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2017年7月25日

だーいし。 (22歳)
75
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日焼けあとと共に残るもの

初めてマイヘアを観た夏

先日、梅雨明け宣言がされた東京。
毎日嫌になるほど暑い。それはそうだ。夏がきている。気がつくとゆっくり夏になっていた。

7月22日、この日も茹だるような暑さで木々の隙間からは蝉の声がして空には入道雲が佇んでいた。
僕はお台場野外特設会場、ムロフェスにいた。
目的はLEFTステージのトリを務めるMy Hair is Badだ。
朝から1日を掛けて沢山のバンドを見る。
新しい出会いもしたし、観てみたかったバンドもみれた。

19時を過ぎた頃。一緒にステージを見ていたような入道雲もいつの間にか居なくなっていて、
暑かった会場には涼風が吹き抜けている。空は太陽が落ちて何だか感傷的になった。
身体が赤い。リストバンドを付けていた所には1部だけ色の変わった日焼けあとが残っていて何だか格好が悪かった。

前バンドを観て腕の日焼けを気にしていた時、待ちに待ったマイヘアが目の前に現れた。
普段耳にしているバンドが目の前に現れた時、僕はいつも不思議な気持ちになる。
この日もそうだった。
椎木知仁が目の前にいてマイクを向かっている。現実だ。

ああ、本当にいるんだなあと当たり前のことを思っているとリハーサルが始まった。

〈ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかったような気がした〉

マイヘアの代表曲、《真赤》だ。
凄く嬉しかったが同時に困惑もした。
リハでやるってことは本編で真赤は歌わないのだろうか。
絶対にやる、それも大切な場面で。そう勝手に思っていた僕は何だか肩透かしを喰らったような気分だった。

リハが終り、メンバーが合図を出して本編が始まった。
椎木知仁が曲名を絶叫し、やまじゅんの瞬発力のあるドラム音が鳴る。
1曲目は《告白》だ。
客席は今日一番の熱さをみせて、曲が始まると客席は揉みくちゃになった。
僕は音源の彼らしか知らない。
熱いライブをするとは知っていたが実際に体感するととんでもない熱量に、胸が躍る。

〈いつか死んでしまうんだ〉
告白の最後の一行はまさに、今生きていることを教えてくれた。
つい先日飛び込んできたチェスターの訃報。
今生きていて、このステージを観れていることがどれだけ尊いものか実感した。

熱の冷めやらぬまま、《アフターアワー》へと雪崩込む。
相も変わらず客席は人の海のようで、ぐちゃぐちゃだ。
1日中会場にいても、ここまでカオスな状況になったのはマイヘアしか居ない。
彼らの持ち味は爆発力だと痛感した。
愛も喪失も私生活も、包み隠さず歌にするマイヘアだからこそ、この爆発力を生み出せるんだろう。
人々の心のどこかにあるネガティヴな念が油となり、マイヘアがそれに火を付ける。
そんな印象を強く持った。
し、椎木知仁自身もロックバンドは爆発だと言っていた。
誰にも負けない、俺たちこんなんじゃ帰れないと叫び続ける椎木知仁の姿はまさにロックスターそのものだ。

聴いていてほとんど気が付かないほど自然に、そのまま《クリサンセマム》が演奏される。
マイヘアは”生”が似合うバンドだなと思った。
帰りの電車で今日演奏された曲を聴いてみても、同じ曲とは思えないほどだ。
ここにしかない、このライブ感が人々と魅力して止まないんだろうなと感じた。

『ゆっくり夏になっていく。もっといい男になりたい。』椎木知仁の言葉から始まった《元彼氏として》。
ベースのバヤが椎木知仁同様に熱い演奏をみせる。

異様な光景だった。
元彼氏という立場から、あの子に向かって投げ掛ける(というか豪速球でぶつける)曲は一見すると気持ちが悪い。
はずなのに、それをポジティブに熱として昇華している。
それどころかこの曲は親しみやすいポップささえも兼ね備えていた。
この景色はマイヘアでしか見れない特別なものだ。

