辞書には「不可能」という言葉が、存在しないのだろうと。

しかし、とある曲が終わると、バックスクリーンに映し出されたのは、YUKIの手書きの感謝の言葉だった。YUKIの今日までの道のりが、決して平坦なものではないことは、会場に集まっていた誰もが、きっとわかっていたと思う。かつて私も、コンディションが決して良いとは言えない状態で、ステージに上がったYUKIを観たことがある。思うように歌えない悔しさを、一番感じているのは誰でもない、YUKI本人。それでも、私達には笑顔を振りまき、歌い、ステージを全うさせようとする。そんな彼女を、私は目に涙を浮かべながら、見守ることしか出来なかった。

もう、ステージに上がることが出来ないんじゃないかと思ったし、無理もして欲しくなかった。だから、あれから数年が経った今、目の前にいるYUKIの力強く進化している歌声には、驚きと同時に、ただただ、涙が溢れてしまう。声が出なくても私達に見せた、あの笑顔の裏にあった苦悩と努力は、計り知れないものに違いない。でも、YUKIは自分の弱さだけではなくて、強さも知っている人だから、自分で自分を超える存在であることを、私達に証明してみせたのだ。

高校時代、クラスメイトの影響でJUDY AND MARY(以下JAM)が大好きになり、それ以来、ずっとYUKIに憧れ続けていた私は、彼女が表紙を飾る音楽雑誌もファッション雑誌も全て買い、出演するテレビ番組も必ずチェック。YUKIがしていた前髪パッツンのボブヘアーだって服装だって、似合いもしないのに必死で真似しようとした。短大時代には、入部していた軽音楽部の先輩と一緒にJAMのコピーバンドを組み、社会人になっても友人とカラオケに行けば必ず、YUKIの楽曲のみをひたすら歌いまくるという、JAM&YUKIメドレーを始めてしまった。当時の私は、少しでもYUKIに近づきたいどころではなくて、YUKIになりたかったのだと思う。

そんな10代20代を過ごしてきた私も、現在36歳。世間ではアラフォー世代と呼ばれる、すっかりいい大人な年齢になってしまった。…とは言っても未だに迷うし、躓くし、大人気なく一人泣くことだってある。高校時代に思い描いていた30代とは、大きくかけ離れているし、なんだか思うように前進できない。こんな自分が情けないと、ため息つきがちな日々を過ごしていた頃、偶然「今度YUKIのライヴがあるよ」と友人からLINEをもらい、チケットを申し込んだ。

私はYUKIを、とことん生きることに貪欲な人だと思っている。自分の周りにいる人達を心から愛し、自分の人生を楽しむ。YUKIが作る楽曲から感じられる力強さは、忙しさにかまけて生活している私達が、忘れがちな大切なことが根っこにある。だから、いくつになっても私は、自分の大切なものに気付かされてしまう彼女の歌に惹きつけられ、無条件に心を大きく揺さぶられてしまうのだ。

最後の最後に「ありがとうございました!」とマイクを使わず、声を張り上げ叫んだYUKIが、オーディエンスとの別れを惜しみながらもステージを後にする。あたたかくて、優しい余韻がじんわり会場を包み込むと、明らかに私の心の風向きは変わっていた。YUKIのライヴは開放感に溢れ、自由しか存在しない、正に音楽の理想郷だった。「ずっとここにいたいなぁ」なんて思ってしまったが、現実問題そうはいかない。けれど、私はとても清々しい気持ちで席を立つ。そして、別に誰かに宣言するものでもないが、私に起きたこの「小さな革命」を、信じてみることにした。

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