そんなんじゃメジャーデビューなんて出来ないと先輩に言われたこと。良いと思っていたのに、他の人にはダメだしされたこと。
ここまで来るのに5年かかったこと。
彼はMCでさえも全力だ。
音楽ではない部分のマイヘアに救われる人も多くいる。

『今年まだ花火見てねえだろ?自分たちが今年最初の花火になりに来ました。』
椎木知仁のそんな言葉から《フロムナウオン》が始まっていく。

椎木知仁の言葉には、他のバンドにはない”重み”がある。
圧倒的な言葉数に僕は耳を傾けた。
沢山語りすぎて覚えきれない程の量だ。
曖昧な言葉のニュアンス、断片的な記憶を辿っても、脳裡に浮かんでくるのはステージの熱量。ステージの熱量に全て飲み込まれてしまっている。
あまりの爆発に耐え切れなくなり、自分の思考が止まってしまっているのが分かった。
それきっと僕だけじゃなくこのステージを見ている人全員に言えることだろう。

思考が止まり、熱い重い言葉たちに触発されて目頭が次第に熱を帯びていく。その様子はゆっくり夏になっていくような感じだった。

チェスターが亡くなったこと。分からないことが多いけど、それでもあの子が好きだと分かればそれで良いということ。

客席のようにぐちゃぐちゃになった椎木知仁の感情が言葉という形に変わって伝わってくる。

『何か変われ、何か変われ』とがむしゃらにギターを掻き鳴らす姿はロックバンドの在り方を教えてくれた。

『お前は何が変わる?』
『何が変えられる?』
(正確には違うのかもしれない。ドラマなら再放送がつく。がこのバンドの、このライブはドキュメンタリーだ。全ては持って帰れなかった)

と客席に問う。
そのやり取りはまさに1体1のやり取りだ。
僕は今、まさに椎木知仁に問いかけられている。
僕はこのステージを見て何を変えられるだろうか。

椎木知仁が言葉を並べていく。

それは決して綺麗な形をしていないと思った。
不格好で不安定で、それでも少しずつ高く高く上に向かって乗せられていく。

目の前の景色を変えようとしてるマイヘアの姿を前に、僕は淡々と背中に汗をかいた。
猛烈な、怒涛の、あまりにもロックな勇姿を前に拳すらも挙げられない程に惹き付けられる。
涙で水面に浮かんでるように見えるステージに観て、僕は背中の汗を感じることしか出来なかった。熱かった。

沢山あげられた拳で、ステージが良く見えない。
拳の隙間から”何か変われ”とがむしゃらに叫びながら動き回る椎木知仁、それに沿うような熱いプレイをするやまじゅんとバヤの姿が見え隠れする。
変わりたい。
このステージを観てしまった以上、僕は変わらなければならない。
そんな気がした。
もっと自分が望む方向へ転がり続けなければいけない。
これはロックバンド My Hair is Bad のステージだ。
しかしこれは僕の人生の中では一瞬でしかない。
この一瞬で、何かが変わる。彼らがそれを望むなら、僕らにも変われる力があることを知っておかなければならない。
頭を叩かれたような感覚だった。
自分の好きな音楽に、頭を叩かれるのは初めての経験だった。

《フロムナウオン》が終り、最後の1曲《夏が過ぎてく》が始まる。
夏の情景をたっぷり含む曲だ。
暑い季節を彷彿とさせる熱い演奏の中に爽やかさと切なさが輝く。

それなのに僕は立ち尽くすだけしか出来なかった。
僕はさっきの衝撃からまだ立ち直れていないからだ。
他のフェスよりも短い、25分という持ち時間。
それなのにマイヘアは僕の中に”あと”を残してステージを降りていった。
左腕に目をやると、リストバンドをしていたせいで1部だけ色の変わってしまった日焼けあとが見える。

この日焼けあとがいつか消えてしまっても、僕がマイヘアに爪あとを残されたことは消えないだろう。
7月も気付けば半ばになっている。
年齢も思い出もどんどん増えていく。
増えゆく思い出に埋没されないように、僕はこのライブを書き残す。
忘れてしまってもここでみた、聴いた、感じたものを一生思い出せるように。
時間が流れていく。ゆっくりと夏が過ぎてゆく。

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